124 モリターナルの血
「えーと、カナデさん。そちらの赤い方はどなたでしょうか」
サクラさんは、個性的な顔立ちだとでも思っているのかな。
「レームスさんが1000年前に作ったゴーレムです。あの国ではロボットと呼ばれています」
「うち、人型のゴーレムを見るのは初めて!」
シンティが飛びついた。ペタペタそこら中をさわっている。うん、ディーラさんとシンティは姉妹だ。間違いない。
「名前は1号だ。あと98体同じのがいる」
「マジですか。すごい。このロボット、自立型ですね」
「エル、すごいな。わかるのか」
「シオン教授に聞いたことがあるんです。自立型のゴーレムが存在するって」
ん、まてまて、なんでシオン教授が知っているんだ。1000年前の発明だぞ……。そうか、シオン教授も探求者か。
「こいつは自分で考えて動くことができる。探求者の命令も理解できる。そして、1号は味方だ」
「敵の本拠地に味方がいると言うことですね。心強いです」
はは、サクラさんにかかるとみんなお友だちだよ。
「状況を説明する。チャルダンとイディアがカロスト王国の兵士といっしょに神都の壁で攻防戦をしている。たぶんだが、そろそろ決着が付くはずだ」
「社長、聞こえますか」
おう、いいタイミングだ。
「終わったか」
「はい、鉄砲付きは全て破壊しました。操縦者も拘束してあります」
「けが人はいるか」
「兵士達が、自分で転んですりむいたぐらいです」
士気が上がっていたからな。力が入りすぎたか。
「イディアは何をしている」
「兵士達をねぎらっています」
本当に成長したな。立派な指揮官だ。
(こちらも終わったぞ)
つくも(猫)からの念話だ。壁抜けが必要かもしれないからと、イグニス達に付いていった。気配りのできる猫だ。
「サクラさん、行方不明者の方の保護も終わったようです」
「いよいよね、乗り込むわよ」
「はい!」
仲間達の声が車内に響いた。
ベニザクラ号の後には5000人のストラミア帝国兵士が5列縦隊で行進している。かなり長い隊列だ。
神都の壁には直ぐに到着した。攻撃してくるロボットも兵士もいない。
「セルビギティウムの旗を掲げなさい」
「了解しました」
エルがボタンを押すと、四隅からポールがスルスルと伸びていき、シュパッと旗が広がった。
これで、この車両はサクラシア様専用車である。どんな権力者でも、手出しをする事はできない。
神都へ続く門は開かれている。ベニザクラ号は旗を掲げて堂々と進んでいく。
1000年間で初めて、セルビギティウム一族が入都した瞬間である。
チャルダン達がいた。3000人の兵士達も直立不動で出迎えている。イディアがいた。うん、大将の貫禄が出ている。
兵士達の数は8000人に膨れ上がった。
先頭がベニザクラ号、その後にイディアを先頭としたカロスト王国の兵士達が縦隊を作る。その後ろに皇太子が乗る馬を先頭にした5000人が行進していく。
ここから大聖堂がある場所まで約50キロメートルある。時速5キロほどのゆっくりな行進だ。約10時間はかかるかな……。
そんな悠長なことしていられるかぁー!
「サクラさん、全員を風の道で運びましょう」
「そうよね、私もゆっくりすぎるかなーって思っていたの」
「ホーク、皇太子に伝令だ。風の道で一気に行くと伝えてくれ」
「わかった」
鷹がソフィアの肩から飛び立った。
「風の道」
「神力風の道重ねがけ」
紅色の風の道に銀色の渦が重なった。約1600メートルの隊列をすべて飲み込みこんだ。
すまん、気持ちが悪くなっても恨むな。
「出発します」
サクラさんの声と共に、周りの景色が後に飛んでいった。
時速100㎞で移動をする。それ以上だと兵士全員がキッと気絶する。怖い兵士は目をつぶっていろと伝えてはある。後は自己責任だ。
30分で大聖堂が見える場所まで移動ができた。
「止まります」
ピタッと止まる。風の道も解除をした。意外なことに、ほとんどの兵士が喜んでいた。
大聖堂前にはイグニス達がいた。つくも(猫)もどや顔だ。激しく尻尾を振っている。
兵士達の姿はない。どこかに隠れたのだろう。
「ねこちゃんお手柄ね」
サクラさんに抱きしめられ、喉をゴロゴロ鳴らしている。
「イグニス、保護した人たちはどうしている」
頭をボリボリかきながら、少し考えていた。
「あー、何て言うか、赤いやつが守ってくれている」
「レームスさんのゴーレムだよ。味方だ」
そうなのか? という表情だ。
「カナデさん。準備ができました」
エルの前には、スピーカーがついた振動波発生装置が置いてあった。
「さて、派手に行きますか」
マイクを手に取った。
「ナダルクシア神国の神官達よ。聞こえているか。今直ぐ全ての武装を解除して姫の前でひれ伏せ」
かなりの大音量で呼びかけている。聞こえているはずだ。さて、どんな反応をするのかな。
バラバラと鉄砲を持った兵士といっしょに身分の高そうな服装をした者達が出てきた。あれが神官達だろう。
「ふふふざけるな、一方的に攻めてきて何がひれ伏せだ」
「そうだ、ひれ伏すのはおまえ達の方だ」
「ここにいる方が、偉大なる教皇様だ。ひれ伏せ」
兵士達が一斉に銃口をベニザクラ号に向けた。
チン!
