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移行中  作者: あ
甲斐田 信音編
87/106

#87 遠き日の約束

『行っちゃったね……パパとママ』


『わたし、もうなかないもん。また会うってきめたから』


『はは、強いなあ。うん……そうだね。ボクも約束したんだ。だから……ずっとずっと待ってるんだ』


『うん。はやく、あえるといいな』



 ────

 ──



「はーあ。なんかもうダルいっすね〜」

「春先になって何回目だそれ言うの。シャキッとしてよ」


 光宙高校へと至る、桜満開に咲く坂道を下る2つの影。暖かな4月の夕日が照らし、帰路につく2人の背を、春風が優しく押していた。


「そういえば……なんだけどさ」

「なんすか?」

「父さんに昔聞いたことがあるんだ。俺は一体どこから来たんだろうって」

「しょーもない無垢な子供あるあるっすか?」

「いいから聞けって。そんでさ……聞けば、俺達という存在は、どこか遠い宇宙の外から魂だけがやってきて、現世で人間という器を借りて、憑依してるんだ……ってさ。これ、どう思うよ」

「はー……どう思うって言われても。スピリチュアル的なヤツ? 臨死体験だったり、人は死ぬと21グラム軽くなって、それが魂の重さだとかは聞きますけどねー……まだ解明されてないと思うんすけど」

「父さん達はきっと、それを研究してるんじゃないかな。話してくれたろ? 異世界の事を……それに、お前だって薄々思ってたんじゃないのか?」

「……さー、どうなんすかね」


 橋の下を流れる川のせせらぎを眺める。2人の足音が鮮明に聞こえる程の静寂。共に電車に乗り、家へと帰っていく。


「前世の記憶ってやつもさ……あるのかもしれないよ。現世で関係がある人物は、前世でも繋がってたってよく聞くじゃないか。俺はそれを信じたい……いつの日か聞こえてきた俺を呼ぶ声を、さ」

「さ……じゃねーっすよ。なーんで今日はいつにも増してアレなんすか。そんなんだから顔は良くてもモテねーんすよ……センパイ?」

「う……やめろってその呼び方。それに、俺はモテたい訳じゃないんだ決して。そんな……彼女がいないかのように言うのは、やめたまえ!」

「いやただの事実っしょ」

「く、可愛げのないヤツめ……はぁ」


 項垂れながら学生鞄を持ち直す。言葉のナイフを刺した本人は、ツーンとそっぽを向く。2人は無言で再び帰路へつく。町の中心を抜け、豪勢な家が軒を連ねる高級住宅街が見えてきた。


「なあ……両親の事、好きか?」

「なんすか藪から棒に」

「俺は大好きだ。父さんと母さんも、この2人以外は絶対あり得ないって思う程にな。今こうして普通の高校生として、2人の子供として生活しているのが、何より幸せだって……強く思う。なんでなんだろうな?」

「……恥ずかしい人っすね。でもまー……それに関しては、私も同意見っすね。私もパパとママの事は愛してます。それに……」

「ん? なんだ人の顔をジッと。なんか付いてるか?」

「う、うるせーっすよ! あんま文句言ってると関節逆方向に曲げますよ!?」

「え!? なんか言ったっけ俺……あ、勿論お前の事も愛してるぞ?」

「〜ッ!? こんの、ばかあ! 恥ずかしいんじゃぼけぇ!」

「ははは! いていて、やめろって叩くのは。ほら、もう家着いたぞ」


 些細な喧嘩をしながら、我が家の玄関へと辿り着いた2人。扉を開ける前から、家の窓から食欲をそそる良い匂いが立ち込めていた。2人の空腹を刺激する……家庭の証。


「あーお腹空いた。父さんが料理してるのかな。母さんは小説書きに忙しいし」

「あー……異世界ものを書いてるんでしたっけ。妙に描写リアルで、読んでて臨場感あるって評判なんでしょ?」

「実際の体験を元にしたオリジナル小説だってさ。はは、母さんは昔から変わってるからな……」

「主人公の名前、ユーキ……ですよね。どうなんすかそれって……」

「はは……正直ちょっと見てて恥ずかしいよな……」

「ですね……ま、ラブラブなのはいい事っすよ」

「だな……それじゃさっさと手を洗って晩御飯の支度しようぜ」

「そっすね……ただいまっすー!」


 元気な挨拶が家に響き渡る。キッチンで手料理に勤しむ父の姿。2人の姿を見て、にこやかな笑顔を向けた──




『ありがとうパパ、ママ。ボクたち……すごく幸せだよ』


『うん。すごくうれしいよ……わたし……パパとママだいすき』


『ボクたちとの約束……まもってくれてありがとう』


『わたしたちをみつけてくれて……ありがとう』


『また──会えたね』














「おかえり──優音(ユオン)椎奈(シーナ)!」





 THE END

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