第八話 とある農民が盗賊になるまで
諸事情により更新がだいぶ遅れてしまいました。
ただでさえ一週間に一話しか出さないのに何休んでんだと思うかもしれませんが、これからも優しい目で応援してくれると幸いです。
神という奴は不平等だ。
俺は農家の次男坊として生まれた。
不便なこと苦しいことはあったが、まあそれなりに楽しく暮らしていた。
だが、兄貴に畑を継がせるために俺は金貨五枚だけ持たされて家を追い出された。
まあなんとなく予想はできていた。
健康で従順な長男がいるなら、無駄に元気だけある反抗的な次男なんていらないだろう。
予想はできていたから冒険者になるために魔力量を増やすトレーニングをしていた。
だがこれは結果から言うと失敗だ。魔力量がどれだけ多くても異能や魔法を使えなきゃ意味がない。
俺は異能なんて持っていないし、魔法の使い方も分からない。
だが冒険者になることを諦められず、一番近くの町に冒険者になるために向かった。
畑仕事で鍛えられた肉体によってなんとかEランク冒険者にはなることができた。
だができることはドブさらいや薬草採取。
稼ぎは少なく、それだけでは生活ができず、奴らから貰った金を切り崩してなんとか生活していた。
が、その金もなくなった。
あれは馬鹿なことをした。
ある日露店で霊薬が売っていた。
店主曰く、これを飲めば異能に目覚めるとか。
普通ならこんな怪しいもの買わないが、俺はその霊薬にひどく興味を惹かれ買ってしまった。金貨三枚で……
そのせいで宿代が払えなくなり、どうにかして稼ぐしかなくなった。
屋台が沢山並んでいる商店街で人ごみに紛れ、できるだけ金持ちそうな奴を探す。
なぜかって?そりゃ金持ちから金を掏るためさ。
できるなら犯罪には手を染めたくなかったがこうなっては仕方ない。
俺も生きるためだ。
「どこかに世間知らずの金持ちとかいないかな」
するとそこに、手当たり次第に食い物をいっぱい買っている女の子とイケメンを見つけた。
あんな風に買いあさってるってことはそれなりに金を持っているのだろう。
女の子、腰に袋を付けてるぞ。
あの中にお金が入ってると見た。
よし、ぶつかった拍子にそれを掏ろう。
俺はその子が走って来た所にわざとぶつかる。
「ガハッ!?」
軽くぶつかるつもりだったが、その子の力が思いがけないほど強く俺は吹き飛ばされてしまった。
なんつう怪力持ってやがる。
だがお金が入っていそうな袋は盗むことができた。
「す、すみません!大丈夫ですか?」
男の慌てた声が聞こえる。
俺は地面に倒れたまま、痛みに顔をしかめた。
「これが大丈夫に見えるか?」
よし、このまま謝らせて立ち去らせれば完璧だ。
相手の男は俺の手をつかみ引っ張り上げてくれようとした。
その瞬間――
「ぐああぁぁああ!!」
男の手に触れた瞬間、耐えきれないほどの激痛が全身に駆け巡った。
なにが起こったか分からぬまま俺は気絶した。
「ん、ああ?」
目を覚まし辺りを見渡してみるとさっきの二人組は消えていた。
空の色も変わっていないからそんな時間は経ってないだろう。
さっきのあれは何だったんだ?
