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15.泣く子に黙らぬ親も誠 その1

【前回の記憶】

「……あの、あの目はよお…………あいつにも、懐かしいもんがあるのかねえ」

「……体調はどう?」

「大丈夫よ」

「嘘ついてないよね?」

「ついてないって。もう、ニアってば心配しすぎ」


 母親はベッドに積まれたクッションに背を預けたまま、少し子どもっぽく笑った。すると、頭を撫でられた少年がむっと口をとがらせる。


「だって、お母さん、いつもそれしか言わないじゃん」

「しょうがないでしょう? ニアのおかげでこの通り、ピンピンしてるんだから」


 母親はニコニコしながら拳を挙げて二の腕を軽く叩いたが、少年はため息をつきながら「本当かな……」と呟く。


「本当よ。ニアの方こそ、お母さんの心配してくれるのも嬉しいけど、あんまり無理しちゃだめだからね?」

「うん、わかってる。じゃあ、行ってくるね」


 母親の「行ってらっしゃい」という声を背に受け、少年は安堵の笑みを浮かべて、部屋を出た。


 家を出て少し歩けば、うっそうとしていた木々も背が縮み、空が広く見えて来る。そよぐ風。流れる雲。花の匂い。命の光。両親が愛したこの世界には、美しいものが数多くあることを、少年は知っている。しかし、いちいち見惚れていては、日が暮れてしまう。少年は名残惜しい気持ちを飲み込んで、山を下り続ける。


 黙々と歩き続けた少年は、昔両親に教わった場所に辿り着いた。柔らかな土の上にしげる草花を飾る露が、木漏れ日でちらちらと輝いている。少年は膝をつき、それにそっと手を添える。


「いつもありがとう」


 小さくそうこぼすと、少年の周りのうすぼんやりとした光が嬉しそうに揺れた。少年はそれを見て満足げに笑うと、一つ一つをじっくりと観察し、その種を見極めて丁寧に摘み取った。


 必要な分をかごにおさめると、少年はゆっくりと立ち上がる。最初の頃は長時間低姿勢を保ち続けるせいでよくしびれていた足も、今では多少筋肉が鍛えられたように思われる。空を見上げると、日はまだ高く、予定には十分に間に合いそうだった。去り際に草花に向かって小さく手を振って、少年はしっかりとした足取りでまた下り始めた。


 すると突然、低い声が木々をざわつかせる。


「おい」


 少年は肩を揺らし、恐る恐る背後を確認する。自分と同じ耳、見覚えのある顔だった。


「手前、まだこの山にいたのかよ」


 体は一回りか二回り大きいようだが、歳は少年とそう変わらないような男の子だった。少年は気まずそうに男の子から目を逸らすと、元の方角へ身体を戻す。男の子は苛立たし気に話しかける。


「あの人が死んだのは手前らのせいだろ? なのに、手前らはのうのうと生きてやがる。どういうことだよ、おい」


 少年は耳をふさぎたくなるのをこらえて、黙って前へと進む。


「なあ、『ごめんなさい』って気持ちはねえのかよ。手前らのせいで、あの人が犠牲になったんだぞ? 言えよ、『ごめんなさい』って」


 つばを飲み込んで、ぐっと涙をこらえて、少年は歩き続ける。すると、男の子は嘲笑して言った。


「ああ、そっか。手前の母ちゃんはそんなことも教えてくれないクソ人間だったな」


 少年は走り出した。これ以上、怒りも、悲しみも、こらえきれそうになかった。突如駆け出した少年に驚く暇もなく、男の子も慌てて後を追いかける。少年は必死の思いで山を駈け下りた。街を目指した。少年は身軽で、幸い、目的地もそう遠くはなかった。男の子との距離が開いていき、転びそうになりながらも少年はますますスピードを上げる。


 すると、パッと光が降り注ぎ、少年は木々の迷路を抜け出た。男の子は悔しそうに舌打ちをして、こう吐き捨てた。


「このっ、エルフの出来損ないが!!」


 それ以上、男の子は追いかけて来なかった。

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