122 不死の兵士
「ソフィア、ホークに侵入経路の案内をお願いしてくれ」
「わかりました。ホーク、人がいない場所を探して」
鷹がパタパタと舞い降りてきてソフィアの肩に止まった。
「もうさがしたよ。ここから9時の方向10000メートルに、森がある。そこなら人型もいない」
なんと、巡視があるのか。なるほど、リーウスがいても見つかるわけだ。
「よし、行くぞ」
「はい」
コンクリートに似た壁の向こうには、確かに森が広がっていた。
「飛び越えるぞ」
「はい」
壁の高さは3メートルぐらいだ。今のソフィアなら軽々と飛び越えられるだろう。
「かなり広い森だな。これなら見つからずに進めそうだ」
「森を抜けたところに湖がありその先に建物があったよ。1時の方向でだいたい50000メートルぐらいだよ」
50キロメートルか、時間は惜しいな。
「ソフィア、風の道で行くよ」
「はい」
「神装力第三権限開放 神力風の道 認識阻害発動」
透明な風の道が北北東に伸びていった。
「見えた」
ぴったと止まる。上空から確認すると三日月の形をした湖が見えた。弧の部分に日本でよく見かける教会のような建物が見える。その周りには、同じような形をした長方形の家がいくつも並んでいる。
日本ならマンモス団地って所だな。素材はやはりコンクリートに似ている。
赤い人型ゴーレムが動いていた。操っている人間はいない。無線による操縦か人工知能のようなもので動いている可能性が高い。やっかいだぞ。
「あの人形はやっかいだ」
「どうしてですか」
「自分の判断で動ける可能性が高い。人間の兵士と同じだ。そして、あの人形には恐怖という感情がない。動けるかぎり攻撃をしてくる」
「まるで不死の兵士ですね。確かにやっかいです」
「高性能の赤いやつはざっと10体という所だな」
赤いやつの周りには、片腕に鉄砲が付いた灰色の人型が10体ほどいる。多分だが赤いのに従っているのだろう。
「赤い色をした人型が司令官だ。破壊するぞ」
「わかりました」
さて、あいつらにも認識阻害は通用するのだろうか。リーウスが発見された事を考えると、効果はないと見た方が無難だな。
「ソフィア、認識阻害は通用しないと思え。おれから絶対に離れるなよ」
「……はい。もちろんです!」
ん、やけに嬉しそうだな。
「ホーク、おれとの念話も可能か」
「できるよ。もう繋がっている」
よし、ならば問題ない。
「空から赤い人型の場所を教えてくれ」
「任せて」
鷹が大空に向かって羽ばたいていった。
静かに湖の湖畔に着地をした。人影は見えない。戒厳令のようなものが発令されているのだろう。みんな家に閉じこもっているはずだ。
「ソフィア、相手は生命がないただのゴーレムだ。遠慮はいらないからさくっと破壊してくれ」
「どこを切ればいいのですか」
「普通なら頭の部分に知能の元があるはずなんだが、一体切ってみるしかないな」
「わかりました」
おれは後方支援だ。切るのは剣士に任せる。
丁度、湖のほうに近づいてくる赤い人型が見えた。
チン!
鞘に刀を収める音がした。いつ切った。おれでも分からなかったぞ。
人型の首がごろりと落ちる。人ではない、分かっているが気持ちが悪い。生身の人間では絶対に無理! やはり戦闘は苦手だ。
人型が再び動く気配はない。思考回路は頭のようだ。
「ソフィア、首を落とせば動きが止まる。他の人型でもいけそうか」
「はい、問題ないです」
その時だった、小さな固まりが建物の影から飛び出してきて、赤いゴーレムに抱きついた。
「お願い、この子を壊さないで」
小さな女の子だった。白い服を着ている。
でも、ゴーレムを壊すなとはどういうことだ?
パン!
火薬が爆発する乾いた音がした。
ソフィアが反応してしまった。子どもに覆い被さっている。
瞬間自動神装結界が発動した。
鉄の玉は結界に弾かれて湖のほうに飛んでいった。
くそ、やってくれたな。ゆるさん!
灰色の人型がゆらゆら揺れながら近づいてきた。
10体いる。そのゴーレムが一斉に銃口を私達に向けた。
チン!
弾は一発も発射されなかった。代わりに銃口が付いていた腕が肩口からなくなっていた。
「子どもを守るのは大人の役目です」
ソフィアが鞘から片手を離しながらそう言った。
いつもおれがジェイドに言っていた言葉だ。
何だろう、ソフィアが急に身近に感じられた。仲間意識とは違う何かだ。日本社会の倫理観を彼女から感じた。
この世界の人たちがあと数百年かけて積み上げていく高度な文化で花開く価値観のはずだ。もしかして、おれの影響なのか……。
「カナデさん。この女の子が何か言いたいみたいです」
女の子がじっと私を見上げていた。
「灰色のロボットは悪い子なの。でも、赤いロボットはいい子なの」
ん、どういうことだ。
「ねえ、いい子って。どんな風にいい子なの」
女の子に優しく話しかけているソフィアが、日本の家族、私の姉と姿が重なってしまった。
「私を助けてくれるの」
泣きそうな顔をしながら言葉を絞り出す女の子。
「ボサボサミイラのおじちゃんがいなくなったの。そうしたら、神官達が急に怖いお兄さんになってしまったの」
…… ボサボサミイラはグライヒグのことだな。
「レームスおじいさんのお世話をしていた大人達がみんな捕まっちゃったの。わたしのお父さんとお母さんもよ」
女の子の目からポロポトと涙が溢れ出した。
「赤い子が私を守ってくれたの」
「うわーん」
女の子は、耐えきれなくなったのか泣き出した。
状況が分からないぞ。赤いのは味方なのか。どういうことだ。
「ソフィア、気をつけて。白い服を着た兵士が剣を持って近づいてくるよ」
おれにもその念話が届いている。
「神装結界 認識阻害発動 適用女の子」
赤いゴーレム、いや、女の子はロボットと呼んでいた。
赤いロボットは、私のアイテムボックスに転送した。隠れ家でレームスさんに確認してもらおう。
バタバタと、30人位の白い服を着た男達が走ってきた。
「なんだ、子分どもがみんな腕を切られているぞ」
「指令ロボットはどこに行った」
「くそ、あいつがいないと子分どもを制御できないぞ」
「何にしても、侵入者だ。警報をならせ」
「わかった」
1人の男が建物のほうに走って行った。
「くそ、一体どうなっている。急に赤いロボットがどこからか出てきたと思ったら、子分どもまでそいつに従うようになってしまった」
「無線型はみんなそうだ。有線型はまだおれ達の制御下だから何とかなっているが、赤いやつは手に負えないぞ」
「ああ、人間を攻撃できないように設定されている。あれでは侵入者達と戦えないぞ」
異常がないか一通り周りを見回ってから男達は建物のほうに帰って行った。
なるほど、だいぶ分かってきたぞ。レームスさんの探求者としての意識が覚醒したことで、赤いロボットも目覚めたと言うことだろう。
さて、赤いのは敵ではない。なら、やりようがありそうだな。
ウーゥ ウーゥ ウーゥ ウーゥ ウーゥ ウーゥ
大きな音を響かせて警報音が神都中に鳴り響いていた。
次話投稿は明日の7時10分になります




