5:堕天使の煉獄 パートA (Purgatory In Fallen Angel Part A)
ロスエンジェレス。アメリカでニューヨークに次ぐ人口の大きさをもつ大都市。ホリーウッドの映画にはどれほど世話になったことか。幼い頃は西海岸に憧れを抱いていたが、ギャングの巣窟があると知った時から行くことを諦めていた。俺みたいな豊潤な奴が彼らの領域に立ち入ってみろ、骨になるまで身ぐるみを剥がされるに違いない。考えるだけで体温が下がりそうだ。
しかし、なんと言うことだ。マッケンジー様はいきなり皆でロスエンジェレスに行くと言って、自分たちに銃器を渡してきた。
「いやはや正式な初陣がギャングとドンパチすることとはついて無いねぇ。俺の目から涙がが垂れる垂れる。」
全く、これは全て自分の祖母の命日を延長しなかった死神が原因だ。俺は悪く無い、悪く無い悪く無い悪く無い。
俺は尻が軽くなった。しかし、それは俺の安堵を意味するものではない。すぐにでもギャングを全滅させて、安心して一日を終わらせようとする心の現れだ。
「いや、タダの調査よ。A-JOCKていうギャングがオカルトに手を出してると言う噂があるからその調査。」
調査だと?
「A-JOCKってのは小規模のギャング集団で、一部の警察の人間しかそのギャングを認知してないらしいわ。だからあまり警戒しなくてもいいかも。」
いや、ギャングはギャングだ。「警戒しなくていい」は大間違いだろと彼らに言いたい。それともこの三人はそう言えるレベルまでにギャング慣れしているのか。
「こんなかで銃に慣れてねえ奴は一人だけだよなぁ。だから三人が陽動している間に、そいつが中に入るってのはどうだ。」
緑、こうやって新入りを重役を担わせるのはどうかと思う。でも俺は承諾した。貴族だって平民の生活を体験したいということだ。おそらくシリアルしか朝食に食わないのだろうが。
「で、俺は何を調査すれば良いんだ。」
「うーん、取り敢えず彼らが何かオカルトじみたことをしていると言う噂があるから、その真偽の確認のために写真を撮って欲しいって感じかな。」
「なかったら撮らずに帰ってきてね。」
エミリアがアレックスの後ろから突然現れた。
「エイミー?一体どこから出てきたのよ。」
「いや、普通にドアから入ってきたと思うぞ。」
「緑の言うとおりよ。」
「まいっか。」
ーー
取り敢えず内容を整理しよう。
まず、俺たち四人がLAに行くのは、そこにあるみみっちいギャング集団が何か霊的なことをしているかもしれないからで、ギャングの領域内に入るために三人が陽動。その間に俺が中に侵入して、その真偽を確かめるために俺がその証拠写真を撮る。
初めての西海岸がこんなハードなものになるとは、昔の俺は到底思いもしなかっただろう。
「そういえば、逃走車両とか必要じゃないのか。」
「自分の車を逃走車両に使って。輸送は私の兄ちゃんに任せて。」
また「アレックスの兄」だ。一体彼女の兄はどんな奴なんだ。引越し業者とかそう言う類のやつなのか。
…そういえば目の前にロケットランチャーが見えるんだが、陽動の時に一般住民にバレる心配をするべきだと俺は思うぞ。
俺は口にそれを出さなかった。所詮、俺はまだ新入りだ。
ーー
「おお、そうか。LAの旅、楽しんで来てくれ。ギャングに絡まれないよう気をつけろよな。」
父親にLAへ旅に出かけると嘘をつき、俺は車を野球場に停める。
そこには、何か顔に覚えのある男が立っていた。こいつがアレックスの兄か?
「こんにちは。」
「待ってましたよ、ミスターオキーフさん。私の名前は、アダム・A・マッケンジーです。
この発言で、俺は強い向かい風が吹いてくるような、いきなり脳内に雷鳴が走るような、そんな衝撃を受けた。
「…アダム?」
アダムといえば、あの墓に埋まったビジネスマンと同じ名前ではないか。まあ、ミドルネームが違うから別人だとは思うが、なぜか俺は違和感を感じずにはいられなかった。
「…どうしましたか。」
「いや、なんでも。」
「じゃあ、予定通り私がLAにこのダサいマニュアル車を持っていきますね。」
「あー、わかりました。」
やはりマニュアル車は買わない方が良かったな。
俺はキョテンのターミナルで皆と合流したら、恐怖・いざと言う時の宿泊費と共にLAへの入り口に入ることになる。そして、俺が死んだら、また誰かが俺の葬式で予定を取り消す羽目になり、人に責められるだろう。緑みたいな人間が、この世に一人しかいないのなら話は別だが。
「命は固有のものであり、永遠に失われる。」、幼い頃に聞いた祖父の言葉が脳裏をつたう。俺は、俺が今ここにいて、死んでいないことを改めて感じた。俺の死への恐怖は、なぜだろう、少し緩まった気がする。
その調子のまま、俺は目の前の「従業員専用」と書かれた扉を開けて、壁が赤くないことを確認してから中に入った。




