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第一話 可哀そうな男

まばゆい光が俺を包み込む。


クソ!どうしてこんなことになった!


家族同然の幼馴染は殺され、俺を育ててくれた親代わりの人も、六歳の可愛い妹分も――生きているかどうかも分からない。


そして、それをした奴を捕まえることができたというのに、今そいつは死にそうになっている。

だめだ!そんな簡単に死なせてたまるか!お前は考えうる最も苦しい方法で殺してやるんだ!



でも、それも叶いそうにない……なぜなら俺ももうすぐ死ぬし、そいつももうすぐ死ぬ。

ああ、もう一度みんなに会いたいな……そして、できればあいつに今までしたことを後悔して死んでほしい。


叶うはずもない願いを抱きながら、俺はトラックに轢かれ死んだ。



▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽



俺の名前は五十嵐晴樹。

両親を殺され、中学にも行かずに孤児院で過ごしている哀れな高校生だ。


俺には不思議な能力がある。

自分が怪我をしそうな時、それが直感的に分かるのだ。

俺はこれを「危機察知」と呼んでいる。


例えば誰かが俺の顔面を殴ろうとしているとする。

すると俺は、顔面にパンチが来ると分かる。

何もしなければそのままパンチを食らうが、避けたり逃げたりすれば回避できる。


相手が偶然俺に被害を及ぼすだけなら、避ければ感覚は消える。だが、相手に明確な殺意があった場合、その攻撃をやめるまで感覚は続く。


――とまあ、これが今のところ俺が把握している能力の正体だ。


けれど、それとは別に「不幸」も重なるようになった。

走っていれば、なぜかそこにバナナの皮が落ちていて転ばされる。

冷蔵庫に入れておいたプリンは、なぜか帰る頃には消えている。

隕石が降ってきたこともあった……


どうしてそうなったのかは分からない。

だが、そのきっかけはきっと――あの『幽霊』だ。


俺の街に『幽霊』は現れた。

他人に成りすまし、人を殺しては消える。

化け物じみた連続殺人犯。


顔も性別も体格すらもバラバラなのに、手口だけは同じ。だから警察は"同一犯"として追っている。

そいつは必ず証拠を残す。まるで「見つけてみろ」と挑発するかのように。

だが証拠を追えば、その人はすでに死んでいたりする。


死んだ人がまた現れて人を殺すことから、「幽霊」という二つ名が付いた。

未だに、そいつが誰なのか――人間なのかすら分かっていない。


俺は、その『幽霊』と会ったことがある。

両親が殺された、あの夜だ。


そして、逃げ場を探して飛び込んだ美紀の家。

だが、幽霊はそこにも現れた。


『幽霊』が立ち去った直後のことだ。

美紀は一度だけ、そのことを責めた。

「なんで来たんだ」って。


その時のことを、美紀はすぐに謝ってきた。

あんなひどいこと言ってごめん、だとさ。


謝る必要なんてない。その時は混乱していたんだろう?命の危険にさらされ、両親が殺されるような状況では、思っていることを飲み込む理性なんて働かなかったんだろう。



それに俺が逃げてきたのが原因なのは事実だ。俺が来なければ、美紀の両親が死ぬこともなかった。


美紀が責めてこないから、俺はずっと自分で自分を責めている。

いっそのこと、美紀に責められていた方が楽だったかもしれない。


俺は謝られる方がきついんだ。


あの夜から一つ決意していることがある。

それは、もう二度と俺のせいで誰かが死なないようにする、ということ。

そのためなら俺が死のうと構わない……



▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽



「――晴樹!起きなさい、朝よ!ご飯できてるわよ!」


部屋のドアが勢いよく開かれ、美紀の声が響く。


垣山美紀。俺の幼馴染で、『幽霊』の被害者。


だがそんな過去を感じさせないほど、こいつはいつも通り図太く、元気だ。


女のくせに――なんて言うと今の時代怒られそうだけど、こいつは本当に女らしさのカケラもない。

頼れる兄貴分ってやつだ。まあ、同級生だけど。


「……あと五分だけ……」


そう言いつつ布団の中でもぞもぞしていると、美紀は容赦なく毛布を剥ぎ取ってきた。


「ったく、こっちは五回も呼んだのよ。こんなことなら鍋とオタマを持ってくればよかったわ」


「俺の耳を壊す気か……。それにしても、毎回勝手に部屋に入ってくるのやめてくれないかな……」


