108 調査隊のメンバー
8章が始まります
魔動機関貴族との戦いは、私達の完全勝利だと言ってもいいだろう。
ダーチェリストは失脚した。侵略罪は本来なら即刻処刑だ。しかし、帝国の上級貴族なので免れている。今はエレウス王国の牢獄で監禁されている。
ストラミア帝国としても、ここで一気に魔動機関貴族の勢力を一掃したいと考えているので利益が一致している。たぶん一生そこから出られないだろう。
魔動機関貴族の敗北により、それに協力していた貴族枠の教授達は全て免職になった。これは、学院の創立者であるレーデルさんの意志だ。これで、学院もかなり過ごしやすくなる。
新しい教授達の選出やカリキュラムの見直しなどに時間が掛かる。学院の夏休みも9月中旬まで延期された。
冒険者パーティー『紅桜』に、皇帝から指名依頼がきた。依頼内容は、ナダルクシア神国の調査と行方不明者の保護だ。
この延長された夏休みを使ってさくっと依頼を終わらせてしまおう……あれ、なんか都合がよすぎないか? まあいいか。
「作戦会議を始めます」
隠れ家のリビングに仲間達が集まっている。
平民学生達は、全て学生寮に戻った。面倒なやつらがいなくなったので安心して過ごせる。
今のあいつらにちょっかいを出せる組織はない。国の救世主なのだ。繁華街を歩けばみんなから褒め称えられるほどの存在なのだ。
ねこちゃん腕輪をしている彼らは強い。予期しない攻撃には瞬間自動神装結界が発動する。つまり無敵なのだ。
「議題は、今後の予定です」
「ストラミア帝国の皇帝から指名依頼が来た」
ん、と言う感じでみんなが顔を上げた。
「依頼内容は、ナダルクシア神国の調査と行方不明者の保護だ」
みんなが緊張して私の次の言葉を待っていた。
「すまん、これ以上の情報は今はない。イローニャが詳しい資料を明日生徒会室に持ってくる。それを読んでからまた提案する」
ガクッとなる仲間達。すまん。期待させた。
「期待させてすまない。それと、相談無しにおれの判断で即決した。なにしろ、報酬がでかいぞ」
ん、とまた顔が上がった。
「前金で金貨500枚だ。成功報酬はその倍になる」
金貨1枚が10万円ぐらいなので、日本円にすると500枚は5千万円ぐらいになる。倍だと1億円だ。
「まじかー」
イグニスが唸った。
「それだけじゃないぞ、そこで発見した物は、つくも(猫)の判断で公開しなくていいことを約束してくれた。報告義務もない」
みんながレームスさんを見た。
「わたしが発明した数々の秘密があるよ。技術が追いつかないから実用化されていないがね」
レームスさんの体調はいいとは言えない。かなり過酷な生活を強いられていたようだ。グライヒグの保護がなかったら命がなかったかもしれないほどだ。
「あの飛行船のような未知の発明があると言うことだ。それを正しく安全に管理しなければいけない。おれの考えは、こうだ。すべてつくも(猫)の収納で封印する。時代が追いついてきたら少しずつ公開していくことになるだろう」
みんながエジプト座りで目を丸くしているつくも(猫)を見た。
「ふん、当然だ。過ぎた力は危険だ。全て俺様が封印する」
「あの飛行船は実は危険なんだ。レームスさんも実用化に反対していたのをダーチェリストが強引に作らせていた」
「あの飛行船には『水素』という爆発しやすい気体が詰められているんだ。だから、その気体は全て安全に放出させてもらったよ」
ストラミア帝国の選手団は魔動車で帰ることになる。帰国に15日はかかるが途中で爆発したら命はない。説明を聞いた人たちはみんな怒っていた。
地球では、飛行船はヘリウムガスを使っている。ただ、ヘリウムガスは天然資源だ。この世界では、風船に詰めるぐらいの量しか集められない。
「出発はいつ頃になりそうなの」
サクラさんがソワソワしている。早く行きたいみたいだ。
「しっかり準備をしてから行きたいので10日後位を予定しています」
「わかったわ。任せる」
「グライヒグはどうするの、連れて行くの」
シンティが聞いてきた。気になるようだ。
「あいつは連れて行かない。レームスさんもここに残ってもらいます。情報だけはもらいますが、これ以上は関わらない方がいいと判断しました」
「うむ、これは私の意見だよ。レームスはここでしっかり療養させる。本人が行きたいという希望を持っていても、私は許可しない」
レーデルさんがきっぱりそう言うと、
「レーデル、私には1000年分の罪があるんだよ。後始末ぐらいはさせてくれないか」
「だめです。あなたの罪滅ぼしは、これからこの世界の技術を正常化させることになります」
サクラさんがサクラシア様モードに入っていた。
「そうだな、おまえの罪滅ぼしはさくらの言う通りだ。そのために、今は休め」
レーデルさんが優しく微笑んでそう言った。
これには反論ができないようだ。レームスさんはそのまま口をつぐんだ。
