118 メガロケールス城
ナダルクシア神国へは、ストラミア帝国かカロスト王国を経由しないと入国できない。
カロスト王国は、女王陛下が魔動機関貴族よりの思想を持っている。なので、我々にもよい印象を持っていない。当然そこからの入国は難しい。
ストラミア帝国は、エレウレーシス連合王国との関係が改善される方向で動き出している。当然、我々への待遇もよくなる。さらに、今回は皇帝からの指名依頼だ。堂々と乗り込めるのだ。
「いったん皇帝の所に行くんですよね」
「冒険者パーティー『紅桜』と『風の森』の立場でですよね」
サクラさんとジェイドが私に確認してくる。
「帝国ではそうなるかな」
「よかった、なら、変な待遇には成らないよね」
国賓として迎賓館にでも連れて行かれたらたまらないからな。シンティのこの態度もうなずける。
「だが、ナダルクシア神国へは、サクラシア様とそのご一行の立場で乗り込むことになるからな」
露骨に嫌な顔をする仲間達。でも、そうしないと入国が難しいのだ。
「ナツメさんがカルミア様が用意した親書を届けてくれた。何しろ、向こうから謁見を申し込んできたんだ。断れるはずがない」
どんな思惑があるかは知らないが、この機会を利用しない手はない。
「レーデルさんも、本気で怒っていますからね。容赦ない戦術です。ぼくとしてはおもしろいからイケイケですけどね」
「チャルダン、嬉しそうだな」
「社長、刺激のない人生なんてつまらないじゃないですか」
レーデルさんの戦術はこうだ。
サクラシア様として堂々と入国する。そして、サクラシア様の警護と称して、ストラミア帝国の小隊が配置される。
向こうは受け入れるしかない。
相手の出方次第では、得意の力業で鎮圧することになる。小隊の後ろには、もちろん後続部隊が配置されている。状況に応じてどんどん軍隊を投入することになる。
「おれ達の一番の役割は行方不明者の保護だ。『風の森』が専攻して調査をし居場所を突き止める。リーウス頼んだぞ」
「認識阻害の神装結界が使えるんす。楽勝っす」
「油断はだめ!」
クエバからのダメ出しが出た。
「レームスさんの発明はどうするの」
「皇帝から全てこちらに一任するという命令書が軍隊に出る手はずになっている。介入はさせない」
「しても全て壁の装飾品、ククク」
クエバが怪しく笑う。まあ、つくも(猫)がいるのだ、そうなるな。
ベニザクラ号はゆっくりと皇帝が住まう『メガロケールス城』の城門前に着陸した。
このお城の屋根は全て円錐型をしている。芸術の探求者であるネストメルさんに言わせると、
「ストラミア帝国は好きになれないけど、あのお城は美しいの。一度は見に行ってご覧なさい」
ということだった。
「ネメルさんが褒めるわけだ。本当に美しいな」
円錐型の細長い塔がいくつも連なってそびえ立っている。シンメトリーになっている部分とシンプルな形の連続の部分が何かの方程式で規則正しく並んでいるのではないかと思えてくる。
「冒険者パーティー『紅桜』とA級冒険者パーティー『風の森』の皆様ですね。お待ちしておりました」
明らかに上級貴族だと思われる男が出迎えた。そして、やけに言い方が丁寧だ。嫌な予感がする。
「皇帝陛下が謁見を求めています。ご許可いただけるでしょうか」
嫌な予感的中だ。サクラシア様としての登城を求められているようだ。何かあったな。
サクラさんと目が合った。「どうする?」と言う感じだ。これは、受けるしかない。そう目で合図をした。
「わかりました。許可します」
「では、謁見会場にご案内します」
その貴族が恭しく礼をして、下車を促した。門の中には馬車が見える。それに乗り換えろと言うことなのだろう。
「その必要はないです。このまま入場します」
「セルビギティウムの旗を掲げなさい」
「了解しました」
エルがパネル版を開けてスイッチを押す。ベニザクラ号の四隅からポールがスルスルと伸びていく。伸びきったところでシュパッと旗が広がった。
風に吹かれて紋章が揺れている。これでこの車両はサクラシア姫の専用車だ。この名を名乗った姫に手出しができる組織はこの大陸には存在しない。
「な、魔物が引く車両を城に入れるわけがないだろう。こいつを止めろ」
その貴族が豹変した。顔を真っ赤にして近くにいる兵士に命令を出した。
「神装結界」
通常よりも広めの結界を張る。兵士達は、その結界に阻まれ近づけない。
「進みます」
ベニザクラ号は、堂々と『メガロケールス城』に入場した。
