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移行中  作者: あ
甲斐田 信音編
80/106

#80 残された選択肢

「バーカ。ほんっっっっとにバカッ!!」

「す、すみません……」

「たかがゲームの演出に何熱くなってんすか! 一時の衝動で死んだらどうすんだっつーのマジで!」

「いやあ……3年もいると、NPCと分かってても情がね……」


 ぷんすかと怒りながら、俺へ治療を施す信音。外傷の処置をしながら、片手でデバッグ回避のコードを器用に打ち込む。傷とデバッグで満身創痍になりながらも、俺はなんとかイベントを終了させた。今にも死にそうな俺だが、言葉に出来ない達成感で心は満たされていた。


「ああ、ユーキさん……私を庇って……なんとお労しい」

「いや、いいんだ……良かったよ。生きてくれていて」


 ヨウヮルを救う事が出来たからだ。絶対に不可能事を成し遂げたのだ! 俺はやったぞ……そう腕を振り上げた直後、ぺしっと頭を平手で叩かれた。


「なーにが生きてくれていて……っすか。助けるのに理由はいらないなんて臭いセリフ、今時誰も言いませんよ。こっちは死ぬ所だったっつーの」


 額に青筋を浮かべ、苦虫を噛み潰したような顔を浮かべる信音。正直、ぐうの音も出ない。何も考えずに命を放り投げたに等しい行為だ。勿論後始末をするのは信音の方。一緒に共倒れする可能性もあったわけだからな……本当にスマンとしか言えない。


「センパイらしいっちゃ、センパイらしいっすけどね。まー、ほんの1ミクロですけど……ちょっとだけカッコよかったっすよ。ほんのちょっとね。本音を言うと少し嬉しかったですよ。アタシが作ったキャラをそんなに思ってくれててね。そこだけは礼を言っておきます」

「信音……」

「しかし……予想外っすねえ、これは」


 信音はあごに手を当ててヨウヮルを眺める。確かに……今の彼女は存在するはずのない人物だ。ゲームの都合上あり得ない事。

 そうだ……どれだけゲマのHPを削ろうがパパスは死ぬし、どれだけレベルを上げようがガラフはエクスデスには勝てない。特殊な方法で生存させても、ゲームの進行上は死んだ事になっている……それが常識だ。だが彼女は、消える事も無くその場に存在している。


「うーん……まるで現実のように、()()()()()というパラレルワールドを作り出しているんですかね。ゲームという概念を越えている気がしますけど……数字と言語で作られた世界じゃない。もうこの世界は、アタシの想像を遥かに越えて……」


 2年前のあの女将だってそうだ。プログラムされていない事を、さも当然のように振る舞っていた。今まで気にしていなかったが……いくら自動でAIがゲームを作ると言っても、限度があるはずだ。


「あの……ユーキさん。さっき私の事を、生き別れた妹だと仰っていましたけど……何故その事を貴方が?」

「え、ああ、いや。それはその……」

「……なるほど。私には理解出来ぬ事のようです。私とユーキさんは──いえ、私と兄さんは、不思議な縁で結ばれているのですね。会えて嬉しいです」

「ヨウヮル……ありがとう。全ユーザーが聞きたかった言葉だぜそれは……」


 ヨウヮル。この子は主人公の生き別れの妹なのだ。生まれた時に事故に遭い、生き別れたたった1人の肉親。彼女はずっと探していた兄姉である主人公に会うために、この祭りへと参加していた。しかし村の掟で、決して妹である事を明かしてはならないと口止めされ、それを告げるは最期の一言の時のみ。あまりにも酷だ。ちなみに、彼女は主人公によって種族も変わるし、性別が違えば呼び方も兄や姉に変わる。


「……とにかく、今は妹との再会を喜んでいる暇はありません。今回の一件で、アタシ達は完全に異分子となった。ワンチャン異常事態だと認識して、デバッグの手を止めてくれるかなーって思ったんすけど、甘くないみたいっすね」


 俺達の身体は、微かにだが消えかかっている。AIは完全に俺達をヤる気だ。じわじわと消されていくこの身体……今までのデバッグを鑑みれば、10日も持たないであろうと信音は予測していた。


「こうなってしまった以上、もう消去されるのは時間の問題です。一刻も早く対処しないと」

「そ、そうか……じゃあ急いで秘文を攻略しないとな……」

「いや。難しいでしょう。秘文は日を跨がないと次の碑石が出現しない、晩成型の謎解き育成コンテンツっすから。んなの悠長やってらんねーです。恐らく数日以内に確実に排除されますよ」

