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107 ドモンの絶望 ★

7章最終話です。

自己中心的な表現が続きます。

苦手な方はご注意ください。




 おれはどこで間違えた。


 チャルダンはメディと入り口の町のA級冒険者達が連れて行ってしまった。


 チャルダンは別人だった。あのふざけた態度は演技だったのか。なぜその才能を隠していた。知っていれば、おれのためにもっと利用してやったぞ。


 ストラミア帝国は騎士(ナイト)に負けた。完膚なきまでにだ。ダーチェリスト達もみんな拘束された。




 オークションの要項が届いた。その中に、狂乱状態のまちぼうけの角が出品されていた。珍しい事は間違いない。持っていれば、いろいろなところで自慢(じまん)できる。だが、それだけだ。


 貴族ならそれでもいい、しかし、商人なら、素材は何に利用できるのかが大事なのだ。C級素材ごときでは手に入れようとは思わない。たとえ、奇跡の魔石を持つマイアコス王国第5王子が関わっていてもだ。


 しかし、手伝った案内人が乗っていたのがベニザクラ号だった。


 ベニザクラ号の(うわさ)は商人なら誰でも知っている。


 セルビギティウムの姫様の専用車だ。謎に包まれた車両だ。


 案内人ギルドに止まっていたのを1度だけ見た事がある。いったいいくらの開発費を掛けたんだ。そんな感じがする樹魔車両だった。


 装甲はまんまるの素材だが、全ての板が特級の魔力で仕上げられていた。寸分(すんぶん)の狂いもない真四角の装甲板など見たことがない。それが数千枚全てだ。信じられか。


 樹魔が双子だと、何の冗談だ。前輪後輪どちらも樹魔でできた車体などあってたまるか。しかも、どれだけの変形ができるのか公開もされていない。


 どんな性能で、制作費がいくらなのか。コパンの作品なら、椅子1つで金貨数十枚だ。それが何部屋分もあるだと。ふざけているのか。


 そのベニザクラ号が関わった初仕事が、マイアコス王国の魔石の試練だ。それを知ったとき、おれの勘が警笛(けいてき)を鳴らした。調べろ、徹底的に関わっている人間を調べろと!


 C級G(ゴールド)スター冒険者の名前が直ぐに浮かび上がった。カナデという若者だ。


 このカナデという人間は、調べれば調べるほどでたらめなやつだった。


 1人で素材回収の記録を塗り替えた。お気楽冒険者を改心させた。歴代最高記録で試験に合格した。そして、奇跡の魔石だ。あれは、奇跡ではない。そうなるように仕組まれた結果だ。誰だってそう思うだろう。隠す気があるのかと言うほどの白々(しらじら)しさだった。


 しかし、その奇跡を起こす才能は、まさに奇跡だ。こいつは金になる。おれの直感がそう判断した。




 それからだ、カナデをどうやって我が商会に取り込むかがおれの全てになってしまった。だって、そうだろう。あいつ1人を取り込めば、セルビギティウムの姫も最新型の樹魔車両もその技術も、全てが手に入るのだぞ。つまり、新大陸の覇者(はしゃ)になるということだ。


 その事に気がついているのはおれだけだ。なら、今がチャンスだ。動かなくてどうする。


 まずは切っ掛けだ。話ができるようになれば、おれの話術でどうにでもできる。大金をちらつかせて、心を揺さぶることもできる。金さえあれば、大抵のことはできてしまうんだ。金の魅力(みりょく)(まど)わされない人間などいるはずがない。


 この世に一つしかない(つの)を手に入れ見栄を張りたい貴族が相手だったが、圧倒的な資金力で競り落とした。こんな金額で誰が購入したんだ。きっとそう思うはずだ。興味を持てばそれでいい。後はさりげなく出会い、話題になれば相手はおれを信用する。そうすれば、もうこちらの思い通りに誘導できる。


 あいつは、全く興味を示さなかった。誰が購入したかも調べる様子がなかった。


 なぜだ。どうして気にならない。巨額のお金が動いたのだぞ。




 あいつの名前が一気に有名になる出来事があった。イローニャとのダンジョン勝負だ。ストラミア帝国との勝負は、ストラミア帝国が勝つと決まっている。なぜなら、彼らは絶対に勝てる勝負しかしない。そして、勝つためにはどんな汚い手段でも平気で使う。


 なのに、あいつは圧勝した。ストラミア帝国が本気で勝ちに行った勝負に勝ったのだ。世界はびっくりしただろう。そして、10層が動き出した。あいつが全てに(から)んでいる。おれの目に狂いはなかった。あいつは金になる。


 勝負の結果が届いたとき、部下達の前で「おれの言ったと通りだろう」と得意げに言った。しかし、内心は焦っていた。何の成果も出ていないからだ。話どころか姿を見ることもできない。入り口の町に入るのにも検査が厳しくなった。おれだけなのか。いや、みんなだった。


 カナデは金や物では動かない。ならば、大事にしているものを人質にして交渉すればいい。いままでも、そうやって言うことを聞かせてきた。


 カナデが大事なもの、それは『入り口の町』だろう。出身は間違いなく大樹の杜人だ。なら、そこと関わりが強いこの町を大切にしているはずだ。


 入り口の町は武力では攻められない。世界樹様の裁きが起こる。そんな事に巻き込まれるのはごめんだ。ならば、経済戦争を仕掛けるのが効果的だ。おれの得意分野だ。


 しかし、(すき)がなかった。カボーグ家には、国家予算以上の資金がある。優秀な人材もそろっている。おれの資金力では歯が立たない。しかも、役人達がみな堅物(かたぶつ)だ。買収(ばいしゅう)ができない。いったい、なんなんだこの町はおかしいぞ。