死ぬほど痛かったぞ。
体の特定の部位が痛いって感じではなく、痛いという情報が脳を突き刺したって感じだ。
まるで全身の神経が一斉に悲鳴を上げたような――思い出すだけで吐き気がする。
あんな痛み、生まれて初めてだ。
「あ、金は?」
慌てて確認すると、あの女の子から盗んだ金の袋は無事だった。
「くへへ、いくら入っているんだ?この重さ二十枚分はあるぞ。銅貨はやめてくれよ」
袋の中を確認してみると、全て金貨だった。
それも普通よりも大きい。
「……はあ?」
それが普通の金貨だったら、まだ冷静を保てていた。あるいは喜びが勝っていたかもしれない。
だが、それが古金貨だと気づいた時にはもうだめだった。
動揺で心臓がバクバク言って、汗がダラダラ流れている。
古金貨一枚が金貨十枚で取引されていたはずだから、少なくとも金貨二百枚。
そんだけあれば家一つは買えるぞ。
さっきまで軽かった袋が急に重く感じる。
あいつらがそれに気づいたら血眼になって探し回るだろう。
捕まったらどうなることやら……
あの男の手を握った時に起きた痛み――もしそれがあの男が自由に発動できるのなら、俺はあの痛みをまた食らう羽目になるかもしれない。
それだけは絶対に嫌だ。もう二度とあんな思いはしたくない。
俺は一刻も早く逃げ出すために馬車乗り場へと急ぐ。
南門の馬車乗り場には各地への定期便が出ている。
運が良ければ乗れるかもしれない。
馬車駅に着くとちょうど馬車が出発しようとしている所だった。
「乗せてくれ!」
俺はぎりぎり馬車の中に飛び込むことができた。
息を整えながら顔を上げると、中には既に数人の男が座っていた。
いかつい顔、傷だらけの腕、腰に下げた剣――
嫌な予感がした。
「おい、お前どこから乗ってきた?」
一人の男が低い声で訊いてくる。
「え、あ、町の馬車乗り場から……」
男たちが顔を見合わせる。
空気が重い。
「間違えて乗っちまったのか?」
「そ、そうかもしれない」
「ケケケッ、運のない奴だな」
そう男の一人が言う。
どういうことだ?
その時俺は仲間の冒険者が言っていたことを思い出す。
馬車は他の移動手段に比べて格段に安く、魔紋証を出す必要もない。
そのため盗賊団は移動をする時に馬車を使う。
そしてそこに間違えて一般人が入った場合……身ぐるみを剥がされて殺されると。
目の前のそいつらを見る。どう見ても、どう考えても盗賊だ。
や、やばい。
「お、降りる」
俺は立ち上がって馬車から降りようとした。
だが、馬車の外を見た瞬間、足が止まる。
馬車は思ったより何倍も速く走っている。
今飛び降りたら、大怪我は免れない。
最悪、死ぬ。
「……っ」
「もう遅えよ。馬車は動き出しちまった」
俺は仕方なく座り直す。
くそっ、なんでこんなことに……!
それからしばらく馬車に揺られ、最初の休憩所まで着いた。
特に何もなかったがとにかく視線が怖かった。
奴ら俺を獲物のように見てやがる。
どうすればいい。
なにか手っ取り早く強くなれることはないのか?
あ、そうだ!
そういえば異能が手に入るっていう霊薬を買っていたんだ。
今まで偽物だと分かるのが怖くて飲めなかったが、今の俺は大金を持っている。
そのぐらいの金が無駄になっても大したことない。
むしろ、今飲まなきゃ意味がない。
俺は大事にしまってあった霊薬を取り出し一気に飲み込んだ。
「うげぇ~」
鉄の味がする。
生臭くて、粘り気がある。
まさに血の味だ。
魔物の血でも入れたのか?
しかし、何一つ変わったことがない。ということは偽物だったのか……
金貨四枚も使ったのに……
そう思った直後、無機質な声が脳に響いた。
『異能「強欲」を取得しました』
『対象に触れ、強く欲することで、対象の一番大切なものを奪います』
!?
この声は世界の声ってやつだよな。
もしかして本当に本物だったのか!?
それで対象の一番大切なものを奪うってどういうことだ?
『……』
なんも言わねえ。
親切じゃねえなぁ。
でも、これで少しは戦えるかもしれない。
「おい!お前もう出発するぞ。馬車に乗れ」
盗賊の一人が声をかけてくる。
「わ、分かった」
盗賊でもそういうことはちゃんと言ってくれるんだな。
もしかしたら盗賊じゃない?
そんな期待を寄せ俺は馬車に乗る。
全員が馬車に乗った時、一人の男が剣を抜いた。
「すまねえな、あんちゃん。まだまだ道のりは長えってのに馬がへばっちまってよ。一人ここに置いてかなきゃいけなくなったんだ」
その言葉を言い終わると周りの男たちも剣を抜いていった。
絶対嘘だ!人一人増えたぐらいで馬がへばるわけないだろ!
やっぱり盗賊だったのか!!
ちょっと期待した俺が馬鹿だった。
冷静になれ俺!今何ができるか考えるんだ!
