113 ソフィアと相棒の戦闘
「ジェイド、もう1体が逃げた。追いかけられるか」
「問題ないわ」
エスプリさんが返事をした。やる気満々である。
「追いかけます」
觔斗雲……じゃなかった白猫雲が逃げていく巨体を追いかける。
偵察に出ていたホークが逃げていくワイバーンと交差した。
「もう1匹は森の奥にいます。一番大きなワイバーンです」
鷹がソフィアの肩にそっと舞い降り報告をする。
「ソフィア、行ってみる」
「もちろんです」
剣士の顔でニコッとした。凜々しい顔だ。
「神力風の道」
頭上で片手をクルクルと回して渦を作った。それを、空に放り投げる。一瞬で森の奥に銀色の風の道が延びていった。
「行くよ」
「はい」
2人でその渦に飛び込んだ。
ジェイドと逃げていくワイバーンを追い越し、3秒ほどで森の奥に到着した。
「見えた、停止」
ピタッと止まる。
「大きいな」
羽を広げた全長は30メートルぐらいはありそうだ。この体で飛べるはずがない。浮かんでいるということは、属性魔法の部類だろう。やっかいだぞ。
「魔法を使うかもしれないな。用心しよう」
こいつらはイレギュラーだ。ここにいてはいけない存在のはずなのだ。申し訳ないが駆除対象になる。
「もう1匹が帰ってきたらやっかいだ。速攻で仕留める」
「ソフィア、ボクはまだ乗せて飛べないけど、足場にはなれるよ」
鷹がそう提案した。
「痛くないの」
「結界があるから平気だよ」
第二権限の結界だ。それなりに丈夫だろう。
「わかった。おねがい」
ワイバーンの体内魔力が膨れ上がっている。体には棘のような鱗が無数逆立ち激しく震えている。
「あの鱗で攻撃してくるな」
「はい、全て切り落とします」
鱗が一斉に放たれた。数百個はあるだろう。
「神装結界『盾』」
第一陣はすべて盾に弾かれ落ちておく。
「行きます」
第二陣の用意を始めた隙を狙い、ソフィアが渦から跳躍した。弧を描いた着地場所には結界をお盆のように展開させたホークが待っている。
「ぴったりよ」
ソフィアがその足場を蹴って、ワイバーンの背中に飛び移る。そして、走りながら震動している棘を次々と切り落としていった。
異変を感じ取ったワイバーンは、異物を振り落とそうとお腹を見せた。
「がら空きだよ」
人間ならボディブローか、きつい一発をお見舞いする。
「猫パンチちょい強め」
お腹が背中にくっつくのではというほどめり込む。
ショックからか、魔法が解除されたようだ。巨体が自由落下していく。後はお約束だ。
「ふん、80センチ位は期待していいだろう」
魔石の直径だろう。
俺様猫が舌なめずりをして待っている。
「神力猫の手」
紅色に輝く巨大な肉球が、黒い巨体を踏み潰した。
猫の手が消えると、そこには、直径80㎝ほどの魔石が残っていた。
期待通りだったのだろう。喉をゴロゴロ鳴らして尻尾を振っていた。
「こっちも片付いたわよー」
白猫が雲に乗って降りてきた。後にはジェイドも乗っている。この渦便利だぞ。やり方を教えてもらおう。
「戻りましょう」
ソフィアがにっこりと笑って肩にいる鷹の頭をなでていた。
「あの大きな魔物はなんだったんですか」
成り行きをベニザクラ号の中で見守っていたエルが興奮している。
「ワイバーンだ。龍型と言うところかな」
龍という存在もきっとこの大陸の人たちは知らない。
「10層に来たときに全てお話しするから、今は許して」
白猫が頭を下げていた。
世界樹の精霊様のお願いなら仕方ない。そんな感じでエル達は口をつぐんだ。
シンティがソフィアの肩にいる鷹を見ていた。
「ソフィア、その鷹どうしたの」
「私の相棒になりました」
ん、? 不思議そうにしている。
「シンティ、その話も後で説明する。エル、作戦会議だ」
鷹が乗ったままのソフィアの後を、ぞろぞろと付いていく猛禽類たち。それを不思議そうに見ているシンティたち。
「作戦会議です」
「隊長、状況説明をお願いします」
「このダンジョンを作ったのは、火の鳥だ」
へぇ? 間の抜けた声がする。
「詳しくは説明できないけど、私を探しにきたと思うの。きっと、ここで力尽きて休眠しているはずよ」
6万年だぞ。大丈夫か。
「この真っ赤な羽は火の鳥の物だ。ソフィアが居場所を見つけた。火山の中だった」
ごくり、生唾を飲む音が響いた。
「カナデ、もしかして、行くの?」
シンティが恐る恐る聞いてきた。
「つくも(猫)、神装結界は役に立つのかな」
俺様猫を見た。珍しく考え込んでいた。
「結界自体は全く問題ない。だが、高熱は遮断できないかもしれない」
納得だ。人間では生存できない高熱空間になるだろう。
「魔法瓶っす」
リーウスが思いついたように叫んだ。焼き肉の時のことを思い出したようだ。
