121 神都の壁
「イグニス、状況はどうなっている」
ベニザクラ号の中で緊張が走っている。
「すまん、少し舐めていた。おまえが言っていた人型ゴーレムが攻撃を仕掛けてきた」
「行方不明者の捜索はどうなった」
「リーウスが場所は突き止めている」
「わかった。作戦を考える。神装結界を展開させたまま待機だ」
「了解」
3000メートルぐらいなら通信できる通信機をイグニス達には持たせている。
偵察に出ていた『風の森』からの緊急通信が入ったのだ。
「レームスさんの話しでは、800年前のストラミア帝国の快進撃は、ナダルクシア神国の技術を手に入れた当時の皇帝が行ったことらしい」
「どんな技術なの」
「シンティ、『魔木火薬』というものを使った武器だよ。後は、人型のゴーレムだな」
「魔木火薬は聞いたことがないですね」
エルが記憶をたどるが、どの文献にも出てきていないようだ。
「当時の皇帝がかなり厳しく秘密保持をしたからだよ。技術が洩れれば自分達の優位性がなくなってしまうんだ。必死だったと思うぞ」
「ぼくが皇帝でもそうするね」
「チャルダンさんに賛成です」
ジェイドも同じ考えか。
「製造方法は結界内の金庫に保管されているので新たに作り出すことはできないはずだ」
「ならば、その魔木火薬がなくなれば、武器は使えなくなるってことですね」
「そうなるが、どのぐらいの量が保存されていたかはレームスさんも分からないらしい」
「かなりの量が保存されていたと考えるべきです」
「チャルダンさん、どうしてですか」
「ソフィアさん、ダーチェリストが言った言葉を思い出してごらん。あの兵器には飛んでもらわなければいけないと言ったんです」
「ええ、その兵器を飛ばすために必要な燃料、つまり魔石火薬は、莫大な量が必要なはずです」
「ジェイド、わかったぞ。師匠に攻撃をしている変な人型が使っている武器は、そんなに燃料を使わないんだな」
「イディアさん、その通りです。きっと、数十年戦い続けるだけの量があると考えるべきです」
「チャルダン、おまえならどう攻める」
「社長、殲滅か占領かで戦術が変わります」
こいつは時々怖いことを言う。
「占領だ」
「時間があれば、ストラミア帝国とカロスト王国を合わせた1個師団で取り囲み精神的に追い詰めます。ですが、今回は短期決戦でないと行方不明者の命が危険です」
「その通りだ、短期決戦なら私の部隊の出番だな」
「はい、イディア大将に活躍してもらう事になりますね」
イディアの闘志が燃え上がった。少し心配かも。
「カロスト王国の兵士の士気は高いです。期待できそうですね」
ソフィアの闘志も静かに燃え上がっているな。こっちは心配ない。
「ストラミア帝国は待機だな。急造部隊だから連携が心配だ」
仲間達がうなずいた。見栄の固まりのうるさい上級貴族指揮官達はみんな拘束した。今の指揮官は、融通の利く優秀な下級軍人だ。言うことを素直に聞くだろう。
「作戦はこうなります。人型は、レームスさんが発明したゴーレム技術を使った兵士でしょう」
入り口の町のC級昇格試験で使用された、『まっすぐ』のゴーレムと同じ技術になる。製造方法は厳重に保管されていたはずだ。
1000年前にレームスさんが開発した技術が、冒険者ギルドでは密かに伝承されてきたと言うことになる。きっと、トリコン様の守護獣である『ルーサス』様が伝えたのだろう。
「あのゴーレム技術は優秀です。人間の兵士よりも手強いはずです」
「人間でないなら、手加減はいらないわね」
ソフィアが怪しく微笑んだ。ちょっと、ドキッとするような美しさがある。
「イグニスの連絡とホークからの情報では、1個師団程度の人形がいるぞ」
「カナデさん、あの国が強気な発言をしていたことに納得です。ストラミア帝国でも手を焼く戦力ですね」
ジェイドの言う通りだな。数千年は時代を飛び越えた技術になる。
「ええ、そして、強力な武力をもっている相手は絶対に攻め込まれないと思い込んでいるはずです」
仲間達がニヤリと笑った。
「その人型は殲滅対象でいいですよね」
ソフィアとイディアが嬉しそうに愛刀を持ち上げていた。
「ええ、全て破壊してください。それで相手の心は折れます」
「私の出番はあるの」
「サクラさんには、降伏勧告をしてもらいます」
「任せて、そういうの得意よ!」
姫のやる気スイッチがオンになった。
「私の出番なのか?」
「ええ、派手な火柱お願いね」
