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もう我慢できない。

作者: Dex

これからも短編小説を上げていきます!

良かったら評価よろしくお願いします!

「もう我慢できない」

優しい顔で彼が言った。

ああ。

私はあなたを愛しているのにあなたは――



***********************************************




「ねぇ。食器洗っといてって言ったよね。後トイレットペーパーも新しいのに変えてよ!」


「あーごめん、ごめん。そこ敵いるわ!」


彼との約束その5

家事は分担。

自分で使ったものは自分で元の場所に戻す。


彼との約束その23

何かがなくなったら買い物メモに書いてその人が新しいものに変える。


彼は約束を二つも破ってる。

私の注意を聞かないでゲームばっかり。

ゲームをやるなって言ってるんじゃない。

せっかく二人でいるんだから私と遊べばいいじゃん、ばか。

ってことである。


大学卒業してすぐに彼と同棲を始めた。

最初はすごい楽しかった。

何もかもが新鮮で毎日が明るかった。

バラ色ってあのことだと思う。

好きな人と一緒にいて、何気ないことも共有して。

大切な人といるときにしか感じれない永遠にも思える儚い色。


ふと窓を見るとスーツ姿でひどい顔をしている私が反射していた。

社会人4年目。

ほぼ何も考えないで入ったアパレル業界。

毎日朝起きて彼の分もついでに弁当を作る。

満員電車に揺られて店に着いたら無駄な朝礼。

仕事が始まったら自分でもいらないって思うような服をおススメ。

デブにもババアにもお構いなしでいつも同じことを言って差し上げる。


「お客さま~!すごくお似合いです~!」


くだらない。


「お風呂入ってくるから……」


「はーい!うわ!敵めっちゃダメージ食らってる!」


最近、彼はこの春に入ってきた後輩とゲームをやっている。

公務員の彼は平日のみの出勤で9-17時のホワイトだ。

お金もまぁ貰っている。

私の方が長時間働いてるのに彼のが稼いでいる。

なんかむかつく。


洗面台の前で塗られたメイクをクレンジングで落としていく。

私が好きなのはオイルクレンジングだ。

汚れが落ちている感覚が好きなのだ。

水で流して鏡を見ると疲れた女がいた。

26歳なのによれて疲れた顔してる女。

将来の夢もなく、働くのも嫌いで、それでもなんでか働いて無駄に疲れてる女が。

鏡に顔を近づけてみるとおでこに、ニキビができていた。

なんか肌も前よりハリがなくなっている気がするし。


お風呂から出ると晩御飯を作る。

今日の晩御飯は買ってきた割引のお惣菜と鶏肉入りのクリームパスタだ。

重い体を動かして野菜を切って炒める。


「おなかすいちゃった。まだ?」


ゲームをやめた彼がキッチンに顔を出してくる。


うるさい。

今やってるの。

何か手伝ったら?

弁当を洗うついでに野菜を洗って皮をむいとくとか。

肉を切っておくとか。

ってか朝お弁当作ってるんだからあんたが晩御飯作ればいいじゃない。


言葉にするのもめんどくさくて大きなため息をついた。


「何そのため息。こっちも疲れてるし洗濯物はきっちり畳んだし。ご飯は里香の仕事って決まってるじゃん。えーっと……ルールその14くらいで決めたし」


ルールその14は一か月に一回はどこかに二人で出かける、だよバカ。

家事の分担はルールその9。


「そうだね。もうちょっと待ってね」


「はーい」


彼はそう言ってスマホで動画を見始めた。

つくづく気が利かない。

箸とお惣菜を持って言ってくれればいいのに。

なんで気が利かないんだろ。


「できたよー」

そう言ってお皿を運んでいく。


「里香~水ほしいんだけど。」


自分で取りに行けよバカ。


「いただきまーす」


私が水を取りに行っている間に彼はご飯を食べ始める。


「これうまいね」


彼はそう言ってお惣菜をパクパクと食べる。

コスパのいい男だ。

それは3割引きで買えたんだ。


「パスタはどう?味薄かったら胡椒かけてね」


「うん。大丈夫だよ」


何が大丈夫なの?

美味しい?

ギリ食べれる味ってこと?

意味わかんない。

むかつく。



ご飯を食べ終わってゆっくりしてたらもう11時であった。


「ユミ結婚するんだって」


寝る前に布団に腰を掛けながら言った。


「ユミちゃんって、あのー……高校の同級生の子?」


「そうそう。女バスで一緒だった子」


「へー」


え?

会話下手?

