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第九話 とある盗賊が勇者の仲間になるまで

本当は第八話とまとめて一話にするつもりだったんです。

でも書いてたら長くなっちゃって……二話にした方が区切れがいいなと思い二話にしました。

決して、楽がしたかったわけじゃありません!

『ねえ、君の名前はなんていうの?』


これは……記憶?


誰かの記憶が俺の中に入ってくる。

見えるのは一人の男の子。

周りの景色に、俺は息を呑んだ。


こんな建物、見たことない。

壁は滑らかで、照明は魔法陣なしで光っている。

窓の外には見たこともない乗り物が走っている。

どこだ?ここは……


『あ、先に僕の名前を教えないとね。僕の名前は晴樹。友達になってくれ』


このとき「私」はすごく嬉しかったんだっけ。

なんせあの時の「私」は暗くて誰も話しかけてくれなかったから……


クソ!なんだ!?俺の中に俺じゃない何かの感情が流れ込んでくる!


それから時が流れる。

一緒に勉強する姿。

二人で遊んだ日々。

幸せな時間。

そして――


『た、助けてくれ!家族が変な奴に襲われたんだ!』


場面が一変する。

晴樹が血相を変えて「私」の家に飛び込んできた。

その顔は恐怖に歪んでいる。


『ごめん……ごめんな。俺が来なければこんなことにはならなかったのに』


晴樹が「私」に縋り付いて泣いている。

違う。

あなたは悪くない。

頭ではそう分かっていたのに押さえつけることができなかった。誰かを責めて楽になりたかった。


『なんで来たの』


そう言って「私」は逃げ出してしまった。

そのことが晴樹をひどく傷つけたと思う。

そのせいで晴樹は変わってしまった。

何事にも無気力になり、自分の命を人のために張るようになった。


そして「私」も変わった。

めいっぱい気丈にふるまって両親が死んだことなんて、なんてことないように見せた。

いつしかそれが「私」の人格を作っていった。

晴樹には楽しく生きてほしかったから。


……この記憶は断片的だ。

きっと記憶の持ち主の一番大切なものが「五十嵐晴樹」との記憶だったのだろう。

だがここはどこなんだ?こんな発展している国は聞いたことがない。


視界が霞む。

冷たい。

体が、どんどん冷たくなっていく。


『あ、あんなやつ俺がぶっ倒してやる。だから……死なないでくれよ美紀』


晴樹の顔が、涙でぐちゃぐちゃになっている。

必死に「私」を抱きしめている。

その温もりだけが、まだ感じられる。


一度家族を失い、また家族を失う。

それだけは……それだけはさせたくない。

せめて……せめて、この気持ちだけでも。

「私」は最後の力を振り絞った。

晴樹に、顔を近づけて。

そっと、唇を重ねた。


『み、美紀!?』


晴樹の驚いた声。

でも「私」はもう、それに答える力もなかった。

ただ、伝えたかった。

あなたが大好きだった。

あなたと過ごした時間は、幸せだった。

ありがとう。

そして――

ごめんね。


さよなら「私」の愛しの……晴樹。


意識が、消えていく。

最後に感じたのは、晴樹の温もりと、彼の泣き声だった。




「起きなさいよあんた!」


「グェッフ」


強烈なビンタによって俺の意識が覚醒する。


「なに泣いてんのよ。そんなに痛かった?」


……さっきのは何だったんだ?

この女……美紀の記憶だよなあ。

くそ、まだ頭がよく回らない。


とりあえず整理すると。

美紀から俺は記憶を奪った。

それはきっと「晴樹」という男についての記憶だ。


世界の声の説明だと俺の異能は相手の一番大切なものを奪うって言ってたよな。

ってことは美紀が一番大切だったのが「晴樹」との記憶で、俺はそれを奪ったってことか。


それで最後、美紀は死んでいた。

なんで死んだ奴がここにいるんだ?

意味が分からない。


「なにボケっとしてるのよ」


美紀の声で我に返る。

というか俺、殺されない?


「あの……生かしてもらえるんですか?」


恐る恐る訊く。


「なに?死にたいの?」


「いえ!生きたいです」


「なら来なさい」


言われた通りに美紀の方に近づく。

彼女はため息をついた。


「めんどくさいけど一から説明してあげるわ……」


そこから美紀は自分が異世界から来たこと、一度死んで神によって世界を救うために蘇ったことを教えてくれた。


「まあ信じられないこともあると思うけど、全部真実だから」


美紀の言っていることは俺の見た記憶と相違がない。

ってことはつまり真実なんだろう。


「信じるよ。でもなんで俺にそれを話すんだ?」


「あら簡単に信じるのね。まあなんで話したかって言うとね……今からあなたに私の仲間になってもらうからよ」


「は?」


そう言って美紀は手を差し出す。

握手すればいいのかな?

