102 特訓の成果 ★
戦いは静かに始まった。
魔法学園の大将は『アンクニビヤンコトルエノ』と言う名前の学生だった。ピエール殿下がその役目をすると思っていたのでちょっと意外だった。
「レーデルさん、なんでピエール殿下が大将ではないんでしょうか」
ジェイドも気になったようだ。
「グライヒグの言うことを聞きそうもないからだろう。感情のまま指示を出して自滅する。それを危惧した結果だな」
ああ、確かに。
「ピエール殿下相手なら、煽って煽ってイライラして強引に攻めてきたところを返り討ちにする……と言う作戦もできたのに残念です」
「カナデの言う通りね。グライヒグ相手だとその作戦は使えないわ」
シンティも残念そうだ。
「かなり慎重ですね。なぜでしょう。もっと、力押しで来ると思いました」
ジェイドが考え込んだ。
「ねこちゃんペンダントを警戒しているな。防御については対策ができたが、攻撃力がどの程度かを見極めたいのだろう」
レーデルさんが相手の動きを目で追っていく。ジェイドはノートに気になる選手の動きを線で繋いでいく。魔物の動きを追うのといっしょだ。
私は全て暗記していく。超計算を使わなくてもこれぐらいならできる。申し訳ないが、学生の動きなど止まっているのと同じだ。
相手は5人が攻めで10人が守りだ。なので、こちらは10人が攻めで5人が守りにした。2人1組で相手と向き合っている。ピエール殿下はまだ守りにいる。
イグニスとイディアがみっちりと鍛えてくれたので、ディーラさん絶賛のバランスの取れた筋肉に仕上がっている。動きに無駄はない。A級相手でも動きだけなら十分戦える。
「5番とナシオン、クルリスが戦闘を始めました」
相手選手の名前はやたらと長い。これも戦術なのかと疑いたくなるほどだった。なので、単純に番号を振らせてもらった。
「よし、2人1組の効果が出ている」
魔法陣展開『身体強化』に脚力と俊足を重ねがけしている。クエバ仕込みの上級展開だ。A級相手でも十分通用している。
ナシオンとクルリスが交互に入れ替わりながら相手に近づいていく。5番は的を絞れないでいる。他のメンバーが参戦したくても常に2人1組で妨害されるので行けない。
「ナシオン、後から来ている。『3時に1移動』」
今回の作戦の切り札がこれになる。魔法陣展開『通信』だ。クエバの特訓の大半はこいつを使いこなせるようにするためだったのだ。
選手達の耳元には、直径5センチほどの魔法陣が常に展開してる。そこに私から指示を送るのだ。
この魔法陣は、次元渦巻の応用だ。物理的技術ではなく神力の通信だ。魔法陣も相手には見えない。
相手が知ったらいろいろ抗議してくるだろうが教えるつもりはない。未知の力に恐怖してもらおうか。
3時は時計の3時の方向、1は1メートルだ。
『4時に5移動』なら、4時方向に5メートル移動となる。この魔法闘技場を貸し切っての練習で毎日この移動練習を繰り返してきた。今は支持通りに瞬時に動けるようになっている。
ナシオンがピョンと移動する。必ず当たると思って放った火魔法が観客席前の結界に当たり霧散する。
「なんだ、どうしてわかった」
7番が首を傾げている。守りにいた選手がいつの間にか移動していた。グライヒグの指示だろう。かなり接近するまで気がつかなかった。なかなか巧妙だ。
7番は困惑しているが、観客は大喜びだ。
試合前に防御魔道具の調整をした。魔道具の性能を誇示したい魔法協会と魔動機関貴族がその様子を公開したのだ。そこでのやりとりはこんな感じだった。
「ナシオン選手、D判定です。耐久度はCです」
「クルリス選手、D判定です。耐久度はCです」
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「ファーノ選手、D判定です。耐久度はCです」
「魔術学院の選手はすべて耐久度はCです」
司会の説明に観客達も、学生だ。まあそんなもんだろう。と言う反応だった。
次に魔法学園の測定になった。
「アンクニビヤンコトルエノ選手、A判定です。耐久度はAです」
おおー、高いな。
「ドゥネーロレンパゴネ選手、A判定です。耐久度はAです」
すげー、2人続いてAだぞ!