俺に残された道は逃げるか、戦うか、どうにか見逃してもらうことだ。
まず逃げるのは論外だ。
ここは森の中で逃げ切れたとしても町に戻れる保証がない。
次に戦うかどうかだが……
今の俺は丸腰だ。十人近くの武器を持っている輩相手にして勝てる気がしない。
一応さっき手に入った異能もあるが効果がよく分からないから、それだけを頼りに戦いを始めるのはリスクがでかい。これは最終手段だな。
じゃあ……見逃してもらう方法を考えないと。
普通に見逃してくれるはずがない。
奴らにとってメリットになることをしなければ……
だったら!
「お、俺を盗賊団に入れてくれ」
男たちの視線が俺に集まる。
「いい度胸してるじゃねえか。俺らとしても仲間が増えるのに文句はない。だが信頼の置けない奴を仲間にするのは文句がある。つうことで有り金全部出せ」
有り金すべてだと?これ全部渡すのか?
流石にそれは……
古金貨二枚くらい出せばいいかな?
「こ、これでどうですか」
震える手で古金貨を取り出す。
「金貨二枚か。いや古金貨か!こんだけ貰えりゃ文句はない。いいさお前も俺たちの仲間入りだ」
た、助かったのか。
あっさり行って良かった。
盗賊としても仲間が増えるのは喜ばしいってことか。
「ガハハハハ!お前も苦労してきたんだな」
「そうなんすよ」
俺の身の上話が思いの外受け、あっという間に俺は盗賊団の一員として馴染んだ。
こいつらも意外と悪い奴らじゃないのかもしれない。
そもそもこのまま冒険者なんて続けていても稼げなかっただろうし、こんな風に生活していってもいいかもな。
ちなみにリーダーの名前がガルド、副リーダーがデギル、下っ端Aがマッド、Bがロッシュ、Cが……なんだっけ?まあいいや。一緒に居ればそのうち覚えていくだろう。
「あっ、そういえばこの馬車ってどこに向かっているんですか?」
「ああ、俺らは今ザムフェルへと向かっている途中だ」
ザムフェルだって?
あの力こそ全ての無法都市として有名な?
「だ、大丈夫なんですか?」
俺の不安そうな声に、ガルドは胸を張った。
「おうよ。俺らは何度も行ったこともあるし、俺は剣技も使えるからな。そこら辺のザコどもにはやられないさ」
「剣技を使えるんですか!?」
剣技といえば魔力を剣に纏わせることで使える魔力運用法の最難関だ。
これができるのは上位一パーセントの人だけだと聞いたことがある。
あの時戦わなくて良かった。戦っていたら絶対に負けていただろう。
「そうさ、見せてやるよ」
そう言ってガルドがおもむろに剣を取り出した。
そしてガルドが剣に力を込めたと思うと、次の瞬間剣の周りに薄い光が包み込んだ。
「す、すごい!」
実物を見るのは初めてだ。
「へへ、そうだぜ。ガルドさんは騎士団員を倒したことだってあるんだぞ」
横にいたマッドが自慢げに言う。
騎士団って精鋭ぞろいと言われている奴らか?
俺ってば結構当たりの盗賊団に入れたんじゃないか。
「ガルドさんがいれば敵なしっすね!」
「ガハハハハ!そうさ、道中どんな危険が来ようと俺が防いでやるよ」
ガルドの豪快な笑い声が馬車の中に響く。
なんだか安心できる声だ。
「それで、どうしてそんなところに行くんだ?」
「これを見てみろ」
そう言ってガルドが傍にあった木箱を開けると、中に液体の入った瓶がびっしり詰まっていた。
「これは?」
「俺もよく知らねえが、自分の魔力量を一時的にだが爆発的に増やせるっつう代物らしい。これを裏オークションに出せば一瓶金貨十枚は下らないだろう」
「そ、そんなに!?そんな物をどこで?」
「いつものように商団を襲ったら、こいつが出てきてよお。なんでこんな違法の物を運んでたかは知らねえが、とにかくラッキーだったぜ。普通ならどこも買い取ってくれないが、あそこならどんな違法な代物でも売れるからな」
ああ、だからザムフェルなのか。
まあガルドさんが居れば道中は安全だろうし、ひと眠りするか。
そう思い、いざ眠ろうとした時だった。
「あら?どうしてこんなところに悪党どもがうじゃうじゃいるのかしら?まあきっと悪さをして戦利品を運んでるってところね。でも残念、私に見つかったことお悔やみ申し上げるわ」
女の声。
それは突然、馬車の外から響いた。
次の瞬間、馬車が壊される音と共に眩しい太陽の光が目に入ってきた。
「何者だ!?」
一番早く反応できたガルドが剣を構え、辺りを警戒する。
それに釣られ他のみんなも剣を構えた。
俺もと思い剣を抜こうと思ったが剣がない。
まあみんなに任せれば何とかなるだろう。
ガルドさんは騎士団員を倒したこともあるらしいし。
「何者だか知らねえが、このガルド様が俺たちを襲ったことを後悔させ――」
バコンッ!!!!