まったく、ここはプライバシーという概念が存在しないらしい。

鍵のないこの孤児院の部屋は、心を閉ざすには向いていない。

けれど、それが救いだったのかもしれない。


あの事件の後、閉じこもることもできず、こうして誰かに引きずり出される日々が、俺が壊れずに済んだ理由の一つだった。


リビングに行くと、テーブルには朝食が並んでいた。

院長の柳田小次郎がにこやかに迎えてくれる。


「やっと来ましたね、晴樹君」


柳田小次郎。この孤児院の院長で、元医者らしい。

この施設を作るために貯金を全部使い果たしたと言っていたが、その金のほとんどは高級家具と大きすぎるテーブルに消えたらしい。


この孤児院には四人しかいないのに、この高級そうなテーブルは十人近く座れるように作られている。


座った瞬間、ふとテーブルを見つめてしまった俺の視線に、院長が反応した。


「売りませんよ?」


「えっ?」


「今、"このテーブル売ればもっと楽になれるのに"って顔してましたよね。ダメです、これは命の次に大

切なテーブルですから」


「そこは"子どもたちの笑顔"とか言っておけよ……」


「それもそうですね。はい訂正します。一番大切なのは君たちです。二番目がテーブルです」


「順位付けするなよ!」


……こんな調子だ。

ツッコミどころしかない大人だが、俺たちにとっては頼れる存在だ。

実際、食事も洗濯も全部この人がしてくれている。

だからみんな、院長には感謝している。……まあ、文句の一つや二つは言いたくなるが。


「……あれ?そういえば霞は?」


その名前を口にした瞬間、声が飛んできた。


「お兄ちゃーん!」


バタバタと駆け寄ってくるのは、石川霞。

この孤児院で一番年下で、俺によく懐いている子だ。


霞もまた、幽霊事件の被害者だ。

ただ彼女は事件当時一歳で、両親が目の前で死ぬのを覚えていない。

そのぶん俺が世話をするようになったし、今では妹みたいな存在になっている。


「今日は晴樹君、久しぶりの学校ですね」


院長の声に、現実に引き戻された。


「そうなんだよ。中学すっ飛ばしたから、高校なんて不安しかねえよ」


「ふふっ、彼女でも作ってきたらどうですか」


「ふん、彼女なんていらねえよ」


「え?なんで?美紀お姉ちゃんがいるから?」


「バッカ、お前、な、なに言ってんだ!!そ、そんなんじゃねえよ!」


霞の無垢すぎる爆弾発言に俺は全力で叫んだ。

カーッと頬が熱くなるのが分かる。


いやいや、美紀が彼女とかありえないし想像もできない。

美紀の方をチラリと見ると、笑いもせずに朝ご飯を黙々と食べている。こいつ、絶対聞こえているくせに無視しやがる。


ありふれた日常。

退屈で幸せな日々。

でも、こんな日常が、俺はどこか怖かった。

まるで、壊れる前提で作られたガラス細工みたいで――。


「お兄ちゃん、何考えてるの?」


「ん?いや、これからのこと考えてたんだよ」


「ふーん」


「そういえば晴樹君、時間は大丈夫なんですか?」


「大丈夫もなにも、まだ……って、ええええぇぇ!?」


時計の針を見て、俺は叫んだ。完全に出遅れているじゃないか!

美紀は……ってもう靴履いてるし!なんで何も言わないんだこの野郎!


「待て美紀!俺、道分からないんだよ!置いてくなって!!」


「ふん、さっさとついてきなさい!」


「いってらっしゃーい!お兄ちゃん、お姉ちゃん!」


霞の無邪気な声に、思わず後ろ髪を引かれる。このまま霞を撫で回したい衝動に駆られるが、初日から遅刻はできない!


「「行ってきます!!」」


美紀に急かされて玄関を開けた瞬間、俺は固まった。


「……大雨じゃねえかぁぁぁ!!」


まさかの土砂降り。よりによってこんな日に限って。


「ったく、どうにかしなさいよその体質」


「す、すいません……」


美紀は俺が危機察知を持っていることも、とても不運なことも知っている。


「安心しなさい。ショートカットを使えばいいだけよ」


ショートカット……?全然安心できない!むしろめちゃくちゃ不安だ!


「あまり危険なところには行かないようにしてくださいね」


「大丈夫よ。霞に案内されて何度も通ったことがあるの」


えっ!?霞が?まあ確かに最近は美紀と出かけることが多かった気がしたけど。


「霞ちゃん?」


「えっとね、えっとね。霞いろんなとこ調べたから、安全だよ。そ、それよりも霞のお部屋で遊ぼ」

か、かわいい!!霞なら何でも許せる!


