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移行中  作者: あ
甲斐田 信音編
67/106

#67 ゆうべはおたのしみでした

「どーぞどーぞ上がっちゃって下さい」

「マジかよ……」


 甲斐田に言われるがまま、学生寮の彼女の部屋へと辿り着いてしまった。え……何、平然とついて行ってしまったんだ俺。お泊まりって……女子の部屋だぞ!? 会って間もない後輩の部屋、しかも寮だから狭い部屋! そこで……思春期真っ盛りの男女が一夜を共に過ごせと……!? うおおお何だこの展開は! 大人しく電車乗れば良かった! 落ち着け……落ち着け……俺は玄関口の自販機で買った水を、一気に喉へ流し込む。


「……無言で愉快なムーブして何してるんすか。脳内で葛藤抱いてないで早く入って下さいよ」

「お、お前な……5つ年下つっても、男女が同じ部屋で着替えるような年齢じゃねーし、その……抵抗っていうか、そういう貞操みたいなのって無いのかよ……!」

「……センパイはそういう事しないって分かるから大丈夫っすよ。信頼してるんで」

「な、何を根拠に……」

「そ・れ・に〜」


 甲斐田は背伸びをして俺の耳元へ口を近付け、ボソッと一言告げる。


「センパイとそういうコトになっても、アタシ妊娠出来ませんから」

「ぶふぉあッ!? げっほ、ごっほェ!」


 俺は飲んでいた水を盛大に吹き出す。澄ました顔で、平然と破滅的な発言を囁くんじゃねえ。何を考えてるんだこの非合法ロリは!


「も〜、冗談っすよセンパイ。真に受けないで下さい真に。狭いっすけど、寝るスペースくらいはあるんで、遠慮せずどーぞ」

「…………」


 油断ならねえなこの団子。しかし、こうも簡単に女子の部屋に入っていいものなのか……しかも泊まりって……こんなん他の人に見られたら、俺は確実に渾名がロリコンになってしまう。部屋の前で立ち往生するのもあれだ……く、腹括るか……甲斐田を妹か何かだと思えばいいい。そうだ、コイツは5歳下のこまっしゃくれた生意気な妹だ。胸の高鳴りを抑える為に、俺は自らにそう暗示した。


「お邪魔します……」

「色々コードがあるんで、踏んで怪我しない様に気を付けて下さいね〜」


 甲斐田は部屋の明かりを付けながら、部屋に散乱する機械類を跨いで奥へと移動する。足の踏み場も無いくらいコードと、何かの精密機械が床に散らばっている。壁には黒い壁のようなコンピューターが敷き詰められており、ただでさえ狭い寮の部屋が更に窮屈なものになってる。女の子っていうか……人間が住む部屋に見えないんだけど。最初に出た精一杯の遠回しの言葉は──


「……サーバールーム?」


 うむ。多分擁護になってない。彼女は散らばったコードを束ねがら、口角を上げてうへへと卑屈そうに笑う。


「まー……女子部屋とは程遠い部屋っすよね……ここ2人部屋だったんすけど、備え付けのベッドも撤去したアタシ専用の部屋なんすよ。理事長が特別に作ってくれてね〜」

「そうなのか……これ、全部ゲーム用の機械なのか?」

「そっすよ〜。一部私的に使ってる物もありますけど、ほぼ全て開発専用の機器です。クラウドに預けられないデータも、ここで保存してるって感じですね」

「そうか……マジでお前ってゲーム好きなんだな」

「うへへ。まあ……アタシの元いた環境じゃ、こんなゲームなんか無かったですから。あ、アタシ先にシャワー浴びてきマスね」


 甲斐田はそそくさと着替えを持って、部屋に設置されているシャワールームへと入って行ってしまう。普通に人影のシルエットが壁越しに見えて恥ずかしい。俺は目を反らしつつ、部屋中に置かれた機械類に目を向ける。その中に、一際目立つ白く塗装された箱を見つけた。


「なんだこれ……」


 中には肌色に塗られたゴム製の皮と、人の手の様な形をした、機械仕掛けのガントレットが入っていた。俺は、それをなんとなく手にとって感触を確かめる。機械の手は淡く発光しており、よく見ると無数の部品が組合わさって出来た、とても精巧な品なのが伺える。映画で見るようなロボットの腕の様だった。箱にはネジなどの工具品も入っている……まさか自作なのか?


「機械工学も精通してんのかよアイツ……とんでもねえな」

「どうしたんすか? 下着でも探してるんですか?」

「うぉわ!?」


 振り返ると、タオルを身体に巻いたホカホカの甲斐田の姿が。彼女は1分と経たずシャワーから出てきていた。っていうか着替えてほしい。少女のバスローブ姿は目に毒だ。


「あー……それはですね」


 甲斐田は機械の腕を俺からそっと取り上げたかと思えば、徐に自らの腕を反対側の腕で強く掴む。すると──彼女の腕がガチャンという音と共に肩から外れた。


「え!?」

「んしょっと」


 自らの腕を地面へ放り投げる。機械の腕を少し弄ってそれを肩に宛がうと、機械の腕からシュルシュルと、ナノマシンのような細かな鉄の触手が伸びて、甲斐田の腕に纏わり付く。


「メンテしてないけど……まいっか」


 甲斐田はそれを腕に馴染ませ肩を大きく回すと、箱から先程の肌色の皮を上から被せる。機械仕掛けの腕は、甲斐田の腕と完璧に同化した。あまりにも衝撃の映像に、俺は言葉が出なかった。


「……義手なんすよアタシ。手っていうか、四肢全部そうなんすけどね」

「……」

「そんな辛気くさい顔しないで下さいよ〜、アタシはアタシでこれ気に入ってマスからね。だってカッコいいでしょ? 一度、人間の部位を作りたかったんすよ〜」


 機械で出来た自らの腕に、恍惚とした表情で頬擦りする甲斐田。義肢も自主製作なんだろうか……? 人間ってここまでオールジャンルいける生物だったっけ? 脳の作りが別種だろもう。


「はあ……ゲームやAI開発に機械工学かよ……止まらねえなあオイ」

「アタシの夢は、完全な一体のアンドロイドを作る事っす! 実験がてらセンパイも試してみません? 最近開発した機械の性器っていうのがあってですね……これが完成すればロボットでも子供が──」

「アホかお前は!? 俺は正常だし、まだ人間やめたくねえよ……やめろ! じっとりと俺を睨むなァ!」


 ペンチを構えながら、じっと俺の股間をヨダレを垂らしながら眺める甲斐田。俺は狭い室内で必死に逃げ回るのだった。


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