その言葉が言い終わらぬうちに、ガルドが消えた。
いや、消えたんじゃない。
吹き飛ばされたんだ。
後ろを見ると、木に叩きつけられて気を失っているガルドが見えた。
「ガ、ガルド!!」
一瞬の出来事だった。
あんな強そうだったガルドさんが一撃で?
バコンッ!!!!
ガルドに気を取られた副リーダー、デギルも吹き飛ばされた。
「デギル――」
バコッ
「なっ――」
ボコッ
「いやっ――」
ドゴンッ
どこから攻撃が来ているのか全く分からない。
皆の悲鳴と人を殴り飛ばす音だけが辺りを満たす。
な、なんなんだあの化け物は!
「に、逃げなきゃ」
さっきまで仲間だった彼らに気を取られながらも俺は命からがらその場を離れようとした。
だがそれを許してくれるはずがなかった。
「逃がさないわよ!」
その声と同時に強烈な蹴りが胸に刺さった。
「グアッ!」
俺は耐えきれずその場でうずくまった。
強すぎる。
あたりを見渡すと残っているのは俺一人だった。
見上げるとこの世のものとは思えないほどの美人が俺を見下していた。
長い黒髪、整った顔立ち、凛とした佇まい。
だが、その目は冷たく、俺を見下ろしている。
「あら?あなたは今のでつり合いが取れたのかしら」
なにを言っているんだこいつは。
つり合い?何が?
くっ、どうすれば助かる?
異能!俺には異能があるんだ。それに賭けるしかない。
俺はうずくまったまま彼女の足首を掴む。
「ん?」
よこせ!何でもいいから俺にくれ!!
そう思った時、自分から魔力が一気に減っていくのが分かった。
発動できたのか?
「何してんのよ!」
「ガハッ!」
俺はまた蹴飛ばされ、ちょうど馬車に叩きつけられた。
クソ!なんで発動しなかったんだ?
俺の魔力が足りなかったのか?
魔力切れでめまいが……
薄れゆく意識の中で自分の手が濡れていることに気づく。
不思議に思い見てみると、ガルドの言っていた魔力を底上げするというポーションが、俺が馬車にぶつかった拍子に木箱から漏れ出していたのだ。
これを飲めば異能が発動できるかもしれない。
俺はちょろちょろと流れ出ているのを手で掬い、一気に飲みこむ。
何だ?なにも起こら――
「グアアアァァアア!!」
猛烈な痛みが体中を駆け巡る。
熱い。
体が燃えるように熱い。
「あら?苦しそうね。どうしたの?」
女の声が遠くに聞こえる。
理性が本能に塗りつぶされていく。
「よこせ。よこせ。よこせよこせ!全部俺によこせぇぇぇぇ!!!!」
考えるよりも先に声が、体が勝手に動く。
「なによ急に」
俺は本能のままに駆け出した。
魔力がみなぎっているおかげか、いつもよりも速く動けている。
あいつを捕まえて、何かを奪えば――
「少し速いくなったけどそれだけね。動きも単調すぎるわ」
どれだけ速く動こうと、俺の攻撃はことごとく躱される。
なんで!何で当たらない!!
次の瞬間、顔に強い衝撃が走った。
顔面を殴られたようだ。
またしても俺は地面に倒れこんだ。
痛い。
鼻血が出て、頭がボーっとする。
だがこれでいい。
「大丈夫?死んでなーい?」
「くはははは、触ったな!俺に触ったな!!」
「だから何?」
次の瞬間女の体がよろめいた。
来る!来るぞ!!
異能の発動条件は満たした。何が手に入る?とにかく力をよこせ!そうすればあいつは弱くなって俺が強くなる。
だが次の瞬間俺が手に入れたのは膨大な量の情報だった。
な、んだこれ……やばい……脳がパンクする。
意識が……保てな、い………
ブチッ!
何かが切れたわけでもないのにそんな音が聞こえた気がした。




