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心の内

隣の教室に居たまま、一時間が経ってしまった。


その事実をスマホの時計で確認し、落胆する。

どうしようどうしようどうしよう!?


今日、わたしは里見くんが落としたシャーペンを拾いました。


拾ったまでは良かったんです。

良かったんですが……どうやって返せばいいんだろう。


机の上に置いて帰ろうかとも思ったのですが、彼は一向に教室を離れようとしません。


ならいっそ渡してしまおう! と思ったのですが……話しかける勇気が持てない! ぜんっぜん持てない!


男子と全く話せないわたしが、しかもその相手が里見くん……余計話せないですよ!


心の内ばかり饒舌で、全く行動に繋げられない自分に若干の苛立ちを覚える。


でもシャーペン無くして困ってる様子もないんだよね里見くん……今さっき教室覗いた時スラスラペン動かしてたし。


じゃあいっその事明日彼がいない時に机の上に置いちゃえば……ダメだ! そんなの不誠実過ぎる! いつも使ってるペンを使えないことでモチベーションが下がっているかもしれない!


あああああどうしよう!


もう一度スマホの画面を見る。

時間自体はそんなに経っている訳じゃない。でも……でも!


彼が、困っているかもしれない。つつがなく勉強出来ているように見えても。


なら、渡さなきゃ。困ってる人を見過ごせない、里見くんに憧れるなら。


そう思うと強く決心し、シャーペンを手にしてわたしは彼が居る隣の教室……わたしの教室へ向かう。


たった数メートルの距離なのに果てなく遠く感じる。


足がめちゃくちゃ重い。

動悸がどんどん早まっていく。


そういえば彼と二人きりで話すの初めてじゃない?

うわそれってなんか凄いな……じゃない! ああ! うるさい頭の中!


若干の邪念に囚われつつ、半ば無意識的に私はドアを開けていた。


彼と目が合う。ヤバい、何言うかまるで考えてない。どうしよう!

思わず視線を逸らしてしまう。


視線を逸らすのって失礼なことじゃないかな……もう一度視線を合わせる。

でもやっぱり視線を逸らしてしまう。ダメだ。真っ直ぐ顔が見れない。


「えーと、俺になにか用?」

わたしの状況を見かねたのか里見くんから話しかけてくれた。

うわめちゃくちゃ嬉しい! じゃない! 申し訳なく思わなきゃダメだ!


「あっ! ええとえと……」

上手く言葉が話せない。


喉奥に言葉が引っ付いてどうしようもない。焦りから体が震えてしまう。


「あ、そのシャーペン」

わたしが持っているシャーペンに彼が気付いてくれた。今だ! 今言わなきゃ!


「ああああの!」

「は、はい!」

思わず大きな声が出てしまった。里見くんもびっくりしちゃってるし……。


でもこれ以上お時間を取らせる訳にはいかない……早く渡して帰らなきゃ!


「これ、えっと、落ちてたので」

そう言いつつ彼にシャーペンを差し出した。明らかに手渡し出来ない距離感で。


何やってるのわたし! この状況どうしてくれるの!?


自分にキレたり焦ったり忙しい中、彼が席を立つ。


受け取りに来ようとしてくれてる!? ヤバい申し訳過ぎるし、どうしようどうしよう!


体が感情以上の動きをして、彼の元へ駆け寄っていく。


「す、すいません」

出た言葉は謝意だけだった。もう頭がパンクしそう……。


「何が?」

そりゃ伝わんないよすいませんだけじゃ……。


「これ拾った時に、返せなくて」

申し訳なさでいっぱいになる。


すぐ返せば良かったのに一時間も経っちゃったし……。


「いやいや、拾ってくれただけでもありがたいのに届けてくれたんだから、むしろこっちが申し訳ないよ。でもありがとう。届けてくれて」


彼は私を気遣って言葉をかけてくれた。

いや、里見くんならそう言ってもなんの不思議もない。


とてもいい人だから。でもわたしは面食らってしまった。


まさかわたしが里見くんに優しくされるなんて思ってもなかったから。


ニヤけが止まらない。

こんな気持ち悪い顔里見くんには絶対見せたくないのに、どうやっても抑えられない。


今、この流れなら、今まで言いたかったことが言えるかもしれない。


「あ、あの……あの」

「うん。どうかした?」

今だ。今しかない!

眉毛をきりりと上げ、わたしは言い放った。


「わ、わたしと! キャッチボールしませんか!!!」


「……え?」


……え? 何? キャッチボール?


『遊びに行きませんか!』 でしょ? 言おうとしたのは。


なんでキャッチボール? 本当になんで?


ほら里美くんも驚いてるよ?

そりゃそうだよ友達でもないクラスメイトに急にキャッチボールに誘われたら、そりゃこんな顔にもなるよ。


嫌に冷静な思考が、しかしてぐるぐると高速回転を続ける。


静寂が満ちたその時、わたしの顔は耳まで真っ赤になった。


「あっあのえっとえっと……ごめんなさい!!!」

うわあああああ何言ってるんだわたし!?


キャッチボールってなんだよ! 玉を投げ合うことになんの意味があるの!? そうじゃないキャッチボールのことじゃなくて!


いても立っても、というかもう恥ずかしさと申し訳なさでいっぱいになったわたしは、全力でこの場から消えるように逃げていく。


なにか彼が言ったような気もしたが、逃げることに必死だったわたしは、それを無視して走ってしまった。


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