113回目 蟷螂の斧
「なんと…………」
状況を伝えられた政府関係者は頭を抱えた。
既に複数の県が陥落。
霊能者も警察・自衛隊にも多大な損害が出ている。
現地住人に至っては、大半が死滅してると予測される。
「こんな事になるとは」
嘆きの声もやむなしである。
報告を受けてから、可能な限り迅速に動いたつもりだったのだが。
それすらも遅かったようだ。
トシキは既に手に負えないくらい巨大になっていた。
「どうにかならんのか?」
居並ぶ者達に尋ねる。
しかし、国のトップを担う者達の誰もが返事をしない。
対策や対案を持ち合わせてないからだ。
「あなたもですか?」
尋ねた先にいる者達に話を向ける。
そこにいるのは、神官に僧侶、霊能者など。
日本における、それらの頂点に立つ者達だ。
事ここに至っては、彼らにすがるしか無い。
だが、そんな彼らも黙っている。
あるいは、黙って首を横に振る。
「残念だが」
そう言って一人が重々しく口を開く。
「あれが、これほどとは……」
それは状況絶望さをこれ以上無く告げていた。
「超常的な力には常に接していたつもりだ。
だが、あれほど強大なものは見た事がない」
常識外れの現象の中でも、特大の異様さを放ってる。
それがトシキだ。
「なんであんなものがあるのか、それを知りたいくらいだ」
つまり、霊能者達にも原因や理由が全く分かってない。
はっきりしてる事はただ一つ。
トシキの異常さだけ。
人間とは思えないほどの強大さ。
そんな者が存在する事が信じられなかった。
「では、対策は……」
「無い」
はっきりと、無常な事実が突きつけられる。
「どうにかしたい。
だが、どうにもできん」
やらないのではない、やれないのだ。
どうにか出来るような簡単な存在ではないのだから。
政府内に絶望感が漂っていく。
この状況をどうにかしようとしての会議であるのだが。
その場で、やりようがないとはっきり示された。
打つ手はもう無い。
「それでも」
その中で、霊能者達の代表は口を開く。
「やれるだけの事はしよう」
結果については約束は出来ない。
だが、可能な限りの抵抗を試みようとはしていく。
それがどれだけ無意味で無駄な事なのかを知りつつも。




