111 鳥類型魔物の島
「作戦会議を始めます」
いつものメンバーに新顔が1人、いや、1匹いる。真っ白い猫だ。名前を『エスプリ』という。
「私の考えはこうよ。同じ第三権限なら、こっちには2人もいるのだから、そのまま通過できるはずよ」
その猫が作戦の提案をしていた。言葉を操る強獣はみな神獣様と呼ばれている。
「うむ、俺様も同じ意見だ」
「決まりました。サクラさん、このまま降下しましょう」
エルが冷静にまとめた。
「降下します」
「神装力第三権限開放 神装結界重ねがけ」
白猫が力を解放した。
ベニザクラ号が新たな結界で守られた。
ゆっくりと降下していく。
ズシン!
軽い衝撃が来た。
ベニザクラ号に変化はない。そのまま降下する。
そこは、鳥たちの楽園だった。
地上には緑豊かな森が広がっている。所々に見える湖には少し大型の鳥が浮いている。
空には、様々な種類の鳥たちが飛び回っている。
真ん中にある火山からは、煙が静かに上がっている。
島の大きさは、直径が50キロメートル位はありそうだ。かなり大きな島になる。
「やっぱり、私の知らない島だわ。ΞΜξρηζλφσμιγΘΡΤιηζνΝΒΖξτだと思うわ」
「そうか、νοΡΓδηεθνΜξθβΛκΞΙΖνβΜΝΜΡΞΙΒιθσυξΝΩΨωφνだと言うことだな」
2匹の猫は仲がいい。私達に分からない言葉で盛り上がっている。
「サクラ、島の東側にある入り江の砂浜に着陸しろ」
「わかった」
鳥たちが飛び交う空は賑やかだ。見慣れない車両にも怯える様子はない。むしろ近づいては離れるを繰り返して遊んでいるように見える。
「着地します」
砂浜なので、ベニザクラ号は歩行型に瞬時に変形する。砂にめり込む触手の長さを調整し平行になる。AI顔負けの性能だ。
近くで休んでいた鳥たちが一斉に飛び立った。地球ではよく見た光景だ。
「カナデさん。あれ、お願いできますか」
「分かりました。『真色眼』適応ベニザクラ『白銀』」
ピコン! ピコン! ピコン! ピコン! ピコン!
ピコン! ピコン! ピコン! ピコン! ピコン!
ピコン!
「……この島、鳥類型魔物の島です」
「状況を把握するための調査が必要ですね」
ジェイドの意見にみんなもうなずいた。
「作戦会議を始めます」
「地上には魔物がいるのかしら」
シンティが窓から外を見渡している。
「いると思います。赤玉にはならない弱いやつがいるはずです」
「食物連鎖ですね」
「ソフィア、覚えていたか。その通りだよ」
「カナデさん、鳥型だと鼠型や兎型を食べるんですよね」
「ジェイド、小さな鳥なら昆虫型も食べるぞ」
「この島は生態系は豊かそうですね」
「ぱっと見た感じはそうかな。で、ソフィア、この島の頂点は誰だと思う」
「普通に考えれば、猛禽類です」
「鷲、鷹、鳶、隼、梟といったところですね」
ソフィアもジェイドもよく勉強をしている。
「わたし、鳥のことはペンテぐらいしか知らないのよね」
大樹の森だと3層までにしか鳥はいないからな。サクラさんは詳しくないだろう。
「大きさなら鷹が強そうです」
「速さなら隼かな」
「狩の技術だと梟っす。まじやばいっす」
確かに大樹の森の梟型は怖い。音もなく近寄ってくるからな。リーウスならよく知っているはずだ。
この世界の鳥も地球とよく似ている。本当の名前はたぶん違うが、多言語翻訳君が変換できるだけの種類はいるようだ。
「どうする。鳥型だと、結界を張っていてもお構いなく連れ去るぞ」
結界ごと空に運ばれるだろうな。
「全方向ではなく、頭の上にだけ板のようにして展開してはどうでしょうか」
「普通ならそれでいい。しかし、ここには火山がある。有毒ガスは見えないんだよ」
窪地にたまっているんだよな。うっかり入ると危険だよ。
「ベニザクラ号で進みましょう」
サクラさんの言う通りだな。
「それがいいな」
「エスプリさん。この島には何があると思いますか」
ジェイドの側で丸まっている白猫に話しかけてみた。
「第三権限が使える何かがいるはずよ」
「ああ、つまり、そいつを探すってことですね」
「ええ、きっと、精霊の愛し子の力が役立つはずよ」
ソフィアに活躍してもらうということだな。
「ソフィア、お願いできるかな」
「もちろんです。でも、わたしはどうすればいいんですか」
コテンと首を傾げる美少女剣士。絵になる。
「カナデさん、今までのパターンなら、欠片ですよね」
美少年がにんまりとしている。
「ふふふ、派手なやつをお見舞いするということだな」
みんなで顔を見合わせてニヤリとする。
この島の頂点が猛禽類型ならかなり手強いはずだ。派手な方法でお仕置きといきますか。
突然、空が暗くなった。なんだ。
何か大きな物が、ベニザクラ号の真上に浮かんでいた。魔物か。
用心のために認識阻害の結界は張られている。この状態なら魔物には見えないはずだ。
私だけ外に出てみた。
まじか!