わらわらと、武装した兵士達が出てきた。車両を止めようと近づくが壁に阻まれる。前に立ち塞がるが、なぜか船が波を押し分けるように兵士が分かれていく。
これには訳がある。結界を船の先端のような形で展開させているのだ。
兵士達は、何も手出しができないまま見送るしかなかった。
お城へ入る扉にも、洗練された彫刻が刻まれている。その前でベニザクラ号は静かに停車した。
「ベニザクラ『白銀』完全宿泊型よ」
シュパッと車輪が触手に変わり、車体がどんどん広がっていく。縦横10メートルの広さに広がったと所で触手が止まりそのままベニザクラ号を支える土台になる。
「騎士よ。紋章を召喚しなさい」
「イエスマイロード」
「魔法陣展開 紋章召喚」
紅色だが白銀に輝く神秘的な色の壁に、セルビギティウムの紋章が4つの壁全てに浮かび上がった。
そこには、縦横10メートル高さ5メートルの神秘的な姿をした姫の宮殿がそびえ立っていた。
いつの間にか、ベニザクラ号は、1個師団規模の兵士に囲まれていた。これだけの兵士が集まれるこの宮殿の広さにも呆れてしまう。
皇帝が出てくる気配はない。
なるほど、あの狐め。全て丸投げしたな。
「サクラさん、これはお仕置き仕放題です」
ニヤリとしてそう言うと、
「やっちゃいましょう」
天然少女が嬉しそうだ。あれのお披露目ができるからだ。
他のメンバー達も、ソワソワし出した。
「なあ、カナデ、本当にやるのか。おれなー、かなり恥ずかしいんだが……」
イグニスだけが躊躇している。他のメンバーはやる気満々だ。
「イグニス諦めろ、これも仕事だ」
仕事だと言われればやるしかない。覚悟は決まったようだ。
「では行きますか」
ベニザクラ号の屋根になる壁に白い渦が浮かび上がった。兵士達からは見えないだろう。だが、どこかでニヤニヤしながら様子を伺っている皇帝には見えているはずだ。
そこから、私とサクラシアモードの少女が湧き出す。
「兵士達よ。このお方がセルビギティウムの姫と知っての狼藉か」
あれ、多言語翻訳君。本当にこの変換で大丈夫なの?
兵士達が戸惑いだした。
「何をしている。魔物が城に侵入してきたのだ。討伐しろ」
先ほどの偉そうな貴族が喚いていた。
「閣下の命令だ、全員抜刀せよ」
あーあ、抜刀しちゃったよ。ソフィアとイディアが大喜びしているだろうな。
「もう一度忠告だ。刀を納めてひれ伏せ」
私の言葉を聞く様子はない。
「やれ!」
貴族が勝ち誇ったような顔でそう命令をした。
兵士達が動き出そうと一歩踏み出したときだ。
「魔法陣展開 神装力足縫い」
クエバが次元渦巻から湧き出てきて魔法陣を展開させた。
兵士達の足が地面に縫い付けられたように動かなくなった。クエバの神装結界が蜘蛛の巣のように地面に広がっているのだ。
「仕方ないですね。お仕置きしましょうか」
姫がねこちゃんペンダントに手を添えた。
「アーマー装着」
黒いリボンが姫の体に巻き付いた。そして、足下から装甲板が転送され張り付いていく。
10秒ほどで、紅色だが白銀に輝くフルアーマー姿の姫がその場に君臨していた。
「パネルオープン 収納」
兜の部分が収納され、姫の桜色の髪が風に揺れた。
「サクラシアが命じます。全員装着しなさい」
「イエスマイロード」
4つの壁に浮かび上がっている紋章部分に白い渦巻ができた。兵士達は認識できない。そこから、イグニス達が飛び出してきた。
きっと、紋章から飛び出してきたように見えているはずだ。
「アーマー装着」
全員がこの言葉を唱えた。
黒いリボンが飛び出し、体に巻き付く。そこから色とりどりの装甲板が転送されていく。
度肝を抜かす演出の為、全てデモモードでの装着だ。
シンティは黄色、イグニスは赤色、マーレは緑色、クエバは黒、リーウスは灰色だ。ソフィアは薄紫のメタル色、イディアは白だ。
エルは室内で待機。ジェイドは子どもだ。戦闘には参加させない。当然だ。チャルダンも今回は見学だ。
「全て排除です」
「す○さん、か○さん、懲らしめてやりなさい」そんなイメージでサクラシア様が命令をした。
「イエスマイロード」
狙うのは抜刀済みの剣だけだ。全て破壊する。
フルアーマー姿のイグニス達も抜刀をした。
シンティはサクラさんの隣に飛び上がって並ぶ。側近モードのシンティはかっこいい。
さて、皇帝よ。思惑通りに動いてやるがこの借りは大きいぞ。褒美には何をもらおうか。覚悟しておけ。
次話投稿は明日の7時10分になります