「ふふふ、では霞ちゃんのお部屋で遊びましょうか。それと二人とも、改めて行ってらっしゃい」


「「行ってきます!!」」


俺たちの孤児院は山の中腹にある。

車道を使えば遠回りで、学校に行くには山を回り込まなければいけない。

その代わり、木々の間を抜けるショートカットが存在する……らしい。


「ここよ」


美紀が指さす先には、暗く湿った森の入り口。雨のせいで、朝だというのにまるで夜のような薄暗さ。カラスの鳴き声が不気味さを際立たせている。


「こ、ここ通るの……?」


「そうよ。早くしないと、置いていくわよ」


本音を言えば引き返したい。ホラー苦手だし。

でも美紀を一人にするわけにもいかないし、そもそも俺は学校の場所も知らない。

意を決して、一歩を踏み出す。


その瞬間――全身を悪寒が貫いた。


(……なんだ、これ)


得体の知れない緊張が、首筋を這い上がってくる。


「美紀、やっぱり引き返そう」


「なに?怖いの?」


「そうじゃない。でも、変な感じがするんだ。すごく嫌な予感がする」


「……気にしすぎよ。そんな危険な場所じゃないわ。早くしなさい」


「ま、待って……!」


半ば引きずられるように、森の中を進んでいく。

ぬかるんだ土に足を取られながら、十分ほど歩いた頃。

森の出口がうっすら見え始めた。


「ほら、大丈夫だったでしょ。あんたってば、ビビりすぎ」


「……まあな。確かに、何もなかったし」


俺の勘違いだったのかもしれない。ここまで無事に来られたんだ、きっと……。


「おーい晴樹君、美紀さん!忘れ物ですよ!!」


院長の声?なんだ、何か忘れていたのか?

振り返ると雨でずぶ濡れになった院長がいた。傘も差さずにここまで来たらしい。

いったい俺たちは何を忘れていたんだ?院長が走ってくるくらい大切なものなのか?


「はあ、はあ……やっと追いついた」


「はい、忘れ物」


――一瞬の出来事だった。


院長が持っていたそれが、深々と美紀の胸を突き刺す。

美紀の体がふらつき、地面に倒れ込んだ。


何が起きたか全く分からなかった。ただ、そのあまりの衝撃に様々な考えが頭に溢れていた。


なんだ?何が起こったんだ!?院長が美紀を刺した?なぜ?やばい、落ち着け……いや!!落ち着けるわけないだろ!!!今にも……今にも美紀が死にそうになっているんだぞ!!しかも院長が刺したんだ!分からない、なんで、なんで院長はこんなことをしたんだ。


