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116 レームスさんの後悔




 火山は、火の鳥がワイバーンを封じ込めるために作ったダンジョンだった。一応、ダンジョンマスターになるのだろう、創造主がいなくなったら消滅する運命にある。


 しかし、島に棲息(せいそく)している鳥たちは、周りの島へはまだ行けない。何故なら限界が来ている島だからだ。魔物でもない鳥たちは生き延びることはできないだろう。


 来年の2月には、入り口の町の樹魔車両を総動員して、王都の冒険者達を島に運ぶ予定になっている。島を正常化させるために大規模(だいきぼ)駆除(くじょ)が行われるのだ。




 隠れ家の広場には、メタリックな青色の樹魔車両が停車していた。サクラさんのお兄さんであるナツメさんの樹魔車両だ。


「知らせを聞いて、びっくりしたぞ」


 リビングのソファーに座ったままそう言ってサクラさんを見ていた。こんなに感情を出しているナツメさんは珍しい。


「兄様、緊急だったのです。この子の命がかかっていたんです」


 肩に止まっている真っ赤な小鳥の頭を優しく撫でながらサクラさんが状況を説明した。


「つまり、サクラは探求者になったということなのか」


「ああ、その認識で合っている」


 レーデルさんが飲んでいた紅茶のカップをチンと受け皿に戻した。


「本当ならば、10層の中でないと契約の儀式(ぎしき)はできないのだ。精霊の(いと)()と資格持ちのサクラでなければなし得なかった事だ」


「そうなの。10層にはお友だちがたくさん待っているなの」


 第一権限のままのやつらがいると言うことだな。エスプリさんも保護していると言っていたからな。


「あの時、僕たちの肩に止まっていた鳥たちは、契約をしたかったんですね」


 エルよ、その通りだよ。


「いずれおまえ達が10層に到達したときには、運命的に相棒達と出会うはずだよ」


「ことわることはできるの」


 マーレさんが不安そうだ。


「かわいいつぶらな目で見られて拒否できるならできるぞ」


 それ、無理だと言っているような物です。


「オキナの兄弟がいい」


 クエバよ、たぶんいないぞ。


「レーデル、探求者に成るか成らないかはちゃんと選べるでしょう。不安になるようなこと言わないで」


 芸術の探求者が釘を刺す。


「ウサギもびっくりな展開だね」


 ラリリンが鷹と真っ赤な小鳥に近づき肉球でペシペシと頭を撫でていた。


「えーと、話がだいぶそれていますが、ソフィアさんとサクラさんは、探求者となりました」


 エルがまとめた。


 肩に止まっている神獣達が羽を広げてから交差させておじぎをした。


「父達には私から報告しておくよ」


「お願いします」


 サクラさんが頭を下げる。真っ赤な小鳥もぴょこんと下げた。ナツメさんの(ほほ)がピクピクしている。どうした。


「サクラ、ちょっと撫でても大丈夫か」


 サクラさんがうなずいたので恐る恐る手を伸ばす。


 おとなしく撫でられる真っ赤な小鳥。ナツメさんがほんわかしている。こんな一面もあるんだな。


「カナデ君、細かな情報交換をしようか」


 ナツメさんの隣には、チャルダンが座っていた。


「私達は退室しましょう」


 エルが気を利かせてくれた。ちょっと、込み入った話になるかもしれない。助かる。


 ぞろぞろと出ていく仲間達。残ったのは、私の参謀(さんぼう)2人とチャルダン、ナツメさん、そしてレームスさんだ。


「カナデ君は、『秩序(ちつじょ)の探求者』なんだね」


 しわが深く刻まれた唇を動かして、『技術の探求者』が静かにそう言った。


「候補だと、エスプリさんは言っていました」


「精霊神獣が認めたのだ。多分そうなるかな」


「レームスさんは、火の鳥の存在を知っていたのですか」


「いや、知らなかったよ。10層にいる全ての仲間も知らなかったはずだ」


「うむ、私も今回のことで初めて知った」


 エスプリさんが話さなかったんだな。まあ、あそこにいること自体知らなかったからな。仕方ないよ。


「第三権限の神力はつくも(猫)と同じです」


「上位者が3人になったのよ」


 モモンガがコテンとひっくり返った。かわいい。


「火の鳥はどこから来たのですか」


 ジェイドが気になるようだ。おれもだけど。


「こことは違う大陸だよ」


「やっぱりあったんですね」


 ジェイドが嬉しそうだ。 