サクラさんが真っ赤な小鳥の頭を優しく撫でた。
「イグニスさんたちには、人質の保護を同時進行でしてもらいます」
「わかった。ジェイド、補足はあるか」
「ストラミア帝国への連絡はどうやってしますか」
「おお、なるほど。チャルダン何か考えはあるか」
「サクラさんとシンティさんとエルさん、そしてジェイドは、ストラミア帝国の陣地でベニザクラ号に乗ったまま待機です。人型を殲滅させたら連絡します。兵士達といっしょに堂々と進軍して入国してください」
「火柱はどこで上げるの」
「相手の本拠地でです。ストラミア帝国の兵士が見ている前でドドーンと派手なのをお願いします」
チャルダンがニヤリと笑う。サクラさんもクククと笑う。
「チャルダン、容赦ないわね。ストラミア帝国の兵士の心も折るつもりね」
「ええ、念には念を入れます。絶対に勝てない相手だと思い知らせる必要があります」
あの時は、訳が分からないままに負けたので、本当の実力差を分かっていない兵士もいるだろう。さすがはチャルダンだ、ちゃんとその事も分かっている。
「よし、この作戦で行く」
全員が力強くうなずいた。
イディアは、カロスト王国の兵士が待っている場所に向かった。これから気合いを入れるのだろう。張り切っている。
サクラさんたちを乗せたベニザクラ号は、皇太子殿下達がいる場所に向かった。シンティが状況を説明するようだ。側近モードのシンティは頼りになる。任せたぞ。
「イグニス。作戦を伝えるぞ」
「待ってたぞ。こいつらやっかいだ。早く応援を頼む」
魔物とは違うからな。調子が狂うんだろう。珍しく弱気だ。
「おれ達は、その戦場から2000メートル後方にいる。今からおれとソフィアとチャルダンでそちらに援護に向かう。おれ達が到着したら、カロスト王国の兵士が来るまで共同で防衛に当たる。兵士達が到着したら、『風の森』は行方不明者の保護に迎え」
「了解した」
さて、行きますか。
「身体強化だ。走るぞ」
「了解、魔法陣展開『神装力』」
「身体強化『脚力』」
「神装力第三権限開放 身体強化 脚力」
時速30㎞で目的地を目指す。約4分で到着するだろう。
ナダルクシア神国の神都には壁があった。
地球ではおなじみの建築材、コンクリートによく似た素材で作られている。
イグニス達は、クエバが作った土豪に身を潜めながら、マーレが弓矢で応戦をしている。無差別攻撃も選択できるのだが、壁の向こうに人がいて、死傷者でもでたらやっかいだ。
壁から身を乗り出した人型を狙い撃ちするのがやっとのようだ。
「すまん、遅くなった」
「いや、さっき通信切ったばかりだぞ」
こんな時でもイグニスは平常心だ。頼りになる。
「状況はどうなっている」
「マーレが100体ほどは狙い撃ちで仕留めているが、後から後から湧き出てくる。切りがない」
「おいらの索敵では、3000体は中にいるっす」
「ここで3000体ということは、本陣にはもっといるとみていいな」
「ホークの報告では、8000体はいるようです」
参ったな、想定より多いぞ。
「ソフィア、中に人はいるか」
「はい、人型ゴーレムを操作している技術者がいるようです」
人工知能ではないな。なら、なんとかなるか。
「ジェイド、聞こえるか」
「はい、聞こえます」
「国境500メートル手前まで、進軍させておいてくれ」
「わかりました」
「あと、10分ほどでイディアの部隊が到着する。ここの戦闘はそいつらに任せる。チャルダン、残って指揮を頼む」
「了解したよ」
「兵士達の盾は、つくも(猫)の神装結界が付与されている。あの武器の玉でも貫通はしない。あれは遠距離攻撃用だ。近づいてしまえば刀のほうが強い」
「わかった、盾で身を守りながら攻撃をする布陣にするよ」
人型ゴーレムが持っているのは魔木火薬を使った鉄砲だ。単発なので乱戦になれば刀が有利になる。
それに、盾に付与した神装結界は、頭や胴体を守る簡易的な自動発動になっている。怪我はしても致命傷になる事はない。
「おれとソフィアで、本陣の敵はできるだけ減らしておく。ここの殲滅が終わったら駆けつけろ」
「社長、一応言っておきます。気をつけてください」
「ああ、任せろ、ソフィアにも指一本触れさせない」
ん、ソフィアが赤くなっているぞ。志気が上がっているのか。
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