 次の機会がやって来た。綿(わた)まつりだ。


 ベニザクラ号も参加するという情報をつかんだ。ならば、世界樹の実を販売するはずだ。そのときがチャンスだ。


 ベニザクラ号は必ず結果を出す。ならば、一番初めの交渉権を得ればいい。そこで、高額で購入し、実は角を購入したのは私なんですよと言えば、そこから話が広がるはずだ。


 私は、カナデという商人と交渉権を得るためにコネと資金を使って暗躍した。他にもようやくカナデという人物に目をつけだした商人が数組いたが、私の敵ではなかった。交渉権は私の物になった。


 唯一心配だった商売敵(しょうばいがたき)のロギスは、『風の森』というB級パーティーとの交渉権を得ていた。バカめと思った。本命はカナデだと心の中で笑ってやった。


 しかし、カナデは出店しなかった。世界樹の実は確実に確保しているはずだ。それも、青の特級品を相当数だ。『風の森』と一緒にいたのだ。同じ量を確保していなければおかしい。事前の打合せでそうしなければならないはずなのだ。


 なぜだ、なぜ売らない。世界樹の実は劣化(れっか)する。今売らなければ大損だ。金に興味がないのか。




 セルビギティウムの姫が魔術学院に留学するという知らせが届いたのは、2月下旬だった。チャンスだと思った。王都までの道のりは、いくら風の道が使えるベニザクラ号だとしても8日は必要だろう。途中による町で接触することは十分に可能だ。


 綿密(めんみつ)な計画を立てた。全ての町に魔動車を配備(はいび)して、どこで宿泊をしても部下の誰かが接触する。街道にも、故障車を配備しあわよくば同乗させる。貴族連中も動いてはいたが、資金力ではおれの圧勝のはずだ。


 その準備をしている間に、とんでもない事実が判明した。


「ねこちゃん印工場」だ。調べた。とんでもない巨額の利益が見込める事業だった。おれの勘に狂いはなかった。


 やはり、金になる男だった。そして、各国に密かに建設の計画が持ち上がっていることもつかんだ。情報は金でなんとでもなる。このことをつかんでいるのはおれだけだ。チャンスだ。


 王都工場の経営権を入手するために勝負をかけた。いままで、どれだけの資金を使ったと思っている。ここでやめたら全て無駄(むだ)になる。そして、この工場の経営権を手に入れれば、カナデ、姫、未知の技術、巨万の金、全てが手に入るのだ。


 全て順調だった。入り口の町の役人どもは頭が固い。金で動かない。しかし、王都は違う、金で全て思い通りになる。あと少しで手に入る。全てが……。


 ふざけるなよ、何が『拒否権発動』だ。横暴(おうぼう)だ。ナツメスタロッチ・セルビギティウムの名で、全てを(くつがえ)された。


 全てを投入していた。どれだけの金額が動いたと思っている。絶望しかない。


 ベニザクラ号がぷっつりと姿をくらましたという知らせがそんなときに届いた。


 ふざけるな、ふざけるな、ふざけるなー!


 おれはもう、怒りで感情が抑えられなかった。


 ディスポロ商業公国のノスチロール公爵家には多額の資金援助をしてきた。その全額返済を迫り、公太子をチャルダンに無理矢理鞍替(くらが)えさせた。


 チャルダンは使い捨てだ。多少会計能力はあるがそれだけだ。変わり者なので、もしかするとカナデをうまく取り込めるかも知れない。そうなれば少しは見直してやる。


 うまく事が運べば、娘との婚姻(こんいん)も考えてやる。独立も認める。資金援助もする。そして、弟が公太子になる後ろ盾にもなる。本心はかくしてそう言いくるめた。


 娘には、チャルダンの婚約者として乗り込み、サクラシア様に近づきカナデとの騎士(ナイト)契約を解消するよう働きかけるように告げた。条件は、チャルダンと一緒だ。うまくいけば思い通りにさせてやると言いくるめた。


 おれが破綻(はめつ)すれば、おまえ達の未来もなくなる。一蓮托生(いちれんたくしょう)だ。いやだと言うはずがない。


 娘達は従った。心情など知るものか。こちらは崖っぷちなんだ。


 そんなときに、あいつが現れた。


 ストラミア帝国魔動機関技師、グライヒグだ。魔動機関貴族『ダーチェリスト』の親書(しんしょ)を持っていた。ストラミア帝国で一番権力も金も名声もある大貴族だ。商人貴族のおれなどが会えるようなお方ではない。


 サクラシア様とカナデを引き離すことができたら資金援助をしよう。後ろ盾にもなろう。カナデが欲しいなら取り込むことに協力しよう。サクラシア様を帝国に引き渡すことができたなら望む物全てを与える。


 親書には、そう書かれていた。


 考えるだけの余裕がおれにはなかった。おれは、ストラミア帝国の魔動機関貴族と密約を交わした。




 おれはどこで間違った。


 なぜ、立ち止まって考えなかった。


 なぜ、勘だけを信じた。


 なぜ、周りに相談しなかった。


 なぜ、メディの言葉を聞かなかった。




 ストラミア帝国……いや、魔動機関貴族はもうおしまいだ。


 このまま、静かに終わりを迎えるだろう。


 おれの商会もそうなる。


 静かに終わりを迎えることになるだろう。


 メディ、すまなかった。





次話投稿は明日の7時10分になります

次話から8章が始まります。

8章も展開が早いです。

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