ライトノベルの異世界なら珍しくないだろう。でも、この世界では見たことがない。それがいると言うことも聞いたことがない。
「ワイバーンだ」
大きな2本足の龍型が空に浮いていた。飛んでいるのではない。何らかの魔法で浮いているのだ。
ワイバーンの目的はここではないようだ。別の何かを追いかけている。
五感の能力を神装力で強化した。
「鷹だ!」
ワイバーンは、鷹を追いかけていた。
「カナデさん、精霊の気配です」
ソフィアが飛び出してきた。
後には猫もいる。2匹だ。
「カナデ、ワイバーンか」
「そうです」
「カナデさん、あの鷹は精霊です」
「きっと、はぐれ神獣よ」
白猫が鷹を見ている。あいつが神獣なのか。
「ソフィア、居合いいけるか」
「もう準備はできています」
ソフィアが片刃刀に手を掛けている。
神装結界が発動できる神力剣だ。
「風の道で近づく。羽を片方切り落とせ、それでたぶん落ちる」
「わかりました」
未知の生物との出会いなのに怖がる様子がない。剣士モードのソフィアも頼りになる。
「神力風の道」
銀色の風の渦がワイバーンが浮かんでいる空に伸びていく。そこに、ソフィアと飛び込んだ。
一瞬でワイバーンの背後に移動する。この距離なら瞬間移動と変わらない。
ソフィアが静かに構えた。
「神装力『居合い』」
ほわっと、片刃刀が光った。
ワイバーンも野生の勘か、何かを感じたようだ。こちらを見ようと体の位置をずらした。
「抜刀……納刀」
チン、と刀が鞘に収まる音がした。
ズルリ……ドシーン!
ワイバーンの片方の羽がずり落ちた。
魔法が解除されたのだろう。残った本体も自由落下をしていく。
ズシィーーーーーン!
巨体が地面に落ちた。
もがく2本足の龍型魔物に白猫が襲いかかった。
「神獣をいじめるなんて許さないんだから」
にゃー!
鋭く伸びた爪で巨体を引き裂いた。
ワイバーンは霧散した。直径50センチほどの魔石が残されていた。
地面に降りて、風の道を解除する。
襲われていた鷹が舞い降りてきて、ソフィアの肩に止まった。
ソフィアがその頭を優しくなでると、そのまま地面に飛び降りた。
「もしかしてあなたは探求者様ですか」
その鷹がソフィアに話しかけた。
言葉を操る強獣は神獣様だ。
「いえ、私は剣士です」
「ちがうのですか」
がっくりとなる鷹。
「あなた、はぐれ神獣ね」
白猫が話しかけた。
「第三権限。上位者様!」
鷹がひれ伏した。
「何年になるの」
「2000年までは覚えています」
「そう、辛かったわね」
「他にも仲間がいます」
「どこにいるの」
「あの山の麓にある洞窟の中です」
「おまえは何故ここに来た」
俺様猫が話しかけた。
「ひえ、また上位者様!」
鷹がひっくり返った。
白猫に睨まれる俺様猫。
「すまん」
「怖がらなくていいわよ。ツンデレ猫だから」
フンと、そっぽを向く俺様猫。
「大きな力を感じたんです。私が代表で様子を見に来ました」
ベニザクラ号の事だ。世界樹の精霊がいるからな。
「わかった。仲間の元に案内してくれる」
「わかりました」
ワイバーンの魔石は白猫とソフィアと私に所持する権利がある。白猫と私が辞退したので、ソフィアの収納に保管した。
ベニザクラ号が静かに浮かびあがった。目的地は火山の麓だ。
「エスプリさん。はぐれ神獣って何ですか」
他のメンバーも知りたいようなので代表で聞いてみた。
「探求者と出会えなかった神獣よ」
ん、とみんなが首を傾げる。今まで聞いたことがなかった情報だからだ。
「本当はね、神獣は自分で守護者となる相棒を見つけないといけないのよ。私みたいにね」
白猫がジェイドの膝に額を押しつけてスリスリしている。
いや、おまえの場合はただの好みだろうが……。喉まで出かかっている言葉をぐっと飲み込む。
「でもね、この大陸では事情があってね、神獣はみんな私の所で保護しているのよ」
ん、この大陸だと! 違う大陸があるのか。大陸移動説と関係があるな。それと、私の所とは10層の中ということだろう。
「ごめんね、これ以上はきっと、ここではみんなに伝わる言葉にならないわ」
白猫はペロッと舌を出して話をやめた。
「鷹が洞窟の中に入っていきました。歩行型にします」
ベニザクラ号が静かに着地した。一瞬で歩行型に変形する。蜘蛛のようにシャカシャカと洞窟の中に入っていった。
「ダンジョンね」
白猫がつぶやいた。
「ああ、第三権限のダンジョンだな」
俺様猫もそれに続く。
この先に何が待っているというのだろう。鷹の後をシャカシャカとベニザクラ号が進んでいった。
次話投稿は明日の7時10分になります