「グライヒグもそうなんだ。あいつにはもう理不尽な行いはさせない。あいつの能力を正しく使わせる。それがあいつにとって一番困惑する罰になる」
私がそう言うと、シンティがニヤリと笑った。
「私もそう思う。みんなから感謝されて、頼りにされて、どう反応したらいいか分からなくて、オタオタと困る顔が目に浮かぶ」
みんながクククと笑いをこらえた。
グライヒグはメディの部下になった。全て正攻法で商売を成功させなくてはならない。今までの常識が覆るのだ。さぞかし困っているだろう。まあ、これぐらいのお仕置きは許容範囲だろう。
「チャルダンはどうする」
「うーん、迷っています。レーデルさんはどうしますか」
「今回は残る。レームスの側にいるよ」
レーデルさんが狐の頭を優しくなでながらそう言うと、
「わたしもいっしょにいてもいいかしら」
狐がレーデルさんを見上げていた。
「ナールル、もちろんだよ。1000年分甘えていいんだよ」
ナールルは、探求者であるレームスさんが記憶を無くしたことにより、第二権限の力を使うことができなかった。
精霊達と同じ第一権限の力しか出せなかったのだ。なので、言葉を自由に操ることも強獣としての力もなく、ただ、レームスを見守ることしかできなかった。
でも、意志は通じたようだ。レームスさんが正しい判断をすることができたのは、ナールルが必死に語りかけていたからだろう。
「レーデルさんが行かないとなると、チャルダンには策士としてついてきてもらいたいですね」
チャルダンは、ねこちゃん印工場が主な活動場所になる。今後、国家レベルの会計処理をする事になるので、メディといっしょに工場で生活してもらっている。グライヒグもいっしょだ。
「そうだな、それがいい」
レーデルさんも賛成のようだ。
「今回は私もパスだ。未知の発明には興味があるが、マルモル領がかなり困っている。私は父の手伝いをするために帰ることにしたよ」
稲作、蒸留酒、日本酒の新規開発が始まっている。味噌と醤油の製造も増産体制に入る。マルモル領は今大変なのだ。
「姉様、全てお任せになります。すみません」
シンティがディーラさんに平謝りだ。でも、サクラシア様の側近だ。仕方ない。
「レーデルさんの髪の毛は私達が責任を持って整えます」
ソフィアが張り切っている。妹の髪の毛を梳かす感覚だろう。嬉しいみたいだ。でも、イディアには無理なんじゃないだろうか。
「決まりです。冒険者パーティー『紅桜』と『風の森』の合同受注ということで行きましょう」
イグニス達もにも異論はないようだ。
「ならば、おれ達はしっかりと留守番をして待つことにするか」
ボンとクリシスがネメルさんを見た。
「そうね、私達が行ってもきっと足手まといになるわ。ラリリンもそう思うでしょう」
「ウサギもたまげる冒険になりそうだね。ぼくもネメルの側にいるよ」
「うん、よろしくね。お土産は何がいい?」
天然娘がニコニコしてそう言った。
「話しが変わるがいいか」
ん、と言う表情の仲間達。
「指名依頼の前にもう1つの指名依頼がある」
ああーそうだった。という感じで顔を見合わせている。
「火山島の調査ですね」
「ジェイド、正解だ。そして、すまないが行くメンバーを限定させてもらう」
「理由を聞いてもいいか」
イグニスが何かを感じたようだ。
「かなり危険なんだ」
「私から説明しよう。火山島には未知の結界が張られている。ここでは言葉にならないから説明ができないが、事情があり、6万年の間誰1人としてその島に入った者はいないはずだ」
スケールがでかすぎてイメージできないようだ。みんながポカンとしてる。
「それと、火山島ということは有毒ガスが発生している可能性が高い。つまりだ、神装結界を全方位で展開できる者しか近寄ることができないんだ」
みんなが顔を見合わせた。誰ができるんだ。
「おれ、サクラさん、シンティ、エル、ソフィア、クエバ、リーウスが候補者だ」
シーンとなる部屋。
「カナデさん、ボクもできます」
金色の髪の毛をフサッとさせて、ジェイドが立ち上がった。
「ジェイド、おまえの雇用契約を思い出せ。危険な場所には連れて行かない。これは譲れない」
く、と唇をかみしめる美少年。何をやっても絵になる。
「ジェイド、諦めろ。カナデはこういうことにはかなり頑固だ」
イグニスがなだめている。すまん、ジェイド。その通りなんだ。
「わかりました」
力なくソファーに崩れ落ちた。ラリリンが慰めている。
「さて、カナデとさくら以外のメンバーは、出発まで俺様とクエバでみっちりと鍛えてやる」
つくも(猫)が舌なめずりをしてしっぽを振っていた。クエバも鬼教官モードに入った。
「よろしくお願いします」
ソフィアが嬉しそうだ。なんで?
「これで作戦会議を終わりにします。解散です」
エルは動じない。
火山島への出発は5日後になった。
次話投稿は明日の7時10分になります