手を握った瞬間――


『「垣山美紀」から「英雄との契約」の申請が届いています。契約を承諾しますか?』


世界の声が聞こえた。

なんだこれは?とりあえず保留したほうが……


「何してんの。さっさと承諾しなさい」


美紀の冷たい声。


「は、はい」


美紀が怖いのでとりあえず承諾する。


『「英雄との契約」を承諾しました』


『能力値を補正します』


『契約により「垣山美紀」からの命令に逆らえません』


えっ!?ちょっと待って!最後やばいこと言ってなかった!?


「な、なんなんだこれは!」


「何って私の仲間になるための契約よ」


「垣山美紀からの命令に逆らえないって言ってたんだが」


「垣山美紀ってのは私のことね」


「そんなことは分かってる!俺が聞いてるのは命令に逆らえないってのはどういうことだって聞いてんだ!」


少し声を荒げてしまった。


「言葉通りの意味よ。ほら、うつ伏せになりなさい」


そう言われた途端、体が勝手に動いた。

意思とは関係なく、俺の体はうつ伏せになる。

体が言うことを聞かない!


「いいわね」


美紀が満足そうに頷く。


「なにがいいわねだ!」


「あらそんな言い方していいの?じゃあ死ぬまで走ってみる?」


「ま、待て待て俺が悪かった」


慌てて謝る。

反抗したら本当にやらされそうだ。


「敬語は?」


「お、俺が悪かったです」


「ん……なんかしっくりこないからため口でいいわよ」


なんだこいつ!


「そ、それでどうして俺だけ助けたんですか?」


「ああ、それね。私の天職『勇者』は人がどんな罪を犯したか分かってね。犯した罪が大きいほど私は相手にダメージをよく通せるの。それで、あいつらは罪が大きすぎて清算できなかったけど、あんたは一応罪はあったけど最初の蹴りで清算できたから。私の中であんたは悪人から一般人になったからよ」


そういうことだったのか。

あの蹴りが罪の清算……

でも天職ってなんだ?聞いたことが無いな。


「それで彼らはどうなるんですか?」


「彼らってあの盗賊たち?あいつらはもう死んでるわよ」


「えっ?」


俺は思わず声を上げた。


「最初の攻撃で死んだ奴も何人かいたけど、生きてる奴はちゃんと止めを刺しておいたわ」


「な、なんで……」


「なんでってあいつらは悪人じゃない。あの感じ何人も人を殺しているわ。そんな奴ら生かしておいて得がないじゃない」


……彼らは悪人で、彼女に殺されても文句を言えないほど悪いことをしてきたのだろう。

けれども俺は彼らの優しい一面を知っている。

うまく表現できないが、彼らはまだ生きる余地はあったんじゃないか?


「なによ。あいつらに死んでほしくなかったの?」


「ん……まあそう……だな」


正直に答える。


「ふーん」


美紀は特に何も言わなかった。


「なあ、せめて埋葬ぐらいちゃんとしていいか」


「まあ勝手にすれば」


美紀の世界の奴らってこんななのか。

冷たいというかなんというか……


とりあえずあいつらを埋葬しに行こう。

そう思い俺は馬車のある方に向かう。

見渡すと見るも無残な死体が散乱していた。


「うっ」


そういえば実物の死体を見るのは初めてだな。

さっきまで話していた仲間だと思うと、胃の中のものがせり上がってくる。

一歩間違えば俺もこうなっていたのかもな……


「さて埋めるか」


でもどうやって埋めよう?

素手じゃきついしな。

馬車に何かないかな?


「あっ……」


馬車の中を探してみると、あのポーションが入っていた木箱を見つけた。

ほとんどの瓶は割れて中身がこぼれていたが、三本だけ無事なものがあった。

もうこれの持ち主もいないし、放っておくのも勿体ないな。


俺が持っておくか。


そのあと何か掘るものがないか探したが結局見つからなかった。

素手で掘るかあ……




しばらくすると美紀が来た。


「おっそいわね。何してんの」


「あっ、実は掘るものが無くて素手で土を掘っていたんだ」


「ふーん。手伝うわ」


「えっ?」


「手伝うって言ってんの!あんたがそのまま続けたら日が暮れるじゃない」


もうだいぶ日が暮れてると思うんだが……


美紀は素手で土を掘り始めた。

力持ちなのか、俺よりも断然早く掘り進めている。

掘ってるていうか殴って地面を壊してないか?


「それで最後、私と戦ってた時何をしたの?」


土を掘りながらそう美紀は訊いて来た。


「えっ?……い、いや、別に何もしてないよ」


「嘘をつかないで」


「うっ……」


これは命令か。

逆らえない。


『あなた最後に魔力がごっそり減っていたわよね!美紀様に何をしたか正直に言いなさい!!』


「うわぁぁあ!だ、誰だ!」


突然、目の前に小人が現れた。

それも浮いている!


