106 皇帝からの指名依頼 ★
ここは、王城壁内にある迎賓館だ。
上位上座には、ストラミア帝国皇帝が座っている。今回は、間違いなく国賓になる。
同じく上位席には魔法学園の学生達が座っていた。みな、緊張している。場違いな場所にいるのではないかと不安そうだ。
もっと青くなっているのは魔術学院の平民学生達だ。今にも倒れそうなやつらが数人いる。
レーデル教官とクエバ鬼教官の2人からは、この国の救世主なのだから胸を張れ! と励まされていたが効果はないようだ。
「ただいまよりストラミア帝国魔法学園の皆様の歓迎会を行います」
司会は、キュリンドルさんだ。
「エレウレーシス連合王国国王陛下より歓迎の言葉を述べてもらいます」
聡明さを隠そうともしない風貌の男が静かに立ち上がった。
「ストラミア帝国皇帝、そして魔法学園の学生達よ、エレウレーシス連合王国によく来た。歓迎するぞ」
緊張していた学生達が皇帝の名を聞いて姿勢を正した。
「ストラミア帝国とは、約800年にわたって理解し合えない関係を続けてきた。しかし、それももやは過去の話となった」
エーデル様が皇帝を見た。皇帝は表情を変えない。
「今日は両国にとっての記念日になるだろう。ふん、堅苦しい挨拶はここまでだ。この後は、我が国の優秀な学生達の祝勝会になる。存分に栄誉をたたえ合え。以上だ」
日本の迎賓館での挨拶はもっと丁寧なんだろうな。
エーデル様らしい簡潔な挨拶だ。
「ストラミア帝国皇帝よりお言葉を賜ります」
「この国はいい国だな。我が国とは思想も文化も違うところがあるが、理解はし合えると私も確信している。姫よ、我が国の貴族が大変な迷惑をかけてきた。すまなかった」
皇帝がサクラさんに向かって静かに頭を下げた。サクラさんはサクラシア様モードだ、少し立ち上がって軽くカーテシーをした。
「騎士よ、あっぱれであった」
皇帝はそう言うと静かに座った。
この後は、文字通りの盛大な祝勝会になった。緊張していた学生達も今は普通に会話ができている。
魔法学園の生徒たちは、本国でなら平民はこのような場所には絶対に出席できない。冒険者が作った国の文化に驚いているようだ。
「騎士殿、少し話をしていいか」
えーと、確か『アンクニビヤンコトルエノ・コンタディーノバオバー』だったかな。まあ、1番でいいか。
「いいぞ。なんだ」
「おまえが平民というのは本当か」
「ああ、おれは冒険者だ」
「そうか、貴族達は何も言わないのか」
「言うやつもたくさんいるぞ」
「気にならないのか」
「おまえの先祖は何をしていた」
「ん、貴族だろう」
「その貴族の先祖、何代も前の先祖は何をしていた」
「う、知らない」
「この国で文句を言っている貴族の先祖達はみんなおれと同じ冒険者だぞ。どうだ、笑えるだろう」
「……」
「私の先祖もそうなのか」
「ああ、みんな同じだよ」
1番は黙り込んでしまった。
祝勝会は早めにお開きになった。学生だからな。大人達はこの後は酒盛りだろうな。ストラミア帝国の役人達はきっとやけ酒だろう。
侵略行為に加担していたのだ。本来なら処刑だ。皇帝が頭を下げたことで全て不問になった。魔動機関貴族を抜かしてだが。
選手達はすっかり打ち解けたようだ。魔法学園にも是非来てくれと固い握手を交わしていた。きっと、近い将来実現するだろう。
帰ろうとしたときだ、エーデル様が近寄ってきた。
「カナデ、少し付き合え」
サクラさんを見ると「いいわよ。待っている」と言う表情だ。猫も動かない。ならいいか。
「わかりました。どこに行くのですか」
「皇帝の所だ」
ああ、そういうことか。
王城の一室にその人がいた。皇帝だ。隣にはミラーシさんがいる。その後ろにはイローニャもいた。
「グライヒグを助けてくれたと聞いた。感謝する」
「気にしないでください。優秀なやつだから採用した。それだけです」
皇帝が少しいたずらっぽく笑った。
「あいつは役に立つぞ。こき使っていいからな」
ミラーシさんもイローニャもうなずいている。けっこう愛されキャラなのか。
