104 魔法陣展開『神装力』
「よくやった。殿下にはもうちょと頑張ってほしかったが、観客達が大喜びだ。よしとしよう」
満足そうに腕を組み選手達を見る。みんないい表情だ。殿下をコテンパンにしたのだ。いい気分だろう。
「次はどう来ますか」
ジェイドがレーデルさんを見た。
選手達は、シンティから渡された特別製のポーションを飲み干す。魔力も気力も体力も元通りだ。
「総力戦になる。つまり、一対一の勝負にしようとするだろう」
「おれもそう思う。一対一ならD級対A級の力比べだ。相手が有利になる」
「うちも同じ意見よ」
「武器を使用すると思いますか」
「もちろんそうするだろう。相手はグライヒグだ。油断はしないはずだ。だがな……」
レーデルさんの声が小さくなった。結界を張っているので音は洩れない。でも、雰囲気は大事だよね。
「本当にそうなりますか?」
選手達が不安そうだ。レーデルさんの予測はそれほど意外性がある。
「ああ、間違いなくそう来る。なので、演技を頑張れ」
うーん、演技かあ……。そんな感じで悩んでいる。
「いいか、レーデルさんの予想通りなら、相手は油断する。そうなったときは一気に勝負をかけるぞ」
選手達がゴクリと生唾を飲んだ。
「クエバ教官の指導を思い出せ。できるな! 魔法陣展開『神装力』」
選手達の目に決意がともる。あの地獄のような特訓を思い出せ。おれ達ならできる。そんな眼光だ。
「時間です」
司会の言葉が聞こえてきた。
相手を見る。おおー、予想通りだ。
相手は、強力な魔法武具をこれでもかと言うぐらい身につけていた。選手達は戸惑っている。これでは試合ではなく殺戮ではないか……そう思っているのだろう。
レーデルさんがパチンと一つ手を叩いた。
演技開始の合図だ。
「冗談じゃない。これは交流試合ですよね」
「そうだ、そんな武器は学生は使わないぞ」
「私達を殺すつもりですか」
次々に抗議の声を上げていった。
「そうだぞー。卑怯者ー」
「恥を知れー」
「正々堂々と戦え」
客席からもヤジが飛ぶ。
「お静かにお願いします。今、運営で協議しています」
大会主催者が集まり協議を始めた。
「結果が出ました。団長より説明があります」
アルティーヌ団長が壇上に登った。
「これは学生同士の交流試合である。よって、武器の使用は今後一切認めない。以上だ!」
ウォォォォォ!
「よく言った」
「その通りだー」
大歓声の場内。
「異議あり!」
グライヒグの声だ。よく通る声だ。
シーンとなる会場。
「それでは不公平ですな。相手も強力な魔道具を使っていますぞ」
ひるむ学生達!
それを見て満足そうに微笑むグライヒグ。
私の出番だな。
ナツメさん直伝のポーカーフェイスを貼り付ける。
「言いがかりはよしてもらおうか」
グライヒグを睨みつけた。
「いいがかりですかな。ならば、そちらの選手がしているペンダントを外しても何の問題もありませんな」
グライヒグがにんまりとしてそう言った。
後では学生達が狼狽ている……演技をしている。
「ただのペンダントです。武器ではないですよ」
表情をくずさずにそう言い張る。
「確かにそう見えますな。ならば、外しても差し支えはないですな」
グライヒグも引かない。睨み合う。
「そちらがそのペンダントを外して運営に預けるならば、こちらも武器を運営に預けましょう」
「協議します。しばらくお待ちください」
「団長から説明があります」
「身につけていい物は防御魔道具のみとする。以上だ!」
崩れ落ちる学生達。
ふんぞり返るグライヒグ。
訳が分からずに困惑している魔法学園選手達。
よく分からないが、学生達の落胆する姿に不安を募らせていく観客達。
演技が大げさになってきた。
グライヒグの頬がピクッとした。
やり過ぎよ。演技を控えなさい。
ヒヤヒヤしながら見守っているシンティ。
相手の武器とこちらのねこちゃんペンダントが運営に手渡された。
「10分後に試合を再開します」
作戦タイムの時間をとってくれるようだ。ありがたい。
「よし、予定通りだ」
「レーデルさんの言った通りになりました」
尊敬のまなざしでメガネをかけた美少女を見つめる選手達。
「さて、一気に片をつけようじゃないか」
私の言葉に力強くうなずく。
「カナデよ、どうやら私はハイエルフだったようだ」
ん、なんですか。いきなり?
レーデルさんが相手の陣地を見ている。
魔動機関貴族の公爵がねこちゃんペンダントを運営から無理矢理奪い取りそれを魔法学園の技術者に見せているところだった。
ん、予定通りだよね?