「ワストロリーヴィルデエノルト選手、A判定です。耐久度はAです」
……なんか、すげえな。またAかよ。
「ルフィカルトダーゼオチルメンタ選手、A判定です。耐久度はAです」
…… 続くよな。すげーよな。
「ファヴサンクルーノペンスター選手、A判定です。耐久度はAです」
……
「エンベロックスシスク選手、A判定です。耐久度はAです」
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「エンブラザウチンシコクエ選手、A判定です。耐久度はAです」
「魔法学園の選手は全て耐久度Aになりました」
淡々と説明する司会の言葉をもはや聞いてはいなかった。
「どういうこと?」
「しるか」
「これで。勝負になるのか」
「D級対A級だぞ。大人と子どもがけんかするようなもんだ。勝てるわけないだろう」
「いや、これって、公平じゃないよな」
「ばか、黙っていろ」
「そうよ、客に紛れて工作員がいるはずよ」
抗議は一切できない。しかも相手はあのストラミア帝国だ、何かを言ったらどんな因縁をつけられるかわからない。
なんとも言えないモヤモヤした気持ちを持って観戦していたのだ。それだけに、相手の魔法がかすりもしないこの状況はスッキリとしただろう。
「いいぞー」
「すごいぞ。かすりもしないぞー」
「ざまあみろー」
ヤジを含んだ温かい声援が飛び交う。
ちらっとグライヒグの様子を見る。相変わらずの無表情だ。まったくもってやりにくい。
「ロスタ、クルビー、4番と3番が連携した。引け」
ロスタ、クルビーが直ぐに陣地に戻ってきた。逃げ足は一流なのだ。これはリーウスによる指導の成果だ。
相手は、形成不利と判断したようだ。下がっていく。
「ディララ、オーサイ、3番4番に炎連続連射だ」
「魔法陣展開 炎連続」
「魔法陣展開 連射」
炎が、後ろ向きで下がっていく3番4番に連続で襲いかかった。相手は対処ができない。全弾命中した。
相手の防御魔道具にダメージが刻まれた。表示が黄色になる。
魔道具には、『青』『黄』『赤』の表示がついている。赤は一発退場になる。黄は次に同じかそれ以上の攻撃を受けたら赤になるという警告だ。
「よし。ダメージが入った。戻れ」
ディララとオーサイには深追いはさせない。直ぐに陣地に戻した。
ウォォォォォオ-
歓声が上がった。大喜びだ。こちらはまだノーダメージだ。当然の反応だ。
試合は膠着状態に入り、30分が経過した。
「時間です。10分間の作戦タイムになります」
司会の宣言で第1試合終了だ。
「よし、いい感じだぞ」
「うむ、いい動きをしている。自信を持て」
「先輩方、かっこいいです」
励ましの言葉に気持ちを高揚させていた。
「魔力と体力の補充用ポーションだ。薬学の探究者が作った特別製だぞ」
みんなにポーションを配る。それをありがたそうに飲み干していく。練習の時も飲んでいたものだ。効果には自信がある。
「次は必ず何か仕掛けてくるがいろいろ難しく考えなくていい。指示通りに動けているから問題ない。そして、何かあっても決してひるむな。必ず指示を出す。安心して待て」
力強くうなずく選手達。本当に逞しくなった。
★ ★ ★ ★ ★ (グライヒグ視点)
おれの会社ですか……。やはりあのふざけた猫マークの会社はカナデが経営者なのですね。カナリズマ・デ・トゥーラが社長の名前です。もしやと思っていましたがその通りでしたか。
あの会社には興味があります。ものすごい可能性を感じています。魔動機関よりもです。信じられません。この私が興味を持つ物がこの世界にまだあったことにびっくりしています。
まあ、いいでしょう。この勝負は我々の勝ちです。その会社ごと私がもらい受けることにしましょう。
ふん、このバカ王子はまだ騒いでいるのですか。あなたが指揮をしたら一瞬で負けることになるということがなぜわからないのでしょう。これだから無能はきらいなんですよ。
おかしいですね。動きに無駄がないです。こちらの動きを外から観察したように察知していますね。やはり、あのペンダントが魔道具になっているようです。
彼に尋ねてみましたが、仕組みが想像できないと言っていました。魔道具に関して、彼にわからないことがあるとは思っていませんでした。そこは誤算です。
もう一戦様子をみましょう。それでも彼が理解できない技術なら危険です。排除する作戦を実行するとしましょうか。
ふふふ、大将の隣で参謀を務めているこの男が『技術の探究者』と呼ばれている者だとは誰1人として気がつかないでしょうね。
さて、カナデよ。次はどんな方法で私を楽しませてくれますか。
次話投稿は明日の7時10分になります




