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119 炎の紋章




 クエバは足縫(あしぬ)いの魔法陣展開を()かない。兵士達は一歩も動けずに、気がついたら手に持っているのは刀の(つか)だけになる運命だ。


 しかし、この処置には感謝をしてほしい。へたに動くとイグニス達に刀ではなく体を切られてしまうかもしれないからだ。


 イグニスの魔法剣は、切るに特化した超高温タイプになっている。岩をも切り裂く高熱だ。兵士の薄い鉄の刀など草を切るようなものだろう。


「さて、()ずかしい事をさせられたのは、全部お前らのせいだからな覚悟しろよ」


 イグニスの体内魔力が膨れ上がる。魔法剣の温度もどんどん上がる。


 イグニスの体がぶれた。高速移動をしているためだ。


「ふー、あんまりやり過ぎると弟子の出番がないからな」


 イグニスが魔法剣を(さや)に収めた。バラバラと兵士達の剣が地面に落ちていく。切り口は真っ赤になり溶けていた。手に持っている柄も同じように熱を発している。


「うわ、熱い」


「手が焼ける」


 兵士達が悲鳴を上げて柄を地面に落とした。


 1個師団は6000人はいるだろう。1000人ほどが戦意喪失(せんいそうしつ)した。


 マーレさんはエルフ系なので弓が得意だ。神装結界で作った弓矢は無限に放てる。


「相変わらすやることが派手ね」


 そう言って、弓を構えた。


「一度の連射は10位でいいかしら。それ以上だと刀じゃないところも居抜(いぬ)きそうなのよね」


 魔物相手の無差別攻撃なら遠慮はいらない。兵士相手では気を遣う。


「神装結界イメージ弓矢、連射10本」


 マーレさんが空に向かって弓を放つと、()(えが)いて飛んでいく。その矢が、動けないままもがいている兵士の刀に直撃した。刀は音を立てて粉々になる。手に持っているのは柄だけだ。


「私は100人位でいいわよね」


 嬉しそうに上唇を舌なめずりをしているイディアに話しかける。


「問題ない。私が2000人位を受け持とう」


 イディアの剣もソフィアと同じ片刃の神力剣だ。日本刀に近い形状(けいじょう)をしている。


「師匠に恥ずかしい思いをさせたお前らの罪は重いぞ」


 イディアが抜刀した。


「魔法陣展開 神装身体強化 俊足(しゅんそく)


 イディアの姿が(かすみ)になった。


 霞が動く場所では、刀が次々に宙を舞っている。


 空中でクルクルと3、4回回転して、動けないでいる兵士の足下にグサリと刺さる。


「ひえー」


 次々に悲鳴が上がっていた。


「悲鳴を上げさせるなど、まだまだ未熟(みじゅく)です」


 ソフィアが片刃剣の柄に手を()えて構える。


「魔法陣展開 神力剣イメージ10本刀」


 持っている刀は1本だが、一振りで刃が10本あるというイメージだろう。


 チン!


 ソフィアが刀をぬいた気配はない。しかし、刀を納める音は聞こえた。


「は、何をした」


 手に持っている刀に変化はない。


「バカめ、かっこだけか」


 兵士が刀を振り上げると、バラバラとネギが輪切りになったように刀が崩れ落ちた。


「……」


 ポカンと口を開けたまま、柄だけになった刀を見上げていた。


 ソフィアが移動すると、


 チン!


 という音がする。その(たび)に100人ほどの兵士の刀が10個ずつの輪切りになり地面に落ちていった。


 チン!


 チン!


 チン!


 チン!


 チン!


 チン!


 チン!


 ……


 チン!


