#56 京都の雪景色
秋が過ぎ去り、寒波が押し寄せる冬の始め。俺達は京都へと赴いていた。千年の都が雪化粧をして俺達を迎える。
江戸時代の人々は冬になると、酒を片手に銀景色を堪能する、雪見の習慣があったそうな。歴史ある木造建築が白く輝いている。歌人達が俳句を詠むのも分かる気がするな……四季折々の景色が見られるのも、京都の良いところだ。
なんと美しく風流なものだろう。かつての人々と同じ景色を見てたのだと思うと、感慨深いものがある。今回の旅は、実に雅で心落ち着くものになりそうだ。
「さて、どうするかな……」
上杉と宇佐美は自家用車で来るらしく、少し遅れるとの事。俺と直江と三好の3人は同じ新幹線で来た。父さんに新幹線を"一本"貸し切ってやろうかと言われたが丁重にお断りした。直江は一人で宿に直行してしまうし……三好のヤツどこいったんだろうか。
「よう、佐藤何やってるんだ?」
三好は、番傘を差しながら、豪華な鞍を携えた馬に乗ってやって来た。お前が何やってんだよ。
「み、三好……おま、なんだよその馬! 本物かよ! こわ、ばかデッカイ!」
「んあ〜、ちょっとそこらへんで拝借したんだ。名前は……そうだな……よし、"馬刺丸"と名付けよう」
「メチャクチャだな……そういや上杉達は?」
「ああ。麻冬は直接宿に行くって言ってたぜ。駐車できる場所がねーんだと……俺達も行くか」
三好は「乗れよ」と、俺を馬の後ろに乗っけてパカパカと歩きだす。コイツは王子様か何かなんだろうか。けど、雪が振る京都の景色を、馬に乗りながら見物するのも粋だ。
静かだ……降り行く雪が雑音を消し去り、まるで2人だけしか存在しない静寂の世界。馬の蹄の音が、大きく聞こえる。
「ああ……そういえば佐藤オマエさ」
「ん?」
「カノジョ探してんのか?」
「はぁ!?!?」
「うわっ、ちょ、暴れんなって!」
驚きのあまり馬上で仰け反ってしまう。反動で落馬しそうになったが、三好が手を引っ張って事無きを得た。いや、まてまて! 三好の口からとんでもない言葉が飛び出してきた。驚くなという方が無理だ!
「おま、なんでそれを……!?」
「へっ、ウチの情報網ナメんなよ。そっかぁ……オメー、オンナが欲しいのか……」
三好は含みのある笑みを浮かべると、横顔で俺の顔を覗き見る。
「俺もオマエが欲しいぞ、佐藤」
「へ!?」
「言葉の通りだ。俺だって女だ。恋の一つくらいするよ。お前の敵に立ち向かう勇敢さ、大胆さ。そしてその、芯の強さと秘めたる優しさ。正直言うぞ佐藤──俺はオマエに首ったけなんだ」
「な、な……」
三好の顔が息がかかる程に近付いてくる。その瞳の光はどこか、本能の奥底に眠る妖艶さを孕んでいた。お前が欲しい──誰かと同じセリフを言われたが、今度のは場面が全く違う。突然の告白に、俺は言葉を詰まらせる。
「ああ、別に即断即決する必要は無いぜ。ここで迫ったらただの脅迫になっちまう……オマエにも選択肢はある。それに、勝負は正々堂々とするもんだ。ま、猶予はそんな設けるつもりはないがよ」
「な、なんで今そんな事を──ん、勝負……だと……?」
「やっぱ知らなかったか。麻冬もな……オマエの事が好きなんだよ。いつからかは知らん。俺と出会う前かもしれねえ……急に明かされたんだ。アイツから俺にな」
上杉も……俺の事を……? この幻想的な銀世界の中、俺は夢でも見ているのか? あまりの急展開に頭が真っ白になる。雪だけに。うわ、オモロ。
「けどよ……俺は明かされた時、何も言わずそのまま帰っちまった。俺と麻冬は、もう何人も裂けねえマブダチだ。それは確かな事だ。けど……お互い譲れないっつーもんはどうしても出てくるんだな。麻冬が欲しいモンは何でも差し出すつもりだったけどよ。オマエを渡してしまうのは……ちと惜しくなっちまった」
「三好……」
「証明ってワケじゃねーがよ……その……好きだぜ、佐藤──」
「あ──っ」
──三好は俺の顔に迫ると、唇を俺の頬へ近付け──そっと口づけをする。番傘の中、人々の視線が遮断された2人だけの空間。一瞬、時が止まったかのように思えた。キスを……されてしまった……俺はその事実に、みるみる内に心臓の鼓動を早め、顔を熱くしてしまう。
三好は頬をポリポリと掻くと、恥ずかしそうに苦笑いを浮かべる。気温が低いせいか、三好の紅潮した頬がより目立つ。
「前に言ったろ? 欲しいモンは逃がしたくないんだよ、俺は」
「三好……」
正直……俺は三好をそんな風に意識した事は、今まで一度もなかった。頼れる兄貴分みたいな立ち位置だった……けど、好きと言われ、頬に口づけされ……俺の中の三好という人間が、一瞬で"異性"という関係に形を変えた。
「けど、俺だって悪魔じゃねえさ。こういうのは、その……ちゃあんと暗黙のルールがあるんだよな……卑怯な手は使わん。正々堂々、この旅で俺はオマエを振り向かせる。それでも、オマエが俺じゃなく麻冬を選んだとしても何も言わねえよ。麻冬もそのつもりでこの旅に来ただろうし、アプローチはしてくるはずだ。ま、適度な覚悟をしといてくれよ」
三好はそれだけを背中で告げると、宿へ向けて馬を走らせる。俺は揺られながら、耐え難い葛藤に悩まされていた……うおぉぉ……どうすればいいんだああぁ〜……!