「さて、本題だ。冒険者パーティー『紅桜』に指名依頼をしたい」
「依頼内容を言ってください」
「ナダルクシア神国の調査と行方不明者の保護だ」
う、そうきたか。
「私の一存では決められませんが、報酬次第ではここで即決しますよ」
皇帝がニヤリと笑った。
「エーデルよ、本当に話が早いな。助かるぞ」
エーデル様もそうだろうとどや顔だ。
「報酬は、前金で金貨500枚、成功報酬はその倍だ。そして、そこで発見した物の扱いは、全てそちらの神獣様の判断に任せる。これでどうだ」
「報告義務もないと言うことでいいですね」
「うむ、それでいい」
「わかりました。それともうひとつあります。ストラミア帝国上空の飛行許可をください」
「うむ、直ぐに役人達に作らせる」
「この依頼、承諾しました」
「たのむ。彼らを家族の元に返してあげてくれ」
「騎士よ、後で詳しい資料を届けたい。どうすればいい」
「イローニャ、おまえ魔術学院の学生だろう。生徒会室に持ってこいよ」
ああ、そう言えばそうだった。そんな表情でミラーシさんと顔を見合わせていた。
ぷっ、思わず吹き出したエーデル様。釣られてみんなも大笑いをした。
さて、10層攻略前にあの国の大掃除もしておこうか。レームスさんとの繋がりも強い国だ。きっと、一筋縄ではいかないだろう。帰ったら、作戦会議だな。
* * * * * (ピエール視点)
ん、ここはどこだ。なぜこんな場所にいる。
なぜ、窓に格子がついている。
おれはどうなったんだ。
たしか、へなちょこな火球がたくさん飛んできたはずだ。
くそ、あいつらめ。おれの命令を無視しやがって、おれが象徴になったときには、重い罰を与えてやる。
誰か来たな。
ドアについている小窓が開いた。誰かがのぞいている。
「ピエール殿下、エーデルシュタイン国王陛下です」
ふん、やっときたか。騎士が負けたので、おれに助けてほしいのだろう。
「要件は何だ」
「ピエールよ、おまえは愚かだな」
は、何を言っている。助けてやらないぞ。
「そんな口の利き方でよろしのですか」
「ストラミア帝国は負けたぞ。魔動機関貴族は拘束された。ウイルド州王国の国王は、おまえの廃嫡と国外追放を決定した。おまえの後ろ盾は何もない。さあ、どうする」
「……」
ストラミア帝国が負けた。そんなことはあり得ないだろう。あのルールでどうやって負けるのだ。
「ピエール殿下、いや、ピエール、あなたには侵略幇助の疑いがかかっています」
「は、ほうじょとは何だ?」
「魔術学院の学生のくせにこの言葉も知らないのか。情けないな。幇助とはその犯罪行為に協力したということだ。つまり、おまえが飛行船侵略の手引きをしたということだ」
「じょうだんじゃない。私は知らない。教えられてもいなかった。濡れ衣だ」
「どうやってそれを証明する」
「ダーチェリスト公爵かグライヒグを呼んでくれ。証言してもらう」
「無理です。どちらもあなたと同じように監禁されています」
「なぜだ」
「彼らは侵略罪で裁かれます。グライヒグは処刑されます」
処刑だと、ならば、おれはどうなるのだ……
「おれはどうなる」
「おまえはもはや貴族でも王族でもない。便宜を図る特権もない。つまり処刑だな」
「そんな、助けてくれ、いや、助けてください。私は何も知らなかった。本当です」
「愚かだな」
「私は何も悪くない。すべてグライヒグが仕組んだことです。助けてください」
「だめだ、自分の愚かさに気がつけないおまえは、これから姫が作る新しい秩序の中では生きられない。ここで一生を過ごせ」
ここで一生を過ごすだと。冗談じゃない。
「おい、どこに行く。おれをここから出せ」
行ってしまった。おれは愚かなのか。愚かとは何だ。それを考えろということなのか。わからない。誰か教えてくれ。あいつなら教えてくれたのか。元婚約者のあいつなら、寄り添ってくれたのか……。
次話投稿は明日の7時10分になります
次話は7章の最終話になります。
『ドモンの絶望★』自己中心的なお話になります。
苦手な方はご注意ください。




