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120 敗戦国




 ストラミア帝国皇帝からの指名依頼は冒険者パーティー『紅桜(べにざくら)』へのはずだった。


 なので、この国にはC級冒険者とC級案内人という設定できている。本来、C級は王族レベルの依頼は受けられない。


 例外として高ランクパーティーとの共同受注になる。『風の森』はA級パーティーなので条件は満たしているのだ。




「私はC級案内人としてこの国に来たんです。なんでサクラシア様やらなきゃいけないんですか」


 (ほほ)(ふく)らませてプンプン怒っている。かわいい。


「わかっている。だがな、軍務貴族のやつらが言うことを聞かなかったんだよ」


 皇帝でも軍隊の実権を握っている有力貴族には配慮せざるを得ない。まあ、仕方ないか。


「魔動機関貴族の力が弱まったので、ここで一気に自身の勢力を広げようと軍務貴族が欲を出したのだ」


「サクラシア様がなんで関係してくるの?」


 シンティが首を傾げる。おれもそう思う。


「それだけ、サクラシア様の名前の影響力が大きいのだよ。力でねじ伏せて思い通りに(あやつ)りたいと考えたんだろうな。(おろ)かだよ」


「でも、なんでカロスト王国の兵士まで出てくるのですか」


 ソフィアも、自国の兵士が迷惑をかけてしまったことに思うところがありそうだ。


「女王陛下が(あせ)った結果だ。魔動機関貴族が負けて自身の立場が危うくなった。ならば、軍務貴族にすり寄ろう。そう考えたということだろう」


 だろうな。ざまあみろだよ!


「でも、1個師団(いっこしだん)の投入はさすがにやり過ぎです」


 ジェイドが珍しく声を荒げていた。きっと、怖かったんだろう。6000人規模の兵士に囲まれれば、普通なら恐怖で動けない。


「軍務貴族派軍隊の参謀(さんぼう)は優秀だ。正確に『ベニザクラ号』と『風の森』の実力を分析(ぶんせき)している。その人数でなければ戦闘になったら死傷者(ししょうしゃ)が出ると判断した」


 うん、圧倒的な力でねじ伏せない限り、どちらにも負傷者が出る。もし、死傷者がでたら、戦いは感情論になってくる。話し合いでの和平は難しくなる。()にかなっている。


「その考え方には賛同(さんどう)します」


 ジェイドに冷静さが戻ってきた。我が隊の参謀も超優秀なのだよ。


「ぼくでもそうするよ。仲間が死ぬと感情で戦うことになるからね。戦いをやめるのが難しくなる」


 チャルダンも同じ意見のようだ。


「わかりました。2人がそう言うならその通りなんです」


 サクラさんも、この2人の参謀への信頼は()るがない。


「皇帝陛下」


「ベングだ!」


「……」


「ベング様」


「……なんだ」


 どうしてこの世界の為政者(いせいしゃ)は、おれに対してこういう態度をするんだろう。


「この後の決着のつけ方は考えてあるのですか」


「もう終わった。このおれがたくさんの兵士の前で(ひざまず)いて(ゆる)しを()うたのだぞ。それにだ、あの火柱を見た兵士達がおまえ達に敵意を向けると思うか」


 正論だ。恐れ入りました。


「兵士はそうですね。でも、貴族は違いますよ。見栄(みえ)の固まりです」


「カナデさんのいう通りです」


「うん、ぼくもそう思うね」


「おれが天下御免(てんかごめん)の書状を出す。そして、全ての貴族にその(むね)を通知する。もし違反したときは無礼打(ぶれいう)ちも許可する。さらに、貴族身分剥奪(はくだつ)の処置をする。これでどうだ」