「確かに、あれは熱を逃がさないけど、逆に熱を通さないこともできるわね」
シンティが考え込んだ。
「空気がなければ熱は伝わらないはずだ」
エルが更なるアイデアを提案した。
「神装結界の重ねがけでできそうです」
ジェイドも思いついたことを言葉にする。
「おまえら、怖くないのか。火の中に飛び込むみたいなもんだぞ」
「神獣様が二人もいるんです。全く心配していません」
エルが自信たっぷりにそう言った。
いや、3柱になったんだけどな。鷹を見ながらそう思った。
「わかった。作戦はこうだ。クエバの融合魔法でエル、シンティの魔法陣展開『神装力』を使った魔法瓶の結界を作る」
3人がうなずいた。天才3人だ、全く問題ないだろう。
「エスプリさん。用心のために、その外に神装力第三権限の結界を展開してください」
「わかったわ」
「つくも(猫)、超計算で冷却魔法陣作れるかな」
「問題ない。3分待て」
「サクラさん、『白銀』のままで戦闘型に変形できますか」
「やってみる」
「なるほどね。こうやって、あの子達も見つけていたのね。手際がいいわ」
白猫がしきりに感心していた。
「一度再起動するわね」
「世界樹の枝」
右手に小枝が現れた。
その枝を、頭上にあげ、何もない空間を叩く仕草をする。
ビーン
空気が振動した。
「めざめよメーム」
キーン 金属音の澄んだ音がする
「太古のメーム」
キーン 振動が魔法陣のように広がる。
「自我のメーム」
キーン 振動が樹魔を包み込む。
「ふるえよメーム ひとつになれ」
「ホスタンツァ ライエン」
制御木琴を奏でる。
「シャラララーン」
木琴を左から右へ木の枝で打ち流したした。
「ベニザクラ『白銀』で戦闘型よ」
ベニザクラ号がワンボックスカーぐらいの大きさに変形した。触手は8本だ。かなり太い。
「車内はちょっと狭いけど、何とかいけそうだな」
地球の車なら車内はこんなもんだ。樹魔車両が快適すぎるのだ。
「よし、できた」
つくも(猫)が新しい魔法陣を展開させていた。ピキピキと周りの空気が凍っている。おいおい、氷漬けにならないだろうな。
「このまま、ダンジョンの入り口に向かいます」
「風の道」
紅色の風の道が入り口に向かって延びていった。
「発進します」
景色が後に吹っ飛んだ。
「火山に向かいます」
ベニザクラ号は静かに浮かび上がり、煙を出している火山に向かった。
「火山上空です。火口が見えますね」
「サクラさん、下に続く道はありそうですか」
「ないわね」
やっぱりか。地球の火の鳥は噴火と共によみがえっていたよな。
「ソフィア、どこにいるかわかるか」
「あの中です」
煙を出している火口の中を指さしていた。
行くしかないか。
「予定通りだ。やるぞ」
「はい」
「魔法陣展開『神装力』、神装結界イメージ魔法瓶」
エルとシンティがベニザクラ号の周りに魔法陣を作った。
「主は空気なり、壁は従、外はカチカチ中はポンポン、フュージョン」
二人が作った結界内の空気が無くなり真空状態になる。魔法瓶の断熱と同じだ。
「神力、神装結界」
白猫の結界がその上に重ねがけされた。
「神力、冷却」
ベニザクラ号の車内に冷却魔法陣が展開された。マジ寒い。今後、夏のクーラーとして役立ちそうだ。
「ソフィアは羽を持って、居場所を特定してくれ」
「わかりました」
準備は整った。行くぞ!
戦闘型になったベニザクラ号は、紅色の蜘蛛に似ている。それが静かに火口に降りていった。
周りはきっと有毒ガスが充満している。水蒸気だろう、煙で視界は悪い。リーウスの探索もここでは効果が出ない。
(一応な、真色眼)
反応はない。ここで生きられる生物はいないと言うことだ。
「赤い湖です」
「サクラさん、あれが溶岩です。岩が解けてドロドロになっているんです。だいたい1000度から1200度ぐらいです」
「その温度では鉄は溶けないわね」
鉄の融点は1538度だ。シンティにとっては、まだ低い温度かな。
「イグニスの魔法剣、その温度」
クエバさんが久しぶりに喋った。
「魔法剣の炎は結界で防げます。その温度なら問題なく結界は機能します。行きましょう」
エルが冷静に状況を分析した。
「ねこちゃん、この子たちいいわね」
白猫が俺様猫に話しかけていた。
「ふん、やっとわかったか」
俺様猫がどや顔だ。
ベニザクラ号が溶岩の中に静かに降りていく。結界は正常に機能している。防水シートが水を弾くように溶岩を寄せ付けない。
「冷却魔法陣、快適です。これ、夏の暑いときにも使えそうです」
サクラさんがご満悦だ。
この魔法陣を積んだ魔動車を販売すれば売れるかもしれない。帰ったらメディと相談だな。
次話投稿は明日の7時10分になります