「そんなに興奮しなくてもいいのよベル。どうせ命令には逆らえないから」


美紀は落ち着いた様子だ。


「な、何だこいつは!」


「んん~?この子はなんて言うか、神様が付けてくれた説明役みたいな?」


『そ、そんな認識だったんですか!?』


その小人は拳ほどの大きさで鳥のような羽を持っている。

でもその羽を使って浮かんでいるようではない。


『何ジロジロ見てんのよ人間!ぶっ殺すわよ!』


そしてだいぶ言葉遣いが悪いようだ。


「というかベルってそんな見た目だったのね。なんというか天使みたい」


『ふふん!この姿はね、私が天界にいた時の姿を真似たものですわ。美紀様の魔力を使えばこのくらい楽勝なのよ!』


「あら。私の魔力を使っていたの。だからなんだか疲れる気がしたのね」


『はっ!そ、そんなことよりこの人間が美紀様に何をしたのか吐かせてください!』


気まずくなったのかベルとかいう小人は美紀の中に消えてしまった。


「それもそうね。最後あなたは私に何をしたの」


やばいやばいやばい!

口が勝手に!


「……お、俺は『強欲』っていう異能を偶然手に入れたんだ。あんたに蹴られた時殺されると思って、俺はこの異能を発動させた……それで異能の効果で俺はあんたから五十嵐晴樹という男との記憶を奪ったらしい」


言葉が止まらない。

全部喋ってしまった。


『はあ?「強欲」ですって!?なんであんたがそんなもの持ってんのよ!!よりにもよってあんたみたいなカスが!』


また出てきた。

というかこいつ、この異能のこと知ってるのか?


『まったく。バランの作る異能は悪趣味でかなわないわ』


「ベル。その『強欲』っていう異能について知ってるの?」


『「強欲」は確か相手の一番大切な物を奪うという能力ですわ』


「なにそれ最強じゃない」


『まあ確かに能力は強いけど、魔力の消費量は多いし、精神は汚染されるし、なにより相手の一番大切な物を奪うから自分が欲しいものが手に入らないことが多いのよ。まあでも相手にとってこれ以上ない嫌がらせにはなるけど』


精神が汚染されるってどういうことだ?

異能名が「強欲」だから俺も強欲になるのか?

確かにポーションを飲んで理性を失った時、「生き延びたい」じゃなくて「力がほしい」って思いの方が強かったんだよな。


「ふーん。それで私が一番大切だったのがその晴樹って人との記憶だったってわけね」


美紀がこちらを見る。

こ、殺される!


「あ、あの時は殺されるかと思って……何とかしようと思って……だ、だから悪意があったわけじゃないんだ」


「別にいいわよ」


「えっ?」


「いやなんか急に大切な人との記憶を奪われたって言われても、そもそもその人のことを知らないから怒れないわよ」


美紀は淡々と言う。


「で、でも美紀はその人のことが好きだったんだぞ」


「そうなの?でも私あっちの世界ではもう死んでるから会えることもないし」


『いえ違います!晴樹様は美紀様と一緒にこの世界に来たんです!』


えっ!そうなの!?


「えっ、そうなの?」


『そうですよ!ここに来た時に言ったはずです。もしかしてこれも覚えてないんですか?』


「そうね。思い返してみると不思議な感じだわ。なんというか記憶に霧がかかってる感じ?それだけその人は私にとって重要な存在だったのね」


美紀は少しだけ寂しそうな顔をした。

でもすぐにいつもの表情に戻る。

ベルが俺をキッと睨みつける。


『仲間選びは慎重にってあんなに言ったじゃないですか!……このカスを殺して契約をなかったことに……』


「やめなさい。何度も言うけれども私はもう彼と争うつもりはないわ。私が殺すのは悪人だけよ」


美紀の声は静かだが、有無を言わせない強さがあった。


「そういえばまだ名前を聞いていなかったわね。名前はなんていうの?」


「か、カール・レインです!」


「じゃあレイン。さっそくだけど町へと案内してくれる?もう森での暮らしはうんざりなのよ」


「は、はい!」


とは言ったもののおれもどこに町があるかよく分かってないんだよな。

そのまま真っすぐ進めばいいか。


『ふん!私はあんたがレイン様にしたことを許さないんだから!』


小人が俺を睨む。


「ベル。疲れるから引っ込んでて」


『んん~!』


不満そうな声を残して、ベルは消えた。




罰を受けたところで罪が消える訳じゃない。

そう昔誰かに教えてもらった気がする。


美紀は自分の記憶が消えたことをそんなに重大に思っていないように見える。

それもそうだ。


何も覚えていないのなら、それがどんなに大切な物だったのか分かるはずがない。

心配で胸がつぶれそうになっていたことも、嬉しくて胸が弾んでいたことも、あの恋焦がれる思いさえも……美紀は知らない。

それを俺が奪ったから。


俺の中にある晴樹との記憶。

美紀が晴樹を想う気持ち。


それは今、俺の中で確かに息づいている。

本来なら美紀が持っているべきものを……


これからの俺の目標は美紀の記憶を取り戻すことだ。

それが俺にできる唯一の贖罪の方法だと思うから。




▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽




目標

1、美紀の記憶を取り戻す方法を探す(New)

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