チャットGPTでももっとまともな会話できるよ。


「俺明日弁当いいや」


「え?もっと早く言ってよ」


「別に前日なんだしいいでしょ。じゃあ電気消しといて」


彼はそう言って布団をかぶってしまった。

今日の買い出しで賞味期限が昼までもつお惣菜を二人分買ってきたし。

あんたが弁当要らないなら私も明日はダイエットやめてちょっと高いハンバーガーとか食べたのに。

太るんだったら好きなもので太りたい。

スタバとか、焼き肉とか。

スーパーのお惣菜の食べ過ぎで太るとかありえない。

でも買ってきたお惣菜を捨てるのはもっとありえない。

なんかヤダ。


ゆっくりと立ち上がって電気を消す。

夜の空みたいな真っ暗な部屋の中。

天の川もないのに、こんなにそばにいるのに。

私たちは離れ離れになっている気がする。

私たちにとっての天の川は何なんだろう。

そもそも彼って彦星なの?

彦星にしてはパッとしない。


朝6時45分

アラームの音で目を覚ます。

ゆっくりと背伸びをして乾燥した目を瞬きで潤す。

いつもの朝には聞こえない音が聞こえてキッチンへ行くと彼が料理をしていた。


「え!?何してんの!?」


「おはよう!昨日坂本(後輩)とゲームしてたときに坂本がペヤング食ってるって言っててさ。焼きそば食いたくなってきちゃったから明日のお昼は焼きそばにしようって。ついでに里香にも作ってあげたんだ!」


「あ、ありがとう」


「気にしないで!朝ごはんもついでに作っといたから!」


食卓の上を見てみるとたしかに朝食が出来ている。

少し焦げた食パンにボロボロのスクランブルエッグ。

インスタントのオニオンスープも。


今までこんなことはめったになかった。

いつもはぎりぎりに起きてバナナとプロテインを飲んで出ていく。

新卒のころこそ朝ごはんを食べていたが今はほとんど食べていかない。


「先に食べてていいの?」


「うん!いつもの弁当箱に焼きそば入れとくね!冷蔵庫に入ってたお惣菜も詰めていいんでしょ?}


「うん。お願いします。じゃあいただきます」


「はい、召し上がれ」


スクランブルエッグから食べるが見た目通りボソボソしている。

味も少し薄い気がする。


「どう?おいしい?」


彼が笑顔でこちらを見てくる。

可愛い顔をしている。

世間で見たらイケメンじゃないのかもしれないが私からするとかっこよく見えてしまう。


「うん!このスクランブルエッグおいしい!」


「そっか……よかった!」


彼が照れ笑いを浮かべながら言った。



やっとのことで午前中の仕事を終えた私は昼休憩に入っていた。


「里香先輩、今日もお弁当ですか?毎日すごいですね!」


一個下のマキちゃんが言った。


「今日は彼が作ってくれたんだけどね」


「え!?彼氏さんも料理できるんですか!?うらやましい!私を養子にしてください!」


マキちゃんはいい子だ。

こうやって軽い冗談も言えるし仕事ぶりもいい。

なにより笑った時にできるえくぼと愛嬌。

年上男性にモテそうな感じがする。

私が弁当を開くとそこには少し雑に、そしてパンパンに敷き詰められた焼きそばとコロッケときんぴらごぼうであった。


「あ……素敵なかれしさんですね!」


マキちゃんは気を使ってくれたが成人男性のお弁当の敷き詰め方としては……

残念って感じだ。

でもなぜかマキちゃんの反応に少し苛立ちを覚えてしまった。

出来の悪い弁当って自覚してるはずなのに。

お弁当を見ると今朝の笑顔が浮かんでくる。

なんでだろう。

今、ものすごく彼に会いたい気がする。





「お待たせいたしました。こちらかぼちゃのポタージュでございます」


顔の整ったウェイトレスの男性が二つのポタージュを運んできてくれた。


「おいしそー!里香!二人で写真撮って女バスのグループラインに送ってあげようよ!この前の飲み会のとき里香仕事で来れなかったじゃん。みんなに今の里香見せてあげようよ!」


そう言ってユミと二人で写真を撮った。

今流行りのBeRealというアプリで写真を撮ると内カメラと外カメラ同時に写真を撮れるらしく写真を撮ってくれた。


「ユミもついに結婚かー」


「いやいや。お先に失礼しますって感じ」


ユミが幸せそうに笑って言った。


「彼とはどうなの?もう長くない?同棲もしてるんだし結婚の話とか検討し始める時期じゃない?」


「いやぁ。彼とそういう話しないんだよね。てか最近会話自体少ない気がするし……」


「ふーん。二人はそういう時期かぁ」


そういう時期って何だろう。

良くも悪くも決断するときが来たということであろうか。


「プロポーズはどんな感じでされたの?」


「この前熱海に旅行に行ったのよ。しかもタイガ(彼氏)が予約してくれたホテル、最上階でアメニティも豪華で。ホテルの中のよさげな雰囲気のレストランで晩御飯を食べた後に部屋に帰ったらバラの花束と指輪を貰ったのよ」


