#63 天才ゲーミング団子
「え、爆弾ってそんな使い方あるの? 攻撃手段じゃないのかよ」
「いっすかセンパイ、リモコンバクダンってのは……移動手段なんですよ。おりゃ」
「うわ! すげえ勢いで吹っ飛んだ! どういう原理なんだこれ……」
目の前にいる少女の、ゲームテクニックに見惚れる俺の名前は佐藤佑樹。華のセブンティーンだ。今年に転校してきたばかりのスーパー高校生さ!
そんな俺は、ゲーム部の一室で、たった1人のゲーム部の部員である後輩の子……甲斐田信音とゲームをしていた。結局なすがままままに入部してしまったわけだが……ただひたすらにまったりとゲームをする。こういう部活も悪くないのかもしれないな。いや、部活なのかこれ。
「さーってと。センパイは今日から正式に部員になったワケですけど……理事長の息子である貴方には、真実をお話しなきゃですね……」
甲斐田は、お団子頭に飾られたアクセをチャリンっと鳴らしながら、意味ありげに頷いて見せる。真実? ていうか、俺と理事長が親子なの知ってたのか。
「このゲーム部、メインの活動は便宜上ゲームをするだけって言ってますが……本当の目的があるんすよ。それがこれです」
彼女は一つのゲームソフトを俺の前に突き出す。これは……テイルズオーバーキングダムインオンラインXI! 略してトキ……いや、やめておくか。
「そのハンターのゲームが、メインでプレイするやつって事なのか?」
「いや、ハンハンはセンパイが勝手に言っただけっすから……プレイってのは少し違いますね。ちょっとこっち来て下さい」
彼女はそう言うと、奥にある立ち入り禁止だった部屋に俺を招く。
ドアを開けると、中は人が1人入れるくらいのとても狭い空間だった。彼女がドアノブに手をかざすと、ガコンピピーと、突然電子音と共に部屋が大きく揺れる。するとなんと部屋がエレベーターの如く下降し始めたではないか。
しばらくして揺れが収まると、反対側のドアが縦に開き、光がパッと、奥へと続く部屋全体を照らす。白い無機質な部屋に、無作為に置かれた夥しい数のケーブルと黒いPC機械類。さながら宇宙基地。おいおい………MIBも腰抜かすぜこりゃ。甲斐田は、奥へカツカツと靴を鳴らしながら、俺を先導し通路を進む。
「ここは光宙高校三大地下施設の一つ……特別電脳室です。この一際デカイ機械が部屋のメイン、仮想現実転移システム……デウス=オブタニオ。神の台所って意味ですよ」
仮想現実……転移システム……? 聞いたことのない言葉だが、なんとなく意味は感じ取れた。甲斐田は得意気に胸を反らし、人差し指を天井に向けながら俺に説明する。
「フッフッフ。センパイが大好きな、ゲーム内へ入るゲームってヤツですよ。ま、これに関しては58億以上の開発費を要してますがね」
「ゲームへ入る? え、この機械で? そんなもの作れるもんなの……?」
「まだ制作途中ですけどね。アタシ1人でこのゲームを作ったはいいけど、肝心な精神転移がねえ……設計図は出来てるんすけど、JKが払える開発費じゃないんすよ。んで、アタシが作ってるのを知った理事長が、この学校へ転入を進めてくれて場所と開発費を設けてくれたんです。いやー、いい人っすねえ〜」
さらっととんでもないこと言ったぞ今。このゲームを1人で作った!? 普通に世に売り出されているようなオンラインゲームと変わらないこのクオリティで?
「オンラインゲームって1人で作れるものなの……?」
「既存の開発エンジンやスクリプトじゃ無理っすねえ。アタシが作ったゲームエンジン"宙舟"と、それを動かすスクリプト言語"Azalea"があれば可能です。AIに命令すれば、開発、デバッグ、問い合わせ対応……と、勝手に運営してくれますからね。
デザインやゲームシステム、音楽とかUI諸々も、アタシの脳細胞と管理AIをリンクさせる事によって、全て自動で組み上げてくれます。アタシの理想通りにね。まーデザインとか、ちょっとは齟齬があったりするんで、そこは後々書き換えるって感じなんですが」
「この、制作会社、宙舟プロジェクトってのは……」
「光宙が作る方舟──それで宙舟です。名目の社長は理事長ですが、本当はアタシが代表です。アタシとAIしかいない零細企業なんすけどね」
「………」
言葉を失うとはまさにこの事だ。言っている意味がわからん。女子高校生が1人で……オンラインゲーム運営だと? それを運営するというAIも、彼女が作り上げたという。規格外の天才少女あらわる。人間の常軌を逸してる気がする……脳の作りどうなってんだ?
「んで、センパイにゃこのゲームの制作を手伝ってほしいんすよ」
彼女は軽い口調でヒラヒラと手を振って見せる。なに言ってんだこの団子は。俺は全力で首を横に振る。
「へ? いや……いやいやいや。俺、開発知識ゼロだぞ? 足手まといにしかならない気が……」
「ああ、センパイとアタシは別に開発はしないっすよ。言ったじゃないすか、AIが勝手にやってくれるって。やるのは……精神転移装置のデバッグ作業! このカプセルに入って仮想世界へ入る──そう、ただゲームするだけです。前にいったように、センパイとは一緒にゲームしたいだけですっ♪」
両手を後ろで組んでもじもじする甲斐田。残念だが俺に上目遣いは通用しない。まあ、彼女がやりたい事はとどのつまり──
「人体実験って事か」
「う、あえて可愛く言ったのに……人聞き悪いっすよ! テストって言ってくださいテストって!」
「でもさ。このゲーム既にもう、何万もの人が既に遊んでるんだろ? この人達に続いて仮想現実に入るって事か?」
「いんや。既存ユーザーは画面の前でコントローラー握ってますよ。入るのはアタシ達だけです。まあ分かりやすく言うと、アタシ達だけ特別に、超リアルなVRでゲームできるって事です」
「本当にゲームへ入るのか……G.IっていうよりSA──」
「まあ、百聞は一見にしかず! 実際ちょっとやってみましょ」
「ちょ、え? そんな急に……いでででで、押すな! 押すなって!」
俺は無理やり筒状のカプセルへ押し込まれる。入るや否や、謎の機械触手が壁から伸びてきて、俺の身体中にくっつき、固定される。しっかりと触手が身体全体に絡み付き、俺は宙に浮く。視界は触手に遮られ、耳の中にも触手が侵入し、聴覚も奪われる。手足や頭は自由に動かせるな……真っ暗な深海にいるような妙な感覚だ。
すると、触手越しにキュイイインという電子音が耳に響き、突然頭が締め付けられる。こ、こええ……なんだよこの感覚。脳と身体が四方に引っ張られるような不思議な感じ。痛みはないが、俺の身体がバラバラになって消えていくような……嫌なものだった。
「う、うおおおぉ〜!」