「『創世(そうせい)大陸』と名付けたこことは違う大陸が存在しているのではないかと言うことは『地学の探究者』が提唱(ていしょう)していたからね」 


 創世大陸、それが未知の大陸の名前か。


「その探求者は今どこにいるのですか」


「10層にいる。世界樹の裁きでほとんどの探求者はそこに戻った」


 レーデルさんの言葉を聞きながら、レームスさんが力なく笑った。


「すべて私が原因だ。すまなかった」


「レームスよ、もう、謝るのはよせ。姫が言っていただろう。おまえの知識を正しい発展のために使えとね」


「ああ、わかっている」


 力なくうなだれた。


 かなり弱っている。大丈夫か。


「すまないが、初めはレームスの聞き取りにしてくれ」


 そうだな、早く済ませて休んでもらおう。


「レームスさん、だいたいのことはグライヒグから聞いています。知りたいことは4つです」


「封印した倉庫はどうやって開けるのですか」


「カナデ君は円周率を知っているね」


「はい」


「何桁まで暗唱できるかな」


超計算を使えば無限かな。


「1000桁ぐらいです」


「……」


「100桁だよ。数字で打ち込む施錠(せじょう)だ」


 なるほど、簡単だった。


「発明品は全てつくも(猫)の異次元収納で封印します。認めてもらえますか」


「認めよう」


「ハイトリプルについて知っている事を教えてください」


「私の恩人だよ。まあ、祖先達になるがね。記憶を無くしていた私を保護してくれた」


「関係は良好だったんですね」


「1代目までかな。2代目が発明品を売れば巨額のお金が稼げることに気がついた。そこからは私はただの金になる発明者になってしまった」


「あなたは私の声を聞き入れてくれたわ」


「あの声は、ナールルだったんだね」


「念話よ。私も権限が下がっていたのでうまく言葉にできなかったの。それに、私が言葉を(あやつ)ると、あの組織がよからぬ事を企みそうだったから警戒していたの」


「レームスが発明品を全て封印できたのも、ナールルの念話による助言があったからだな。ありがとう感謝する」


 レーデルさんがナールルの頭を優しくなでていた。


「最後の質問です。行方不明者はどこにいますか」


「すまない、それは分からない。私も監禁されていたようなものだったからね」


 ナールルも分からないようだ。首を振っている。


「終わりです」


 クエバのことはまだ聞かないことにしよう。


 レーデルさんが付き添って、レームスさんは部屋に帰っていった。ナールルもその後を付いていく。


「レームスさんの体調は思わしくないようだね」


 ナツメさんが後ろ姿を見ながらそうつぶやいた。


「11月の綿まつりに参加する予定です。その時に、大樹の杜人の所へ連れて行くことになっています」


「そこの方が体にいのかい」


「ええ、10層に近いので魔素がかなり濃いです。レームスさんの場合は、魔素欠乏症の様な症状らしいです」


「そうか、その事も父には伝えておこう」


「はい、お願いします」


「では、チャルダンの話だね」


「ぼくの情報は、ほぼ今までの話とかぶります。そして、1つだけダーチェリストがうっかり言ってしまったことがあります」


「何を言ったんだい」


「『大樹の森は焼かなくてはいけない。そのためには、あの兵器に飛んでもらう必要がある』と、言いました」


「……」


 たぶん、弾道(だんどう)ミサイルのことだろう。そうか、あの森を焼こうとしていたのか……許せないな。


 ギリギリと怒りがわき上がってきた。


「カナデ、押さえろ。ジェイドが怖がる」


「つ、すまない。まだ未熟だな。おれは……」


「余計なことを言いました。すみません」


 チャルダンが謝った。未熟なのはおれだ。すまない。


「必要な情報だった。ありがとう」


「ナダルクシア神国にはどのルートで行く予定なんだ」


「はい、ディスポロ商業公国経由で行きます。チャルダンが弟に公太子の座を返さないといけないんです」


「わかった。入国に必要な書類は整えておくよ。それで、いつ出発するのかな」


「チャルダンの事があるので早めました。8月28日に出発します」


「3日後か。わかった。急いで書類を作らせよう」


「助かります」


「いよいだな」


 ナツメさんが真っ直ぐに私を見ていた。


「はい、全てに決着をつけてきます」


 にっこりと微笑んで紅茶を口に運んだ。



 


次話投稿は明日の7時10分になります

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