101 因縁の対決
王城壁の中にある魔法闘技場は、収容人数が5万人である。東京ドームは5万5千人らしいので、ほぼ同じぐらいの大きさだ。
その闘技場は今満席である。階段状の座席なので立ち見を含めると5万人は越えているだろう。
20人位が入れる貴賓室では、エレウス王国の国王一家も観戦している。その周りには、有力貴族達が陣取っている。エレウス王の支持者達だ。つまり、10層攻略に協力的な人たちになる。
実行委員長である縦ロールの娘もここにいる。その役目も今日で終わりになるだろう。お疲れ様でした。
同じような部屋はいくつもある。部屋の前には護衛の騎士達が目を光らせている。
ストラミア帝国の貴族達も一室を貸し切って観戦している。その表情は満面の笑顔だった。今回の戦いの勝利を確信している顔だ。
「ただいまより、ピエール王太子殿下と騎士の対抗戦を始めます」
司会は、リザルトさん達だ。ダンジョン勝負での実績を買われて抜擢されたらしい。お疲れ様です。
「今回は、魔術学院と魔法学園の交流戦を兼ねています。魔術と魔法の戦いになりますので、大変見応えがあると思われます。その期待からか会場は満席です」
ウォォォォォォォー
異様な盛り上がりである。ストラミア帝国の支持者達が騒いでいるのかと思ったがそれだけではない。純粋に魔術と魔法の勝負を楽しみにしているようだ。
ならば、期待に応えねばならない。頑張ろう。
まだ、グライヒグに動きはない。荷物検査で没収か怪しい魔道具は使用できませんなどと試合前に妨害工作をしてくると思っていたので意外だ。
「試合のルールを説明します」
司会はリザルトさん、エフォールさん、ペイラーさんの3人だ。順番に説明していくようである。
「試合は生き残り戦です」
「勝敗は言葉通りです。最後に生き残っていたほうが勝ちです」
「属性魔法による攻撃、武力による攻撃、魔法陣展開による攻撃。どの攻撃でも相手に致命傷を与えたと判断されたら退場になります」
「致命傷だったかは、今回のために特別に作られた防御魔道具が判断します」
「魔力量に応じて、耐久度が変わります」
「魔力量が低い場合は、C級魔法の衝撃で致命傷判定になります。判定を受けた選手は退場になります」
「魔力量が高い場合は、A級魔法まで耐えられます」
「致命傷判定は魔力量ごとに変わりますが、全ての防御魔道具はS級魔法まで1回だけ耐えられる構造になっています」
「これは、戦うのが学生であるので、大陸魔法協会が安全に戦えるようにと配慮した結果です。異論は認められません」
「1試合が30分です。時間が来たら10分間の休憩になります。試合数は無制限です。15人全員が致命傷判定で退場になるまで続けられます」
「ポーションの使用、魔道具、魔法具の使用に制限は設けられていません。そのための防御魔道具です」
「それぞれのチームに大将を1人置きます。大将は直接試合に参加することはできません。後方支援のみになります」
「大将は自信が攻撃された場合に限りその相手を攻撃できます」
「大将が退場になっても、戦いは終了しません」
「大将以外の相手が全て退場にならない限り勝敗はつきません」
「このルールは、エレウレーシス連合王国国王とストラミア帝国皇帝による承認のサインがされています。よって、抗議は一切認められません」
司会者3人組が、次々とルール説明をしていく。
防御魔道具のことなど、いろいろ聞いていないことが多いんですけど。エーデル様、本当にこのルールでサインをしたのですか。
貴賓室にいる国王陛下を見上げた。
そっと、目をそらされた。
なんですとー! 確信犯ですかー。
「カナデよ、エーデルを責めてはいけないぞ。学生の安全を最優先するのは王として当然のおこないだ」
「レーデルさん、それはわかりますが、事前にこうなったと知らせてくれてもよかったような……」
「無理じゃよ、これが決まったのは昨日の夜中じゃ」
ん、学院長よ、どういうことでしょうか?
「皇帝とエレウス王との非公式の密談があったのじゃ。皇帝からの要望でルールの変更がなされたはずじゃ」
「なんでですか」
「魔法協会じゃよ。大陸でかなりの権力と特権を持っている組織じゃ。ストラミア帝国の有力貴族とも繋がりが強い。つまり、『魔法が魔術に負けるなどということは絶対認めない』ということじゃな」
うわー、まとめてポイの候補が増えちゃったよ。
「なるほど、よく分かりました。敵さんが嬉しそうにしているのはこういうことだったからですね。つまり、魔動機関貴族が絡んでいるということか」
「正解だな。そして、あの防御魔道具を作ったのは間違いなくレームスだろうな」
「そうですね。能力に対して公平で安全面にも完璧に配慮されています」
レームスさんの人柄がわかる技術だ。
「さて、困りましたね。こちらは全てC級魔法で退場になります」
「あちらはA級まで耐えられるメンバーよね」
ジェイドとシンティが議論を始めた。
大将は戦えないが、参謀を3人まで指名できる事になっている。これは事前の打合せ通りだ。
私は迷わず、ジェイド、レーデル、シンティを指名した。
「レーデルさん、ねこちゃんの加護ならS級まで余裕で耐えられますが、きっとあの防御魔道具は正確に作動しますよね」
「うむ、レームスの技術だからな。かなりの確率でそうなる」
「やられましたね。こんな方法でねこちゃんの力を無効化してくるとは思いもしませんでした」
「ジェイドよ、その通りだ」
グライヒグらしい隙がない戦略だ。
「まあ、おれの魔法陣展開で相手の攻撃を全部当たる前にキャンセルして行くしかないな」
「あとは、クエバさんにしごかれて身につけた魔法陣展開『神装力』を使いこなせるかどうかですね」
「ああ、おれの補助魔法であいつらのC級攻撃をA級に格上げする。それで相手の魔道具が反応するはずだ」
多少の想定外の事があったが、こちらとしては訓練通りに戦えば善戦はできるはずだ。
「さて、はじめようか」
私はゆっくりと歩き始めた。行き先は闘技場の中央だ。そこに、ピエール殿下とグライヒグが待っている。
「騎士、降参しに来たか」
ピエール殿下だ。こいつは3バカ王子の中で一番態度が悪い。魔動機関貴族の援助も当然だと思っているように感じる。サクラさんにちょくちょく絡んできたのもこいつの取り巻きたちだった。
「その言葉をそっくりそちらにお返ししますよ」
無表情でそう言ってやった。
「これだけの不利な状況下でもまだ諦めていませんか。ですが、私が本気で動いて準備をしたのです。勝利は我々です」
グライヒグも感情を出さずに淡々としている。
「騎士、おれはあいつらとは違うぞ。勝つためならどんな手段でも受け入れる。学院の敵だと思われても何とも感じない。最後に笑うのはおれだ」
ピエール殿下は歪んだ笑いを浮かべたまま、自分の陣地に戻って行った。あいつらとは、入り口の町へ向かった2人の元殿下のことだろう。
「カナデ。どうです。私の部下になりませんか。私はあなたの力を高く評価しています。そうすれば、あのバカ王子のすきなようにはさせませんよ」
どうやら本気らしい。
「グライヒグ、おれもおまえの力を高く評価している。こちら側に来る覚悟が決まったらそう言え。真意の判定はさせてもらうが、おれの会社で活躍してもうこともできるぞ」
グライヒグの表情がピクリと動いた。珍しい。彼の何かにこの言葉が響いたのかもしれない。
クルリと振り向き、お互いの陣地に戻っていく。因縁の対決に終止符を打つために。
次話投稿は明日の7時10分になります




