105 皇帝の謝罪
「ダーチェリストよ。この勝負は騎士の勝ちだ。これは動かしようのない真実だ」
皇帝がよく通る澄んだ声でそう告げた。
会場から声が上がった。
「そうだ、騎士の勝ちだ」
「どこに不正ある。真剣勝負だったぞ」
「卑怯者はおまえ達だ」
「そうだ、魔動機関貴族おまえ達が卑怯者だ」
「魔法協会もグルだったのか」
「おまえ達こそ不正だらけだぞ」
「卑怯者は出ていけ」
「そうだ、出ていけ」
「出ていけ!」「卑怯者!」
「出ていけ!」「卑怯者!」
「出ていけ!」「卑怯者!」
「出ていけ!」「卑怯者!」
「出ていけ!」「卑怯者!」
「出ていけ!」「卑怯者!」
「出ていけ!」と「卑怯者!」の大合唱が起こった。
皇帝が認めたのだ。遠慮はいらない。
今までの理不尽な行いに対して思うところはあった。しかし、声を上げればひどい仕打ちを受けてしまう。
たまりにたまっていたイライラとした感情が爆発していた。それは、魔動機関貴族の権力を使って威張ってきた他の権力者にも向けられている。
「ふざけるな、おれに逆らえばどんなことになるかわからないのか」
顔を真っ赤にして怒鳴り散らしているダーチェリスト。
顔を真っ青にして、オロオロと狼狽えている魔法協会の権力者達。
「騎士達よ、そこにいる侵略者どもを拘束しろ!」
エレウレーシス連合王国国王が立ち上がり、騎士達に命令をした。
「かしこまりました」
アルティーヌさんが先頭に立ち、魔動機関貴族と魔法協会の関係者達を次々と拘束していく。
「どういうことだ、侵略者とは何だ」
拘束されたダーチェリストが叫んだ。
「あの飛行船は、国王である私の許可無しに我が国に侵入してきたのだぞ。これは、宣戦布告と同じだ。皇帝は侵入を指示していないと明言している。ならば、おまえが総責任者だ」
な、……
言葉が出ないようだ。なぜならその通りだからだ。
「まってくれ、おれ達は関係ない」
魔法協会の幹部達が叫ぶ。
全て無視され、連れて行かれた。
魔法闘技場に静寂が戻った。
皆が、ストラミア帝国皇帝を見ていた。
「まず、謝罪しよう。我が国の貴族達が迷惑をかけた。申し訳なかった」
皇帝が静かに頭を下げた。
前代未聞だ、絶対に人前で謝罪などしない。ましてや頭を下げるなど、開国以来一度もなかったはずだ。
シーンとなる会場。
「聞け、エレウレーシス連合王国はストラミア帝国と不可侵条約を結んだ」
お互いに相手国に攻め込まないという約束だ。平和への第一歩になる。
ウォォォォォォォォォォォォー!
よく分からないが、仲直りをしたと言うことだろう。ならば、貴族達が威張ることもない。理不尽なことには抗議ができる。もちろん歓迎だ。
観客達が立ち上がり、周りにいる者達と抱き合い笑った。
闘技場が大歓声に包まれている中、メガネをかけた美少女が歩いていた。その肩にはモモンガが乗っている。
その少女は1人の白髪の老人に近づいて行った。
「やあ、久しぶりだね。レームス」
「……」
「レーデルか。分かれたときと同じ姿だ」
「そこの記憶はあるのか」
「ああ、そこだけだ。後は全てない」
エルフは感情をあまり出さない。そういう種族だ。
だが、1000年ぶりの再会は例外のようだ。
「心配したぞ」
「すまなかった」
抱き合って、涙を流していた。
「この後の予定にはすべて拒否権を発動しますね」
隣にサクラさんがいた。
「隠れ家に帰りましょう」
ソフィアもいた。
「そうだな。それがいい」
ディーラさんもうなずいている。
「レームスさんの部屋を用意しないといけませんね」
ジェイドがニコニコしている。
「では、帰りましょう」
エルが宣言をした。
仲間達が勢揃いしていた。
「俺様が運んでおいたぞ」
目の前にベニザクラ号が止まっている。屋根の上にはしっぽを激しく振るどや顔の猫がいた。
「ナールルひさしぶりなの」
「うさぎもたまげる再開だね」
神獣達がじゃれあっている。かわいい。癒やされる。
「アルティーヌさん、今日はこのまま帰りますね」
「わかった。国王には私から言っておく」
苦笑いしている。本当は困るんだろうな。
「学院長、後は任せました」
ホホホと笑う学院長にそう言って、みんながベニザクラ号に乗り込んだ。その人数がどうして乗れるの。よく見ていればそう思うだろうが、観客達はこちらを誰も見ていない。
「風の道」
ベニザクラ号が静かに浮き上がった。
「発進します」
周りの景色が線になった。
* * * * *
次の日、王城から呼び出された。
「騎士よ、今回の対抗戦は見事だったぞ」
エレウス王から直々にお言葉をもらった。
近くで王女と王子もニコニコしている。
「知識の探求者であるレーデルさんに助けてもらいました」
「うむ、報告は受けている。この国の救世主でもあるな」
飛行船ショックを乗り越えられたのも彼女の知恵だ。
「『技術の探究者』はどうしている」
「ゆっくり休んでもらっています」
「そうか、話しを聞くことはできるか」
「今はやめた方がいいです。事情があり、正しい受け答えができるかわかりません」
「そうか、わかった」
こういう所なんだよな賢王と呼ばれる理由は。
「3日後に祝勝会を開く。その時は全員参加だ。逃げるなよ」
エーデル様がニヤリと笑った。
「探求者達は免除でいいですか」
「おまえ以外ならいいぞ」
く、読まれていたか!