技術者をよく観察すると、耳に特徴があった。エルフだ。それも、かなりの高齢に見える。学院長と同じだ。つまり、寿命が長いハイエルフだ。
ピン! 繋がりました。
「レームスさんですね」
「ああ、間違いない」
レーデルさんは、予想していた姿と違うことに少しショックだったのか、寂しそうに微笑んでいた。
「つくも(猫)、お願い」
座席で丸まっていた猫に話しかけた。
「ああ、問題ない」
しっぽがピコンと上がった。
あとは、猫パンチをするタイミングだけだ。
「時間です」
相手の学生達は事情を聞いたのだろう。全員がニヤニヤしている。
D級の魔術士とA級の属性魔法使いの戦いになったと思っているのだろう。隙だらけだ。
「相手は油断しているぞ。一気に片をつける」
「了解しました。隊長!」
ははは、まあいいか。
「魔法陣展開『神装力』身体強化」
全員が神装身体強化を展開した。通常の冒険者が出せる力の10倍だ。A級を完全に上回る力になる。
「魔法陣展開『移動』」
選手達の足下に魔法陣が広がっていく。それと同時にふわっと10センチ位浮き上がる。
何かを感じ取ったのだろう。グライヒグが叫ぶ。
「馬鹿者! 油断するな。相手は騎士だぞ」
ふん、勘のいいやつだ。だが、もう遅い。既に発動済みだ。
「全員行け! 猫パンチだ!」
移動魔法陣が滑るように選手達を運んでいく。
直ぐに状況を理解した魔法学園の選手達が攻撃態勢に入る。属性魔法使いに詠唱はいらない。体内魔力が高まり、迫ってくる敵に備える。さすがはA級だ。
「神装力 ねこぱーんち!」
選手達の拳が相手の懐に届いた。相手も魔法で迎え撃つ。相打ちだ。
通常ならA級の勝ちだ。しかし、神装力で強化されたD級猫パンチも威力は引けを取らない。
双方同時に『赤』判定になった。
「赤判定です。退場してください」
司会が叫んだ。
赤判定を受けた選手全員が退場をした。
舞台に残っているのはただ1人だった。
「騎士チームが1人生き残りました。よって、この勝負は騎士チームの勝利です」
ウォォォォォォォォォォォォォォー!
大歓声が沸き起こった。
ピエール殿下が退場していたので、相手は14人だったのだ。相打ちなら15人いたこちらは1人生き残れる。ピエール殿下を切り捨てたグライヒグの作戦ミスだ。
今まで表情をくずしたことがなかったグライヒグが初めてうなだれた。自分の作戦ミスを悟ったのだろう。
「ふざけるな! こんな試合は無効だ」
魔動機関貴族のダーチェリストが叫んだ。
「言いがかりはやめてもらおうか」
アルティーヌさんが出てきた。
「不正だ、騎士は不正をしていたのだ。証拠はこれだ!」
ダーチェリストがねこちゃんペンダントを掲げた。
宣伝ありがとうございます。
「これは、強力な魔道具だ。これを使って不正をしていたのだ」
「そうです。不正です。よって、この試合は無効、いえ、騎士の反則負けです」
魔法協会の権力者達も続いて抗議の声を上げる。
「そのペンダントが魔道具である証拠はあるんだろうな」
アルティーヌさんが相手を睨みつける。
ひるむ貴族達。
「こちらには『技術の探究者』がいるのだぞ! その方に証言してもらう」
手下だろう、男が1人の白髪のエルフを連れてきた。
「さあ、『技術の探究者』よ、証言するのだ。これは強力な魔道具であるとな」
ダーチェリストが、歪んだ顔でそう命令をした。
そのエルフが何かを言おうとしたときだ。1匹の猫がトコトコと近づいて行った。だが、誰も気がついていない。
猫が白髪のエルフの頭に跳び乗った。
「レームスよ。お仕置きだ!」
パチーン!
つくも(猫)の肉球が白髪のエルフの額に張り付いた。
「神装力第三権限開放『目覚めよメーム』」
会場全体に風が起こった。つむじ風だ。
みんなが目をつぶる。
目を開けた。何だったんだ。
1匹の狐がレームスの傍らで額を膝にこすりつけていた。レームスは、その頭を優しくなでていた。
「やあ、ナールル心配かけたようだね。ごめんよ」
「まったくです。目がさめましたか」
狐が喋っていた。
「みろみろ、神獣様だ。こいつは間違いなく探究者だ!」
ダーチェリストが狂ったように叫ぶ。
なんだ、信じていなかったのか。
「さあ、言え。これは魔道具だと」
ねこちゃんペンダントをレームスに突きつけた、それを黙って受け取り観察する。
「違うね。これはただの金属だ。だが、デザインは洗練されている。装飾品としてなら一級品だよ」
白髪のエルフが静かにそう言った。
「……」
言葉が出ない。
「ふ、ふ、ふざけるな。おまえなど偽物だ」
わめき散らすダーチェリスト。
「ダーチェリストよ、見苦しいぞ!」
エーデル様達がいる貴賓室から声が聞こえてきた。拡声魔法を使っている。会場全体にその声が届いていた。
ダーチェリストは声がする方を見上げた。
「なんでいる。皇帝!」
ストラミア帝国皇帝『オーベリング・レイ・ナスマウラ』が、そこにいた。
次話投稿は明日の7時10分になります




