37回目 「みんな仲良く」という病気
翌日から行動に移していく。
まず、仲間になってくれている者達に声をかけていく。
自分たちが暮らせる場所を作りたいと。
その為にも、皆の協力が必要だと。
「うん、分かったよ」
仲間になってくれた者達は、そう言って頷いてくれた。
「もう嫌な思いはしたくないし」
「あんな連中が二度と出てこない場所は欲しい」
誰もが同じような事を口にしていく。
被害者だからだろう。
加害者という存在がどれほど危険なのか知っている。
それらを身近に置いておくなど、とても出来ないと分かっている。
「みんな仲良くなんて出来ないし」
それが仲間になった者達の思いだ。
みんな仲良く。
そんな事不可能である。
これが出来るなら、争いごとなんか起こらない。
そして、仲良く出来ないのに一緒にいるのは不幸でしかない。
争いの原因が生まれるだけだ。
それを無理して一緒にさせるから、騒動が起こる。
その結果、被害者が出てくる。
争わずに済むならそれが一番だろう。
平穏無事に生きていけるならその方が良い。
だが、世の中には人の事を蹂躙するのを楽しむ人間がいる。
それをあおる者がいる。
そういった者に従う者がいる。
それらを放置していたら、悪事が拡散されていく。
誰かが被害者になる。
ここにいる者達はそれをいやというほど体験した。
だから、みんな仲良くやっていく事など出来ないと分かっている。
人は気が合う者同士で付き合っていればいい。
その方が面倒は減る。
不毛な争いは消える。
もし一緒くたにしたらどうなるか?
騒動が起こる。
多様性が消える。
多様性とは、一人一人が違うから生まれる。
だが、違った者達があつまれば、どうしても摩擦や衝突が生まれる。
そうなれば、どちらかが生き残るために、邪魔と思うものを処分していく。
騒動がこうして発生する。
そうでなくても、他人をいたぶるのが好きな者もいる。
そういった者が他の者達を潰していく。
様々な可能性がこうして消えていく。
みんな仲良く、みんな一緒というのは、可能性を潰す。
邪悪で異常な考えである。
少しでも様々な可能性を残したいならば。
個性や多様性を大事にするならば、可能な限り分裂していた方が良い。
無駄な争いをしなくて済む方法。
自分の安全を確保できる場所。
それがどれだけ大事で必要なのか。
トシキと仲間達はもう知っている。
「まずはここを守ろう」
町を守る。
外から来る敵を排除する。
そうして、暮らしていける場所を確保する。
「まずはそこからやっていこう。
それを頼む」
トシキの声に、仲間は頷いていった。




