暖炉が欲しい!
「暖炉が欲しい!」
僕の叫びに、お母さんは胡乱な目を剥けてくる。
「ねぇ、暖炉ほしくない?」
「いらないわよ」
「えぇ。でも暖炉って格好良くない?」
ごうごうと燃える炎。レンガの赤茶色。火かき棒で暖炉の中をかき混ぜるのもいいし、そばで安楽椅子とかロッキングチェアに座って温まるのもいい。
「格好良くないわよ。第一、暖炉なんてこの家のどこに設置するのよ?それに薪代だってバカにならないでしょ?」
「お父さんはどう思う?」
このままお母さんを攻略するのは無理だ。
矛先を変えてお父さんの方を見れば、きらきらと輝く目があった。さすが心は少年を自称するお父さん。心は僕と同年代みたいだった。
「いいよねぇ、暖炉。大きな肉を焼きたいね」
「おお!それもいいね!」
「だろう?あとは魚を焼いたり、鍋をしたりね」
「鍋はいいけれど、魚はいらないかな」
魚は嫌いだ。あの生臭さが好きじゃない。
突然梯子を外されたお父さんは絶望した顔をする。
「そんなことどうでもいいからさっさと掃除をしなさいよ!」
お母さんの雷が落ちた。
今は年末の掃除中なのだ。といっても、僕の家の大掃除はクリスマス前に行われる。クリスマスから年末、それから正月という連続のイベントごとの間に掃除をしたくないというお母さんの一声によって決まっている、僕の家独自の年間行事。
片づけを進めながら改めてリビングを見回せば、そこにはゴミ屋敷二歩手前くらいの、雑多にものが広がる部屋が見える。
「……わかったでしょ?こんな家で暖炉なんて火事を起こそうって言っているようなものよ」
「片付けできないのはお父さんとお母さんのくせに」
「な……あんただって服をよく脱ぎ捨ててるでしょ!」
「あ、窓ふき行ってくるね!」
でも二人よりはましだ――逆鱗に触れる前に言葉を飲み込み、僕はお母さんの前から去った。
翌日、月曜日は終業式があって、僕はお昼前に家に帰った。
自営業のお父さんが出迎え、目を輝かせて胸を張る。
「暖炉を作ったよ!」
「本当!?」
まさか、お父さんがこんなに働き者だったなんて!
歓喜に胸を躍らせながら、お父さんに招かれて家の外に出る……外?
裏庭に回って、そして。
ウットデッキの影、レンガで囲われた四角いスペースの中で燃える焚火を見て、僕は目が点になった。
「……お父さん。これって囲炉裏だよね?」