103 ピエール殿下の退場
「おまえたち、ここが正念場だぞ。次は、波状攻撃で来るだろう」
「レーデルさんに賛成です。ここで人数を減らしておいて、3戦目に飽和攻撃を仕掛ける作戦です」
「波状攻撃なら火魔法が有効ね。相手の火属性は8人よ。A級の火魔法は強力よ」
「カナデさん指示をお願いします」
「シンティ、A級相手にC級の魔法陣展開ならどんな防御が有効だ」
「土壁なら5回が限度。水での無効化なら互角よ。でも、直接攻撃で炎に命中しないと効果はないわね」
「よし、5人1組にする。3チームで扇形になり守る。役割分担は練習通りだ。いけそうか」
「はい、任せてください」
この1ヶ月で何回も練習をしてきた防御に徹した隊形だ。
「さて、魔法と魔術の決定的な違いを見せてやろうか」
私の言葉にみんながにんまりと笑った。
「時間です」
司会の合図で戦闘が始まった。
相手は火魔法が3人だ。その隣には土魔法が2人いる。2人1組で攻撃と防御をしながら攻める作戦だ。
そして、同じ隊形がもう2つあるだろう。交互に波が押し寄せるように攻撃を仕掛けてくるはずだ。
A級は威力だけではない。距離が離れても致命傷の攻撃が可能になる。やっかいな相手だ。
守りは、5人1組になる。3人が防御をして2人が攻撃に回る。それが3隊だ。
魔術の利点は属性がないことだ。魔法陣さえ覚えれば全ての魔法効果を使いこなせる。欠点は威力と距離だ。生活や仕事で使うなら気にならないが戦闘には向かない。
冒険者に属性魔法使いが多いのは、魔物相手には魔術は通用しないからだ。パーティーの中に1人は魔術師がいるが、彼らはみな後方支援になる。
もちろん、なくてはならない存在である。彼らを冷遇するパーティーは、A級には絶対になれない。『風の森』パーティーはクエバが魔術師を兼ねている。
「30分間休み無しで来ると思うか」
ジェイドに聞いてみた。
「グライヒグならそうしますね。波状攻撃とはそういう攻撃です」
おれもそう思うよ。やれやれだ。疲れる30分になりそうだ。
「5番と8番と10番が火属性です」
「2番と14番が土属性よ」
属性は公開されていない。それも戦術の一環だからだ。だが、ミラーシさんから入手した名簿にはそれが記されていた。さすがは情報機関である。正確だった。
こちらの射程距離の倍は離れたところから火魔法を放ってくる。用心深いぞ。
土壁はC級だ。5回直撃されると霧散してしまう。また展開させるまでに10秒ほど必要になる。A級の攻撃ならその10秒でこちらを全滅させることも可能だ。
「全て水で無効化させる」
(神装力第三権限開放 超計算並列思考発動 認識阻害を髪の毛に適応)
超計算を並列思考に割り振る。3隊の戦闘を同時にカバーするためだ。
髪の毛に情報の光が走るのでそれを認識阻害で見えなくする。
「魔法陣展開『命中補正』上掛け」
耳に展開された通信魔法陣からこの効果が適応される。
防御は任せる。それだけの練習を重ねてきた。
攻撃には補正をかける。狙わなくていい。とにかく水を生成して打ち出せば、自動的に当たるように調整する。
「魔法陣展開 水球」
「魔法陣展開 水球」
「魔法陣展開 水球」
6人が順番に水球を出現させる。こちらも水球の波状攻撃だ。次から次にどんどん水球を出現させて、それを打ち出す。
相手が放った火球に水球が真正面から当たり魔法を霧散させる。
見ている側からは、正確に狙っているとしか思えないだろう。ふふふ、敵さんびっくりしているぞ。何しろ百発百中だからな。
「なんだ、全部水で無効化されているぞ」
「だめだ、攻撃が一発も届かない」
「どうなっている、こちらの火玉に全て命中するなどありえないだろう」
土壁に届く火魔法は一発もない。
相手は5分ごとに違う隊が攻めてくる。まさに波状攻撃だ。本来なら土壁を余裕で霧散させているはずなのだ。
こちらの人数を半分まで減らし。3戦目で総力戦に持ち込み数で圧勝するという戦術だろう。
「なぜ、疲れないのだ。おかしいだろ」
「ばけものか!」
相手の戦意がしぼんでいく。いくら攻撃をしても届かないのだ。こんなことは今まで経験したことがなかったのだろう。なにしろ、力押しで全てがなんとでもなるA級なのだ。
「ふざけているのか」
突然大きな声がした。ピエール殿下が鬼の形相で自分のチームの選手を睨んでいる。
「おまえたち、遊んでいるのか。なんで一発も当たらない。相手はC級だぞ。しかも魔法は使えない低能者だ」
ずかずかとこちらに歩いてきた。
グライヒグを見る。勝手にしろという感じで見ている。なるほど、ならば遠慮はいらないな。
「ピエール殿下を退場させる。本当はいてくれた方が相手が混乱して都合がいいのだが、まあ、仕方ない」
攻撃は完璧な仕事をしている。ならば、防御に余裕が出る。
「各隊の防御を2人に変更。1人は火魔法でピエール殿下を狙い撃ちしろ」
5人中3人が攻撃に回る。2人が水を生成している。もう1人は火玉の生成だ。
「神装力『命中補正』適応火玉」
お仕置きだ。心を折りに行くぞ!