しぶしぶ了承する。
「何か欲しいものはあるか。一応褒美だ」
くれるというならもらっておくか。
「グライヒグはどうなりますか」
「侵略罪だ、処刑だな」
やはりそうか。貴族ではないからな。
「グライヒグをわたしにいただけませんか」
エーデル様がピクッとした。
「理由を聞こうか」
「結果ではありますが、チャルダンとレームスの命を救っています。それと、敵意はないんです」
真色眼の判定は常に無色だった。つまり、敵でも味方でもない中立の立場だ。
いろいろ敵対してきたのは、そういう立場だったからだ。軍隊といっしょだ。命令に従っていたと言うことだ。
「敵か味方かがわかるのはおまえの能力だったな。なるほど……くせ者だぞ。使いこなせるのか」
「私の会社でこき使います」
「わはははは、おもしろい。わかった。おまえに任せる」
チャルダンは、私達が対抗戦をしている間にイグニス達がメディといっしょに救出している。イグニスの話しではほぼ自力で脱出してきたようだ。
クエバの宿敵もそこにいたので瞬殺したらしい。
ミリコス殿下との対抗戦の後に自暴自棄になったドモンが彼に危害を加えようとした。それをさせなかったのはグライヒグから指示を受けていた部下達だ。
レームスも、グライヒグの保護下にあったようだ。
ダーチェリストは、レームスが探求者であることを疑っていた。理由は、守護者である狐が言葉を操らなかったからだ。
また、これを作れという命令にもちょくちょく逆らっていたらしい。なので、かなり冷遇されていた。それをかばっていたのがグライヒグだ。
2人とも、グライヒグにとって利用価値があるから保護されていただけだが、感情で動かないグライヒグの行いが結果として2人の命を救ったことになった。
さて、ミイラめ、おれの部下になったと言ったらどんな顔をするかな。
ワクワクしながら監獄に向かった。
「騎士ですか。勝利宣言でもしに来たのですかな」
冷静だった。自分が処刑されることは既に知らされているはずだ。
「なぜ、ピエールを切り捨てたんだい」
「ふん、その事ですか。あの状況下では彼がいることで負ける可能性があったからですよ」
やはりな、グライヒグらしい判断だ。
「試合前のおれの言葉を覚えているか」
「おまえの会社で働けと言っていたことですかな」
「もう一度問うぞ。おれの会社で働かないか」
「……」
しばらく考えていた。
「興味深い提案ではありますが無理ですね。私は侵略罪です。この罪は重い。処刑は回避できないでしょうな」
「ならば頼むのはやめだ」
グライヒグがさみしそうにふっと笑った。覚悟はできているということだろう。
「命令だ、グライヒグよ、おれの会社で働け」
エレウレーシス連合王国国王の署名が入った釈放書をグライヒグに手渡した。
「ふん、次の私の上司は、おまえということですか」
「ああ、こき使ってやるから安心しろ」
グライヒグが姿勢を正した。
「私はなにをすればいいのですかな」
グライヒグの頭の上にコバルトブルーの玉がピコンと出た。チャルダン達と同じ絶対服従の色だ。
「ねこちゃん印を大陸中に広げる。知恵を出せ」
「了解しました。カナリズマ社長!」
会社の総務部新入社員が、直立不動のまま静かに礼をした。
こいつは隠れ家には馴染まないな。ねこちゃん会社に住み着いてもらうとするか。それと、もう戦いはさせない。その知略は会社のためだけに使ってもらう。
樹魔に吹っ飛ばされて飛んでいくグライヒグを思い出しクククと笑いながらそう考えた。
次話投稿は明日の7時10分になります
活動報告があります。よろしかったらご覧ください。




