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移行中  作者: あ
上杉 麻冬編
59/106

#59 最恐の肝試し

「──以上で館内の査察を終わります。生徒会各位、ご苦労だった。そして、従業員の皆様。夜分遅くまでお疲れ様でした。休館日に時間を割いて頂きありがとうございます。来月の修学旅行の際もよろしくお願い致します」


 広い畳の食堂。俺達生徒会と従業員の人達は、向かい合ってお辞儀をする。仲居さんらを交えての旅館査察は無事に終了した。上杉は見事に場を仕切って、会議を円滑に進める事が出来た。やはり、手際良く仕事をこなしている姿は何度みても同級生とは思えない。改めて素直に感心する。あと……仕事の時と普段の時の2つの姿を見てるせいか、そのギャップが刺さる。上杉を眺めていたその時だった。


「ん……? なんだ、鐘の音?」


 ゴォーン……ゴォーン……と館内に低く重い音が響き渡る。放送じゃない。遠くから聞こえてくるが……明らかに従業員達の顔が曇っていた。


「もうマガワレ様の刻ですね……」


 仲居さんの1人がそんな事をポツリと漏らす。聞き慣れたい言葉に俺達は首を捻る。


「マガワレ……様?」

「ああ、すみません。マガワレ様というのは……この地方に遥か古代より眠るモノの名前です。うつし世に破滅と呪詛をもたらすと、この地で大昔から言い伝えられているんです。この地域の人間が毎年代わり代わり儀式をして魂を鎮めているんです。今年は我々が行う12年に一度の日なのですが……」


 仲居さんは困ったように額に手を当ててしまう。マガワレ様……悪神を奉って清めているんだろうか。いかにも京都らしい古い伝承だ。


「どうかしたんですか?」

「実は……この儀式は巫女役と勇士役の男女で行うもので、丑三つ時に比霊山(ひれいざん)という名の聖山に登ってお清めを行うんです。ですが、昔から勇士役をやっていた老年の板長が腰を悪くして入院をしてしまい、儀式が出来なく困ってるんです。何分、男手が少ない旅館ですから……」


 まあ、旅館は女性が多い職場だからな……今までやっていたベテランの人が入院してたら、困るのは当然だ。代打の男手が必要だろうな…………うん、なんだか自分で言っててすごく嫌な予感がする。上杉がすかさず仲居さんに話しかける。


「あの……儀式というのは他者でも請け負う事は可能でしょうか? 男手が必要でしたら我々が手を貸しますよ」


 俺と直江の眉が一瞬ピクつく。丑三つ時に……ヤバい悪神が眠る山に……うん。別に怖いって訳じゃないんだけど、やっぱその、神聖な儀式を部外者が汚すっていうのは──


「え、ええ。儀式と言っても、札と捧げ物を置いてくるという形式上なものでして、肝試し感覚の観光イベント目的で売りに出してる場所もありますからね。出来るには出来ますが……」

「ならば我々が請け負いましょう。お世話になったお礼とまではいきませんが、是非」

「あらまあ……いいのですか? では、折角なのでお言葉に甘えて──」


 なんてことだ……結局こうなってしまうのか。俺の京都旅は気の休まる暇が無い。

 俺達は仲居さんに連れられ、旅館裏手にある山の麓へと足を運ぶ。伏贄山もそうだったが、夜の山は何度来ても慣れない。独特な雰囲気があるよな……奥へと続く闇を見ていると、吸い込まれそうだ。提灯を持った仲居さんが俺達の説明してくれる。


「マガワレ様の儀式は2人の男女が山に登り、頂上付近にある祭壇に、御札と清めの贈物が入った木箱を捧げる儀式です。

 まず、マガワレ様について説明を──と、いきたいのですが、実はマガワレ様については何も伝承されていないのです。ただ"依り代を奉り、魂を鎮めよ"とだけ昔から言い伝えられているのです。大昔に破滅と呪詛をもたらした存在としか分からず、詳しい事は何も……とうの昔に言い伝えが途絶えたのか、はたまた後世に伝えず秘匿とするほどの禁忌なのか……全てが謎の存在なのです。

 この比霊山の他にも、マガワレ様を沈める聖山は各地に存在していると聞いています。確か、皆様の通っていらっしゃる光宙高校に、そう遠くない場所にある山がそうであった気が……」


 全てが謎の悪神…………仲居さん、ちょっとその話は寸前に聞かせるもんじゃないぜ……ハッキリ悪霊とか言ってくれた方がまだマシだった。なんだよ禁忌って……! 嫌な恐怖心がせりあがってくる。


「よぉし……そんじゃ、行くヤツをくじ引きで決めるか」


 三好が突然割り箸を取り出したかと思えば、俺達に向けてそれを差し出す。て、てめぇ……用意周到な準備しやがって!


「よう仲居さんよ。この儀式に回数制限はあるのか?」

「え……? い、いえ、必ず一度は行うものですが、儀式そのものは複数回行っても弊害はありませんよ」

「よっしゃ! んじゃ、男女2グループの肝試し大会と行こうじゃないか! 俺は肝試しにゃならんから省くとして……佐藤、直江、宇佐美、麻冬で2人1組を作るぞ。よし、くじを引けオマエら!」

「な、ふざけるな貴様……! 神聖な儀式をき、肝試しなど……!」

「そ、そうですよ! 私共はともかく……お、お嬢様まで巻き込まないで下さい!」


 三好の提案に、直江と宇佐美が詰め寄る。が、一度スイッチが入った不良の悪ノリは絶対に止まらない。クソ……めちゃくちゃ嫌だ。でも女子の手前、あまり情けない言葉は口に出来ない。俺が先にと、三好の右手に握られた2本の割り箸に手をかけて引こうとした時だった。


「面白そうじゃないか」


 同時に上杉が三好の左手にある、もう片方のくじを引く。俺と上杉が引いた割り箸の先には──同じ赤い色で塗られていた。


「お、麻冬と佐藤がペアだな。んじゃ残りの直江と宇佐美がペアって事で」

「な……!」


 俺と上杉か……まあ、宇佐美じゃ気まずいだけだし助かったが。直江と宇佐美の鋭い視線を感じるが……無視を決め込む。


「さ、佐藤と……」

「ん〜? どうした麻冬ゥ、心なしか表情が綻んでるぜ?」

「そそ、そ……そんな事はないっ、そうと決まれば迅速かつ丁寧に済ませようじゃないか」

「そうそう、ぱーっと行ってこいよ。案外楽しいかもしれねーぜ」

「では、宜しくお願い致します。どうか、お気をつけて」


 上杉は仲居さんから札と木箱を受け取ると、俺の横に並ぶ。くそ……腹括るか……マジでおっかねえ……けど、あんま格好悪いとこを見せる訳にゃイカン。平常心、平常心……俺と上杉は僅かな明かりを頼りに、暗い山道を進むのであった。


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