「……」


「そちらにずいぶん都合がいいやり方ですね」


「そうですね」


 2人の参謀にジト目で見られても、全く表情を変えない皇帝陛下。(まい)りました。


「はー、分かりました。サクラさん、これでいいですか」


「つまり、お仕置き仕放題しほうだいって事よね」


 目がキラキラしていた。でも、ご機嫌は直ったようだ、良しとするか。


「はい、その通りです」


 サクラさんが小躍(こおど)りしている。


「それと、ベング様。これだけの仕事をしたんです。特別手当を期待していいんですよね」


 ジトーと、皇帝陛下を見る。


「あー、後で財務部のトップをそちらに向かわせる。相談してくれ」


 そう言って、ふっと視線をそらした。


 くそ、絶対にそいつが泣き落とし作戦で来る。よし、チャルダンの出番だ。任せよう。


「はい、わかりました」


 ナツメさん直伝のポーカーフェイスを貼り付け、そう返事をした。




迎賓館(げいひんかん)での接待をさせてくださいという、かなり本気の申し出をあっさりと姫が却下した。


 涙目になっていたが知ったこっちゃない。


 1個師団で襲ってきた相手をどうやって信用しろというのだ。


 チャルダンがそう説明したら。すごすごと引き下がった。


 さすがに玄関前は邪魔(じゃま)だからと、少し離れた林の中に移動する。完全宿泊型のベニザクラ号は、どの高級ホテルよりも設備も装飾も一流なのだ。


 さらに、つくも(猫)という料理長までいる。一流レストランの食事よりも美味しいのだよ。堅苦(かたぐ)しい接待など御免被(ごめんこうむ)る。


 褒美(ほうび)の交渉に行っていたチャルダンが帰ってきた。シンティとエルもいっしょだ。


「社長の読みが当たりました。最後は泣き落としできましたよ」


 チャルダンがリビングでくつろいでいた仲間達にご機嫌な顔でそう報告した。


 どうやら交渉はこちらの勝ちのようだ。


「向こうは、刀を全て破壊する必要があったんですかと、初めに高圧的な態度で臨んできたの」


「ええ、こちらが若造だからと()めた態度でしたね」


 エルとシンティもクククと笑いをこらえている。よほどおもしろい交渉だったようだ。


「ストラミア帝国の思想はそんなに簡単には変化しませんよ。社長の言うように100年の猶予(ゆうよ)期間は必要ですね」


「まあな、だが、貴族どもの勘違いには付き合っていられないぞ。力尽(ちからづ)くで来るやつらは全て排除させてもらう」


「で、交渉の結果はどうなったのですか」


 ジェイドが気になるようだ。自国の事情もあるからだろう。


「結論から言うと、全てこちらの要望を聞き入れてもらいました」


「任せて正解だったな」


 チャルダンが嬉しそうに笑った。


「まず、賠償金(ばいしょうきん)のことですが、こちらが望む土地の無償譲渡(むしょうじょうど)で決着がつきました」


「ククク、チャルダンたらひどいのよ。初めから戦敗国(はいせんこく)みたいな言い方で脅したのよ」


「いや、シンティ、本当に戦敗国になるぞ。1個師団の軍隊が襲ってきたんだからな。もはや戦争だぞ」


「相手にもその認識があることが態度で分かりましたからね。弱みにつけ込みました」


 うん、いいね。おれ好みの戦術だ。


「不当な手段で手に入れたエレウレーシス連合王国の魔道具や芸術品、人材の無条件返却も了承させました」


「これにはすごく抵抗しましたよ。よほどの大物が絡んでいますね」


「うちの場合のことを考えても、かなりの人材が拉致(らち)されているはずよ。許せるわけないわよ」


 シンティにしてみたらそうだろうな。クエバもそうだ。


「次に、カロスト王国の兵士達の処遇です。これも、全てこちらに一任するで了解させました」


「ソフィア、公女殿下の立場で命令してくれ。このまま、この国で待機させる。そして、ボンの私設軍隊にしてしまおう」


「はい、ボン様の味方は少ないです。あの火柱を見た兵士達はこちらの言いなりです。任せてください」


「マイアコス王国の特定貴族との関係ですが、こちらも全て関係を破棄(はき)し、今後は敵となるという文書を送るよう手はずをさせました」


「サクラさん、ゴネた貴族は全てお仕置き対象です」


「任せて!」


「ジェイド、これで国王に権力が戻るぞ。今までやりたい放題をしていたやつらの終わりの始まりだ」


「はい、父も兄も喜びます」


「ジェイド、よかったな。これで堂々と国に帰れるぞ」


「イグニスさん、何言っているんですか。ぼくはカナデさんの参謀であり入り口の町の冒険者ですよ。国になんか帰るわけないじゃないですか」


「お、おう、そうだな」


 イグニスが目をパチパチしている。クエバさんが後で頭を抱えていた。


 ジェイドの気持ちも理解できる。おれとしても、大事な仲間だ。一度マイアコス王国にみんなで行くか。王様達と話をしよう。


「最後にアルエパ公国のルキミア公爵家ですが、これは、ディーラさんがこちらで決着をつけると言っていましたので特に何もしていません」


「ええ、それでいいわよ。あいつらももはや後ろ盾は何もないの。ならば、我が家の敵ではないわ」


 シンティがもはやどうでもいいという態度で突き放し、


「ナダルクシア神国へはいつ行くの」


 と、聞いてきた。

 

「いま、兵士の再配置をしている。真色眼(しんしょくがん)で赤玉のやつらはみんな拘束したからな。それが落ち着いてからになる」


「社長、ならば無償譲渡予定の土地の視察にでも行きますか」 


「ねこちゃん印会社の建設予定地だな」


 チャルダンと2人でクククと怪しく笑うのであった。




 * * * * *




 数日後、全ての準備が整った。カロスト王国の兵士達もソフィアとイディアの命令の下で士気(しき)が戻った。もともと、今回の派兵には思うところがあったらしく、次期国王陛下の私設軍隊という立場に喜んで飛びついた。


 イディアが部隊の大将だ。なかなか似合っている。


 ストラミア帝国の大将は、皇帝の長男が担う。つまり皇太子だ。


 この2つの部隊は後方待機になる。イディアがゴネるかと思ったが、大将の立場が気に入ったようだ。素直に受け入れた。


 先行部隊の指揮はミラーシさんだ。いつ帰ってきたの?護衛のイローニャもいる。


 イグニス達はすでに偵察に出ている。ホークもいっしょだ。ソフィアと念話で話ができるので通信機の代わりになってもらう。本人も張り切っているからまあいいか。




 さて、ここで全ての因縁(いんねん)と決着をつけることになる。


 1000年間謎に包まれた国だ。一体何が待っている。




次話投稿は明日の7時10分になります

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