116回目 敗北、そこから始まる交渉…………そんなものは無い
霊能者の消滅。
それは政府に絶望を抱かせるに十分だった。
効果的な対抗手段が失われたのだから。
まだ警察と自衛隊は残ってる。
だが、それらは霊能者に比べれば劣っている。
トシキへの備えとしてはこころもとない。
「終わったな」
誰もがそう思った。
少なくとも、これで何をされても抵抗する事は出来なくなった。
あとはなすがままとなる。
このままなら、日本の人口はほぼ半減となる。
その中に誰が入るのか?
それを政府の者達は懸念していた。
といっても、国民の今後について心配してるわけではない。
そこに自分たちが入るかどうかが問題だった。
もしそこに自分たちが入らないならば。
政府はそれほど大きく動きはしなかっただろう。
不審な死が多いので何らかの調査はしただろうが。
だが、対策をしていったかどうかは分からない。
せめて、トシキが何を考えて人を消しているのか。
それが分かればとは思ったが。
政府の力ではトシキの考えまで調べる事は出来なかった。
その為、どういう基準で消す人間を選ぶのか分からない。
政府としてはそこが怖かった。
もし自分たちがその範囲に入っていたらどうすればいい?
この疑問への答えが見つからない。
だから、消される前にトシキを消せ、となった。
もちろん、人口減少による国力減退も問題だ。
他にも様々な理由があるが、政府が動き出した最も大きな理由はこんなところである。
そうした保身の為の行動だったのだが。
それも終わってしまった。
あとは、トシキのなすがままである。
それでも政府はなんとかしようとしていた。
戦闘で負けたが、ここからの交渉で乗り切ろうと。
だいぶ不利な状況であるが、幾らかでも有利な条件を引き出そうとしていく。
それが大きな勘違いである事に彼らは気付いてない。
トシキが彼らに要求を突きつけてくると思っている。
ならば交渉の余地があるだろうと。
少なくとも接触はあるだろうと。
そう考えていた。
そんなのは政府側の思い込みである。
トシキにそんなつもりはない。
そもそも、交渉する気がない。