五秒ほどだっただろうか。


すぐに動けなかった自分を恨みながらも、急いで美紀のもとに駆け寄る。


「美紀!!大丈夫だ!!すぐに病院に行けば……こんな傷すぐ治る!!」


この山を下りればすぐに病院だ。美紀を担いでいけば五分ほどで着くはずだ。


「…………って」


「え?」


「置いていって」


「な、なんでだよ!そんなことしたらお前、死んじゃうだろ!!」


「あんたが私を担いで逃げるのを、あいつが許すと思う?」


そう言って美紀は院長を指差す。院長はそれに気づくと笑って手を振る。

一瞬怒りで飛び掛かりになったが、美紀に止められた。


「あ、あんなやつ俺がぶっ倒してやる。だから――」


「あなた弱いじゃない……私のことはいいからさ……あなただけでも逃げて……」


この時の俺の顔は鼻水やら涙やらでぐちゃぐちゃになっていたのだろう。

そんな俺を慰めるためだったのかもしれない。


「ねえ、もうちょっと近づいて」


そう言われて俺は美紀に顔を近づける。

美紀の手が首にまわり、美紀の唇が俺の唇にそっと重なった。


「み、美紀!?」


「ふ……ふふ、最後だから……ね……」


「あんたは最後まで……生きなさい……よ……」


俺は言葉を失った。返事も、問いかけも、全部飲み込まれていった。

ただ、美紀の温もりを感じながら、その瞬間だけを抱きしめるしかなかった。


「……美紀?」


返事はなかった。

ただ、いつの間にか胸の中にあるそれは冷たくなっていた。


「あれぇ~?あの傷だったらもっと持つと思ったのに、もう死んじゃったの。美紀ちゃん体力落ちたのかな。ハハハ」


「…………」


目の前で大切な人を失った。

自分で決めたことも出来ない自分に嫌気がさす。


なぜこうなったのか。美紀が死ぬことは避けられたんじゃないか。あの時俺がもっと強く止めていれば……


後悔が胸を押しつぶし、怒りと悲しみで目の前がにじむ。


「死ね!!!!」


気づけば俺は叫びながら、殴りかかっていた。


「あ、ちょ、待って、待って。今君を殺そうって思ってるわけじゃないから」


そいつは「私は無害ですよ」とでもいうかのように両手を上げている。

が、そんなことお構いなしに俺はそいつの顔をぶっ飛ばした。


「ガハッ」


これが火事場の馬鹿力というものだろうか?

それとも美紀が殺された恨みが力になっているのだろうか?

この時だけは、元々ひ弱なはずの俺が大の大人一人をぶっ飛ばせたのだ。


そいつを殴ったことで少しだけ冷静になることができた俺は、違和感に気づく。


こいつは院長じゃない。

顔や声は院長と全く同じだが、性格や言動が全くの別物だ。

院長がその性格をずっと隠していたという線もあるが、あの言い回しや言動……奴に似ている。

それにこんなことをするのは奴しかいない。


「いてて……いきなり殴るなんてひどいよ」


「お前……院長じゃないな」


「あれ?もう気づいちゃった。君には分からないと思ったのに」


「大人しく死にやがれ!『幽霊』!!」


「ハハハッ、あいにくここで死ぬ気はないんからね」


「逃げさせてもらいますね」


そう言って『幽霊』は町の方へ逃げていく。


「逃がすかあ!!」


美紀を殺しておいて逃げるだと?

ふざけるな!

お前は絶対に殺してやる!!



「お前の爪を剥いで水攻めして、最後には火であぶりながら殺してやる。泣き叫び今までの行いを悔い改めやがれ!!」


「うわ~すごく怖いこと言うね晴樹君。なんかキャラ違くない?でもそういうことは捕まえてから言うことだよ」


どれほど追いかけ続けていたのだろうか。多分時間にすれば一分に満たないだろうが、運動など無縁だった俺にとって辛く長い時間だった。


だがそれも突然に終わる。『幽霊』が突然立ち止まったのだ。

そこから先は崖のように急な斜面になっていて、これ以上進めないのだ。


「観念しやがれ!!」


「い、いったん落ち着こうじゃないか」


「お前を捕まえた後、たっぷり落ち着く時間をくれてやるよ!一週間絶食させる機会をやるから、その時にでも落ち着いてな!」


「それは勘弁してもらいたいですね」


その次の瞬間、『幽霊』が懐から一つの赤い液体が入ったビンを取り出した。

それが何だか分からなかったが、それを飲まれるとまずい気がした。


「やめろ!!」


それを飲ませてなるまいと飛びつこうとした瞬間、全身がバラバラになる予感がした。だがそんなことでは俺の足は止まらなかった。


『幽霊』に飛びかかった次の瞬間、足元の土が崩れ俺たちはバランスを失い、山の斜面を転がり落ちる。

気づけば、アスファルトの硬い感触が背中を打ちつけていた。


『幽霊』が持っていた赤い液体が入ったビンは、落下の衝撃でビンが割れ中身が漏れていた。

これで『幽霊』がこの液体を飲むことはできない。


『幽霊』と俺との距離は五メートルくらいだ。体中が痛い。だが、『幽霊』にとどめを刺せるならこんなもの安いものだ。


「あれぇ~?晴樹君来たんですか?せっかくなので助けてください。足折れてるみたいなんですよ」


「そいつはいいことを聞いたな。これで出来ること(拷問の種類)が増えたな」


「晴樹君怖いですよ。スマイルです。スマイル」


(何なんだこいつは。いくら脅してもヘラヘラした笑顔ばかり……気持ち悪い)


『幽霊』の言うことを無視しながら、折れたらしい足を持って引きずりながら孤児院へ向かう。


孤児院?