 ヒューーーーパタパタパタ。


 一羽の(たか)が舞い降りてきてソフィアの肩に止まった。


「ソフィア、もう剣を持っている兵士はいないよ」


「ホーク、偵察(ていさつ)ありがとね」


 ソフィアに優しく頭を撫でられた鷹は満足そうに足をたたんだ。


「何をしている。閣下(かっか)が見ているのだぞ」


 抜刀の命令を出した指揮官が怒鳴っている。


「ええい、情けない。おれが行く」


 司令官は足縫いの影響を受けていない。刀の柄に手を掛け歩きながら抜刀した。


「……」


 抜いた柄に刀は付いていなかった。


「なっ」


 もう一歩踏み出したとき、着ている服が下着を残してバラバラになり風に吹かれて飛んでいった。


「その格好で威張っても笑えるだけっす」


 リーウスがゆっくりと歩きながらこちらに戻ってきた。




「何をふざけている。えーい、カロスト王国の兵士ども、お前らも戦え」


 伝令士だろう。旗を振っている。


 建物の影からわらわらと新たに3000人ほどの兵士達が抜刀した姿で現れた。


「ニクス、紋章を掲げて排除(はいじょ)しなさい」


 サクラシア様が肩に止まっていた真っ赤な小鳥に命令をした。


「おおせのままに」


 パタパタと飛び立ち、空で神装力第三権限の神力を開放した。


 セルビギティウムの紋章が炎となって空に浮かび上がった。


 走っていた兵士達は、みな立ち止まり、炎の紋章を見上げていた。


 ピエーェェェェェェェー


 鳴き声と共に、紋章は炎を(まと)う鳥に姿を変えた。


「サクラシア様の(めい)によりおまえ達を排除する」


 炎の鳥が空からそう呼びかけると、羽を1回羽ばたかせた。炎の羽が矢となって兵士達に襲いかかる。


「あちちち」


「助けてくれ」


降参(こうさん)だ」


 兵士達は次々に刀を投げ出し、その場にうずくまった。


 ストラミア帝国の兵士達もまともな刀を持っている者は1人も残っていなかった。


「そこまでだ! 全員ひれ()せ、オーベリング・レイ・ナスマウラ皇帝陛下であるぞ」


 大柄な近衛兵と思われる男が叫んでいた。よく通る声だ。


 くそー、いいタイミングで出てきた。それに、さっきまで大笑いをしていたに決まっている。貼り付けた威厳顔の口元がヒクヒクしている。


 カロスト王国の兵士は皆、既に(ひざまず)いている。顔面は真っ青だ。中には失禁した者もいる。


  ストラミア帝国の兵士は、まだボー然としたまま立っていた。


「陛下が何故出てきた。ここは私の指揮下の兵士達だ。おまえたち、早くあの魔物を排除しろ」


 貴族が大声で命令を出す。しかし、動こうとする兵士はいない。


「何故動かん。処分されたいのか」


 さらに声を張り上げる上級貴族。ああうるさい。


「ニクス、警告しなさい」


「おおせのままに」


 ピェェェェェェェェー!


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴーーーーーー!


 その日、帝都(ていと)(たみ)達は、メガロケールス城から火柱が上がるのを目撃しただろう。その炎は、雲を切り裂き空高く登っていった。


 これにはさすがの狐皇帝もたまげたようだ。わずかに残っていた口元の緩みが消えた。


「ええい、(ひか)えおろう!。ここにおわす方をどなたと心得(こころえ)る。恐れ多くも大陸の象徴であるセルビギティウムの姫様なるぞ。頭が高い、控えおろう!」


 多言語翻訳君、遊んでいませんか?


「ええい、頭が高い、控えおろう!」


「ハハー」


 皇帝を含めた全ての者達がひれ伏した。


「オーベリング・レイ・ナスマウラよ、これはどういう訳ですか」


 サクラシア様が本気で怒っている。直球が放たれた。


「軍務貴族である『ガンザベル』の一存で行ったことです。今直ぐ処分を言い渡します」


「ガンザベルを大陸の姫君への反逆罪(はんぎゃくざい)で拘束せよ」


 いつの間にか出てきた。同じ(よろい)を着けた兵士達が、その貴族を含めた全ての上級貴族と指揮官達を拘束し、どこかに連れて行った。


「私への処分は、いかようにもしてください。全て受け入れます」


 皇帝陛下がそう言って静かに(こうべ)()れた。


「わかりました。謁見を望んでいましたね。許可しましょう」


 サクラシア様はそう言うと、シンティと共に次元渦巻(じげんうずまき)を通って静かに降下(こうか)していった。


「皇帝陛下これを身につけてください」


 ソフィアがねこちゃんペンダントを手渡した。このペンダントは1回限りの使い捨てになっている。


 皇帝にも次元渦巻(じげんうずまき)が見えているだろう。ソフィアに(うなが)されてその中に足を踏み入れた。


 先ほど大声を出していた兵士も続こうとしたが、結界に(はば)まれて前に進めない。キッと、イグニスを(にら)んで、


「中に入れろ!」


と、威嚇(いかく)をした。それを、8層の魔物にするような本気の威嚇で返すイグニス。


「な、……」


 恐怖で動けない近衛兵士。流れ弾を受けた兵士達は皆泡を吹いて卒倒(そっとう)する。


 そのまま、黙って次元渦巻(じげんうずまき)の前で仁王立(におうだ)ちをするイグニス。うん、格の違いが分かったかな。




「サクラシア様、本当にすまなかった。こうするしか方法がなかったのだよ」


 玉座(ぎょくざ)で不機嫌な顔をして、ずり落ちるのを必死で我慢している大陸の姫様が、鈴が転がるような声で、


「はー、わかりました。今回は見逃します」


と、ため息をつく。


 3分限定のサクラシア様モードが解除された。同じく側近モードが解除されたシンティが、


「陛下、紅茶の銘柄指定(めいがらしてい)はありますか」


と、尋ねていた。


「で、どういうことか、説明してくれるんですよね」


 姫が(まゆ)をピクピク動かしながら皇帝陛下に()()った。





次話投稿は明日の7時10分になります

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