神力の補正が掛かった火玉は半端ないぞ。
「魔法陣展開 火玉」
各隊1名ずつで3方向から火玉をピエール殿下に向かって打ち出す。
「ふん、C級の攻撃など当たっても一つもダメージなど受けないわ」
油断しているピエール殿下の顔面に1発目が直撃した。
魔法の天才の名は|伊達『だて』ではない。身体強化した体にはノーダメージだ。
「ふん、こんなもんか。情けない」
高笑いしている顔面に、続けて2発が直撃した。そして、また、1発、また2発、次から次に直撃する。命中補正が掛かっているのだ。外れるはずがない。
「く、なぜ全て命中してくる」
少しよろけた。魔道具はまだ反応しない。身体強化が掛かっているのでそれも考慮されているようだ。優秀な魔道具だ。
「お前ら、おれの盾になれ」
周りの選手に命令をした。
選手がグライヒグを見る。動きはない。
選手達は傍観することにしたようだ。さきほど罵倒されたばかりだ。助ける義理は何もないよな。
「なぜ、おれの命令を聞かない。おれは王子だぞ」
小さな州王国のだよね。相手は大国ストラミア帝国だよ。
「おれは、新大陸の象徴になる男だぞ。命令を聞け」
この試合に勝てたらだよ。無理だけどね。それに、もし勝っても約束が守られるかは怪しいよ。
「くそ、役立たずどもめ」
さて、どうする魔法の天才さん。
ピエール殿下が腰に下げていた魔法剣を引き抜いた。武器の使用は禁止されていない。なので止める者はいない。
「全て焼き尽くしてやる」
体内魔力を練り上げる。しかし、ここは大樹の森ではない。しかもまだ学生だ。A級の魔力持ちであってもイグニスの本気には到底及ばない。
ここの平民学生達は、毎日イグニスの本気と対峙してきたのだ。その程度の魔法では脅しにもならないぞ。
「魔法陣展開 水球連続錬成」
9人の攻撃陣が一斉に水球を出現させる。
「魔法陣展開 土壁に結界上掛け」
クエバ仕込みの上級魔法陣展開だ。
「魔法陣展開 命中補正」
私も魔法陣で支援をする。
「カスども、燃えてなくなれ」
最大火力状態の魔法剣から炎の剣が襲いかかって来た。長さにして30メートルぐらいだろう。学生としては頑張ったかな。
辺り一面が炎に包まれた。魔法をキャンセルする結界がなければ客席にも被害が及んだかもしれない。
客席から悲鳴が上がった。
「水球連続投下」
空からテニスボールぐらいの雨が降ってきた。それが、炎を一瞬で消滅させた。水は火の上位魔法になる。C級でも数があればA級を相殺できる。
「魔法陣展開 火球連続錬成」
15人の選手全員が火球を出現させていた。
「敵はピエール殿下だ、打て」
C級の火球だ。ひとつひとつは威力が落ちる。しかし、1人で10の火球なら15人で150個になる。さあ、A級よどのぐらいまで耐えられる。実験開始だ。
10個全弾が命中した。ずぶ濡れだったピエール殿下の全身から水蒸気が上がる。
次の10個が命中する。殿下の全身が乾いた状態になった。感謝してほしいな。
次の10個が命中した。おや、少し焦げたか。
次の10個が命中する。髪の毛が縮れた。
次の10個が命中した。殿下が少しよろけた。
次の10個が命中した。殿下がさらによろけた。
次の10個、次の10個、次の10個、次々に命中していく。命中補正が掛かっているのだ、外れる方が難しい。
髪の毛はちりぢりになり所々が焦げている。服も焦げた部分が広がってきた。
魔道具はまだ反応しない。身体強化が優秀なのだろう。さすがは天才だ。
次の10個、次の10個、次の10個、次の10個、
130発目で魔道具が『黄』判定になった。
とどめだ。残りの20発を一斉に放った。
魔道具が『赤』判定になった。
「赤です。ピエール殿下は退場です」
「時間です。10分間の作戦タイムに入ります」
ピエール殿下に意識はない。立ったまま気絶していた。身体強化が優秀すぎて魔道具の判定が遅れたのだ。精神の方が先に崩壊したようだ。
係員に担がれてどこかに連れて行かれれた。
会場は大騒ぎだ。特に平民学生の応援団が立ち上がって喜んでいる。完膚なきまで叩きのめされたのだ。見ていた方はスッキリしただろう。
魔法学園側に初めての退場者が出た。これで、15人対14人になった。