「え……じ、じゃあ俺達は、もう……!?」

「んもー、誰のせいでこんな事なってると思ってんすか。ったく……どうやら、この方法しか無さそうですね。四の五の言ってらんないっす」


 絶体絶命のピンチだと言うのに、信音は落ち着いていた。まるで必ず助かる方法があるみたいな……そんな余裕が感じ取れる。


「何するんだ……?」

「……これは実行する気さえあれば、どんなコンテンツよりも確実かつ、安全に証を残す事が出来ます」

「な、なんだそれ!? そんな方法が……! でもそれ、さっきは禁匣より難しいって……」

「ええ……実行しようとする気。それが一番の難所っすねえ。完全に気持ちの問題なんで。うん……」

「でも、それしか方法が無いんだろう……?」

「……もう、こうして悩む時間も惜しいくらいに、タイムリミットは迫っています。なので、ハッキリと言いますよ」


 信音は顔を近付け、少し頬を赤らめて俺にそっと告げる。





「センパイ──アタシと結婚して子作りして下さい」





 時が止まったかのような静寂。信音の一言は、俺の頭を一瞬にして真っ白にした。


「はぅえ?」

「なんすかその声。センパイ今めちゃくちゃマヌケな顔してますよ」

「すまん。もっかい言ってくれるか?」

「死ぬ程恥ずかしいんで、あんま復唱したくないんすけど……アタシと結婚して子供作って下さい」

「にゅえええぇぇーッ!?」


 信音の口から突如として紡がれる、あまりにも衝撃的な告白。付き合って下さいの200倍はパンチある告白だ。恥ずかしそうに言ってはいるが、その瞳を見れば決して冗談を言っているのではないと伺える。


「ちょ、ちょっと待てよ信音……一体何がどうなって、俺とお前がけ、けけけ……!」

「んな浮わついた話じゃないっすよ。生き残る為です。NPCは年を取る事も、子という新たなる存在を作り出す事はしません。この世界に存在するのは、予め作られた人類のみですから。生命を産み、育む事。現状これはユーザーにしか出来ない事です。それが証明出来れば、アタシ達はこの世界と完璧にリンクする。管理AIの一切の干渉を受ける事無く、排除は不可能になるはずです」

「……」

「残された手段は他にはありませんよ。いいっすね? 明日に結婚式を……そして、その日の夜に子作りです」

「あ……ゲームの儀式的なものって意味かっ? そんな淡白に言うんだし、そ、そうだよな! 実際に行為をする訳じゃ──」

「いいえ。センパイも知っているでしょう? この世界はもう現実と然程変わらない。それは、どんな行為であってもです」

「…………」


 結婚と子作り。この2文字が俺の中をグルグルと駆け巡る。信音……俺が聞きたいのは、そんな事じゃない。なんでもいつも、お前は……!


「お前は……信音は……いいのかよ?」

「何がですか?」

「何ってお前……その、お前の気持ちだよ! んな軽々しく言っていいのかよ!? ここはもうゲーム世界じゃないんだろ? 俺は愛の無い結婚はゴメンだぞ! それしか生きる術が無くてもだ! これは死んでも譲れない俺自身の尊厳だ。俺言ったよな? もう自分を犠牲にするなって。信音……お前という個を汚し、その心を強いて踏みにじるくらいなら、俺はデバッグで死んだ方がマシだ」


 辺りが静まり返る。俺は一瞬たりとも信音から目を離さなかった。少しの静寂後、信音はポリポリと頭をかくと、低く頭を下げる。


「アタシの言い方が悪かったですね。そうでした、センパイは何より他人を思う人でした……お互い様か。コホン……いっすかセンパイ。アタシがこれから言う事は全て真実です」


 信音は突然俺に迫ると、いつの日かと同じように、俺の頬をそっと手のひらで包む。その表情は真剣そのものであり、曇り無き真っ直ぐな目をしていた。


「アタシ、ちゃんとセンパイの事好きですよ。じゃなきゃこんな提案しません。嫌なら、今も全力で他の方法を模索してます。こうして落ち着けるのも、センパイとならいいかなって思ってるからです。3年間も一切離れる事なく、この異世界で付き添って、苦楽を共に生きているんすから。これも証明の1つです。アタシと──結婚して下さい」


 信音は顔をそのまま近付け──俺にそっと口付けをした。その啄むようなキスは拙く、それでいて柔らかく温かな感触であった。信音の心音が聞こえる程の静けさの中、俺達は愛を交差させた。


「信音……」

「センパイはどうなんですか? アタシとの結婚、イヤですか?」


 信音の本当の思い。しっかりと受け取った。淡白に見えても、瞳は正直だ。信音は心の底から俺を好いてくれている。一瞬でも彼女を本音を疑った俺はなんて愚かなんだ。ありがとうな。それを聞けて、俺の心は晴れたよ。


「まー……貞操は尊重すべきものですからね。センパイが首を振るなら、他の方法を探すか、死を受け入れ──」

「いいぜ、結婚しよう」

「え?」

「ごめんな信音。ただ恋人という段階をすっ飛ばして、結婚と子作りって聞いたから困惑したんだ……俺も、生きる為に仕方なくという感情は、これっぽっちもない! 俺もその……信音の事好きだ。お前との結婚は嫌じゃない。これだけは胸に入れておいてほしい」

「しし、相変わらずぶきっちょっすね。これもお互い様か……ありがとうございますセンパイ。それじゃあ色々準備しにいきますか。さー、これから忙しくなりますよ!」

「まあ、兄さんと従者様が結ばれるなんて……素敵です」


 近くにいたヨウヮルは、祝福の声を上げる。俺と信音は手を繋ぎ、異世界の大地を踏みしめる。まだ……半分も終わっていない異世界での人生。まだまだ時間はある。こんな所で終わっていられない。共に歩んでいくぞ、信音──

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