刀を鞘に収める音と共に、鉄砲はバラバラになっていた。
「カナデさんに銃を向けるとは、なんと愚かなのでしょう」
あれ、サクラシア様じゃないの? まあいいか。
「どうする。自慢の鉄砲が使えなくなったぞ」
「く、どうなっている」
「兵士達よ。でてこい」
ぞろぞろと、手に剣を持った兵士達が出てきた。3000人という所か。
「騎士よ。紋章を掲げなさい」
「イエスマイロード」
「魔法陣展開 紋章召喚」
ベニザクラ号の側面にセルビギティウムの紋章が浮かび上がった。
「もう一度問う。武器を捨てて、全面降伏せよ」
「セルビギティウムがどうした。ここは1000年の歴史を持った神国だぞ。こちらの方が格式が高いと言うことが何故分からない」
相手に降伏の意志無し。ならば遠慮はしない。
サクラさんを見た。うなずいた。
「ニクス、お仕置きよ!」
「おおせのままに」
真っ赤な小鳥が姫の肩から大空に飛び立った。
小鳥の神力が膨れ上がった。一瞬で真っ赤に燃えた火の鳥になった。
「セルビギティウムの名の下、姫の命により、フェニクニシス・アルモティアが炎の鉄槌を下す」
ピエェェェェェェェェェェェー!
ドドドドドドドドッカァァァァァァァァン!
巨大な火柱が雲を引き裂いた。
きっと、全ての国からこの火柱が見えているはずだ。
「ヒヒヒェェェェー」
ナダルクシア神国の神官、兵士、ストラミア帝国の兵士達が空を見上げたまま身動きひとつできないで突っ立てた。
カロスト王国の兵士は、直立不動で平常心だ。
火柱が余韻を残しながらゆっくりと空に飲み込まれていった。
「もう一度問う。全面降伏せよ」
火の鳥が炎を纏ったまま、ベニザクラ号と神官達の丁度真ん中当たりに舞い降りてきた。
ゴゴゴゴー、一瞬だけ大きく燃え上がった。
「ひえー」
「たたたたすけてくれー」
「降参だ。いや全面降伏だ」
神官達全員がひれ伏した。兵士達もつられて、手に持っていた剣を放り出して地面に顔をこすりつけた。
「教皇は誰だ」
全員が1人の青年を指さした。
「違う違うんだ。おれは代理だ。本物は中にいる」
その男がそうわめき散らした。
えっという顔で、神官達がその男を見た。
あーあ、何か事情がありそうだな。後で揉めるぞこの人達。まあ、おれ達には関係ないけどね。
「本物はどこにいる」
「地下だ。そこに聖域がある」
「案内しろ」
「無理だ、おれでは入れない。入り口に結界がある」
「どんな結界だ」
「『モリターナル』の名を持つハイトリプルしか入れない」
なんだと、1代目の名前か。
クエバを見た。
「わかった。私も行く」
「ソフィア、クエバの護衛だ」
「はい」
「他の者はここで待機だ。こいつらは全員拘束しておくように」
「了解しました」
カロスト王国の兵士達が一斉に返事をした。手には縄を持っている。何て手際がいいのだろう。チャルダンの指示か。
「サクラさん、つくも(猫)。いっしょに来てくれないか」
「わかった」
猫も了解のようだ。トコトコ歩きだした。
サクラさんが歩きだすと、小鳥の姿に戻ったニクスが肩に止まった。
先頭を歩くのは1号だ。どうやら場所を知っているらしい。
ガチャリ、ガチャリと1号が進んでいった。
その後を、サクラさん、クエバ、ソフィア、そして私と猫が着いていく。
大神殿のホールに着くと、1号が壁に掛かっていた1枚の絵画を額縁ごとずらした。そこには、日本ではおなじみのテンキーのようなものが埋め込まれていた。
「アンゴウ ハ エンシュウ リツ デス ゴジュウ ケタ デ カギ ガ デマス」
全員が私を見た。はい、やります。
「3.14159 26535 89793 23846 26433 83279 50288 ……」
カチリと音がして、小さな穴の開いた板が出てきた。
「モリターナル ノ チ ガ ヒツヨウ デス」
クエバがうなずき私に手を差し出した。なんだ?
「とげ」
はい、すみません。気が利きませんでした。
例の棘を渡す。
血を一滴、小さな穴に垂らした。
何もなかった壁に線が走った。
スーとドアが両開きで開いた。
下に続く階段が見えた。いや、エスカレーターだ。
私達が近づくと、自動で動き出した。
尻込みする仲間。私をじっと見ている。
「大丈夫です。階段に乗ったまま動かないでください」
そう言って、1つの段にそっと乗る。そのまま下に運ばれていった。
恐る恐る足をつけていく仲間たち。
地下3階ほどの深さだろう。そこまで降りると、エスカレータは地面に吸い込まれていった。
そこには、紅色に輝く魔法陣があった。
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