「へぇー。しっかり計画立てて準備してくれたんだ」


「そうなの。カルティエの指輪貰っちゃったのよ」


彼女の左手の薬指にはカルティエの婚約指輪がはまっていた。

結婚指輪も婚約指輪もカルティエ。

幸せそうな彼女を見ていると少し嫉妬してしまう。

ベンチャーの社長の彼氏と付き合って半年での結婚。

スピード婚というやつだろう。

私たちの暮らしと比較すると真反対である。

長い同棲期間に節約し、大切なことに向き合わずにただただ暮らしている。

公務員とベンチャー社長。


「ねえ……結婚の決め手って何だったの?」


「そりゃあプロポーズされたからよ」


「そうだよね……じゃあ彼……ってかもう旦那さんか。旦那さんの好きなところって何?」


「うーん……改まってそう言われると言葉に詰まるけど、優しいところとか気の利くところとかかな?」


やっぱりユミは眩しい。

昔は同じコートで同じゴールを守って、同じチームで同じ悩みを共有してたのに。

いま私たちがコートに立つのなら同じチームではいられない気がする。

ユミとは練習で1VS1をよくした。

いつも私が勝ち越していたのだが今やったら負け越してしまうだろう。

ユミが変わったわけじゃない。

私が独身だって、結婚したって、年を取ったって友達でいてくれると思う。

じゃあなんでこんなにも。

こんなにも離れている気がするんだろう。

どうしてうらやましく思うんだろう。

きっとユミが結婚したからじゃない。

なんで距離があるのかわからないけどそれだけは確かだ。


帰り道の足取りは重かった。

なんでだろうな。

お昼の焼きそばのせいかな。

それともユミとの晩御飯でお酒飲みすぎたかな?

今日まで5日間働き続けたからかな?


わかってる。

たぶんそのせいじゃないことくらい。


冬を告げるような秋の冷たい風がほほを撫でた。


「ただいま」


いつになく重い扉を開けると温かい光が入ってきた。


「おかえりー」


リビングから彼の声が聞こえる。

キッチンには放置された皿と弁当箱があった。

彼はソファに寝っ転がりながらスマホを見ていた。


「机の上……好きなのどっちかとっていいよ」


彼に言われて食卓を見ると二つのコンビニスイーツがあった。

値段を見ると一個320円。

こんなに小さなスイーツが320円とは。


「ありがとう。チョコのやつ貰うね」


「だと思った」


彼は笑って言った。


あー。

なぜ彼のことが好きなんだろう。

好きかどうかなんて考える必要はない。

私、好きなんだ。

彼のこと。

彼の笑顔も。

不器用なとこも。

適当なとこも。

この気持ちに理由なんてないんだと思う。

でも、愛してる。


「ねえ。今日ユミと話して思ったんだけどさ。話し合わない?私たちの将来について」


少しの間沈黙が流れた。

彼はゆっくりと起き上がると笑って言った。


「……風呂。入っちゃいなよ」



風呂から上がると彼は真剣な顔でこちらを見ていた。

決まづくなって顔をそらした。


「……髪の毛乾かさないと」


「そうだね。寒くなってきたしね」


髪を乾かしている間も彼はこちらを見つめていた。

いつもは半渇きで終わらせるのに今日だけはいつもよりも長くドライヤーをした。


話したくなかった。

息がしづらい。

ドライヤーのせいじゃない。

のども詰まってる。


どちらにしてもこの形ではいられない。

それがわかってて、覚悟していったはずなのに。


ドライヤーを終えて彼を見ると彼は考え込んでいた。

彼の癖。

考え込むときは下の一点を見つめる。


「あのさ……」


彼が口を開いた。


「本当は……あの……」


好きなことになると饒舌なのに緊張すると言葉が詰まる。

今まで通りの彼だ。

彼は再び私の目を見た。


「もう我慢できない」


優しい彼がそう言った。

彼は立ち上がってこちらに近づいてきた。

私の言葉を遮るように彼はやさしく抱きしめた。


ああ。

私はあなたのことを愛しているのにあなたは――


「里香。僕は知ってる。結婚だけが愛のカタチじゃないことを。家族であることがだけが心の繋がりの証明でないことも」


私は彼を強く抱きしめた。


「僕は少し甘えすぎてたみたい。今の暮らしが心地よくて。この先に進んでも何も変わらないならこのままでいいやって」


私の顔は今ひどいことになってるだろう。

すっぴんで大泣きしているのだから。

私は彼の顔を見つめた。


「もう無理だよ」


もう許さない。

絶対に。

絶対に。


「もう甘えるのは許さない。ずっと一緒にいるんだからルールもしっかり守らせる。ぐちぐち口うるさくなるよ。いいの?」


彼は笑ってやさしく私の唇に触れて答えた。


あなたは――




ああ。

私はあなたのことを愛しているのに。


私に重くのしかかってくる。


あなたの愛が。














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