「いたたたた。もうちょっと優しく運んでくれないですかね」


「そういえばお前、孤児院の方から来たよな」


「ん?ええ。そうですよ」


「霞や本物の院長はどうした」


「……さあ、帰ってからのお楽しみというやつですね」


「クソが……」


そういえば『幽霊』に飛びかかる時に感じた感覚は何だったんだろう。気のせい……じゃないよな。じゃあ本当に体がバラバラになるのか?いまいち俺もこの能力についてよく分からないんだよな……


「あっ、後ろ危ないですよ。避けた方がいいんじゃないですかね」


「あん?今俺は目の前のお前を殺さないように必死なんだよ。黙って引きずられてろ!」


「いや、でもだって――」


次の瞬間、耳をつんざくクラクションの音。


――!!


視界が強い光に包まれ、世界が真っ白に染まった。


(あ……ここ車道だっけ……死ぬ……)


『幽霊』も一緒に死ぬな……できれば罪を償わせたかったがしょうがないか……霞や本物の院長は無事だろうか。美紀は……死んだ。結局美紀との約束も守れなかったな。


孤児院での日々が鮮明に思い出される。

孤児院に来てから初めての誕生日、みんなで祝ってもらった思い出。

霞が持ってきた傷だらけの猫を保護したけど、助けられずみんなで悲しんだ思い出。

木が倒れてきた時に、美紀に突き飛ばされ、美紀だけ怪我をした時の思い出。この時はなぜか危機察知が発動しなかったんだよな……


そんな他愛もない記憶に浸っていると、思わされることがある。

それは――


(俺って幸せだったんだな……)


次の瞬間、痛みを感じる間もなく俺は、死んだ。



▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽



……ここは、どこだ?

真っ白な空間。上下も、左右も、遠近感すらわからない。

俺は……たしか、あの時――死んだ、はずじゃ……?


『やあ!こんにちは。君が晴樹くんだね!』


――!?

陽気な声が、頭の中に直接響いてくる!?

姿は見えない。目を開けているのか閉じているのかも分からない。

それに……口が、動かない。喋れない?


『喋らなくてもいいよ。というか、喋れないでしょ?今君は魂の状態だからね』


……誰だ、お前。

俺は死んだんじゃないのか。


『僕は、君たちの世界で言う神だよ。』


神……それで神様が何の用ですか?

これから俺が天国に行くのか地獄に行くのか決めるのか。


『いいや、君は特別だからね。今から晴樹くんには――世界を救ってもらいます!』


は?何を言っている。

俺は何も救えなかった。両親も、美紀の両親も、そして美紀も。

世界を救う?俺が?


『えっとね、実はこのままだと――ぼくの世界が滅んじゃうんだ。だから君たちに、助けてほしいんだ。あ、ちなみに拒否権は、ないよ♪』


拒否権がない……?

ふざけるな。


大切な人を守ることもできない人間が、世界なんて救えるわけがない。

世界が滅ぶまでの間、ただ何もせずにゆっくり暮らしてやる。


そういえば『君たち』って言ったな。他にもいるのか。

そいつらに任せればいいじゃないか。

地球に戻ったら、霞や本物の院長にまた会うために生き返るのも悪くないかもしれない。


『あ、うん。そっちの世界じゃないよ?』


……何?


『最初に言ったでしょ? ぼくの世界だって』


まさか……


『つまり君には、いわゆる――』


『異世界転生をしてもらいま~す!』


異世界転生だと?

冗談じゃない。俺は元の世界に帰りたい。

霞と院長はどうなるんだ……


『乗り気じゃないね。美紀ちゃんを死なせたのがそんなにショックだったのかい?』


うるせえ殺すぞ。


『怖い怖い。でもこっちの世界には、君が過ごしていた孤児院のみんなも来るんだよ。それでも行きたくないの?』


なに!美紀がいるのか。

霞や院長も!? って……やっぱりあいつら死んでたのか……


クソ!『幽霊』め!やっぱり苦しんで死ぬべきだった。

……いや、もう考えるのはやめよう。奴は、死んだんだ。


みんなに会うためなら、世界でもなんでも救ってやろうじゃないか。


『そうかいそうかい、やる気になったかい?あ、言い忘れてたけど君の言う『幽霊』もいるから、仲良く、ね』


は!?なんだと!どういうことだ!!ま、待て!!


「じゃあいってらっしゃ~い♪」


そして、その瞬間俺の意識が切れた。

次からやっと異世界です。

晴樹は果たして、孤児院の皆に再開できるのか?『幽霊』に復讐できるのか?

そこは晴樹の頑張り次第。


作者の更新速度はクソ雑魚ですが、慣れてきたらもっと早く書こうと思ってます。(★評価やブックマークを付けてくれたら更新速度があがるかも)

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