表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
移行中  作者: あ
上杉 麻冬編
56/106

#56 京都の雪景色

 秋が過ぎ去り、寒波が押し寄せる冬の始め。俺達は京都へと赴いていた。千年の都が雪化粧をして俺達を迎える。

 江戸時代の人々は冬になると、酒を片手に銀景色を堪能する、雪見の習慣があったそうな。歴史ある木造建築が白く輝いている。歌人達が俳句を詠むのも分かる気がするな……四季折々の景色が見られるのも、京都の良いところだ。

 なんと美しく風流なものだろう。かつての人々と同じ景色を見てたのだと思うと、感慨深いものがある。今回の旅は、実に雅で心落ち着くものになりそうだ。


「さて、どうするかな……」


 上杉と宇佐美は自家用車で来るらしく、少し遅れるとの事。俺と直江と三好の3人は同じ新幹線で来た。父さんに新幹線を"一本"貸し切ってやろうかと言われたが丁重にお断りした。直江は一人で宿に直行してしまうし……三好のヤツどこいったんだろうか。


「よう、佐藤何やってるんだ?」


 三好は、番傘を差しながら、豪華な鞍を携えた馬に乗ってやって来た。お前が何やってんだよ。


「み、三好……おま、なんだよその馬! 本物かよ! こわ、ばかデッカイ!」

「んあ〜、ちょっとそこらへんで拝借したんだ。名前は……そうだな……よし、"馬刺丸"と名付けよう」

「メチャクチャだな……そういや上杉達は?」

「ああ。麻冬は直接宿に行くって言ってたぜ。駐車できる場所がねーんだと……俺達も行くか」


 三好は「乗れよ」と、俺を馬の後ろに乗っけてパカパカと歩きだす。コイツは王子様か何かなんだろうか。けど、雪が振る京都の景色を、馬に乗りながら見物するのも粋だ。

 静かだ……降り行く雪が雑音を消し去り、まるで2人だけしか存在しない静寂の世界。馬の蹄の音が、大きく聞こえる。


「ああ……そういえば佐藤オマエさ」

「ん?」

「カノジョ探してんのか?」

「はぁ!?!?」

「うわっ、ちょ、暴れんなって!」


 驚きのあまり馬上で仰け反ってしまう。反動で落馬しそうになったが、三好が手を引っ張って事無きを得た。いや、まてまて! 三好の口からとんでもない言葉が飛び出してきた。驚くなという方が無理だ!


「おま、なんでそれを……!?」

「へっ、ウチの情報網ナメんなよ。そっかぁ……オメー、オンナが欲しいのか……」


 三好は含みのある笑みを浮かべると、横顔で俺の顔を覗き見る。




「俺もオマエが欲しいぞ、佐藤」




「へ!?」

「言葉の通りだ。俺だって女だ。恋の一つくらいするよ。お前の敵に立ち向かう勇敢さ、大胆さ。そしてその、芯の強さと秘めたる優しさ。正直言うぞ佐藤──俺はオマエに首ったけなんだ」

「な、な……」


 三好の顔が息がかかる程に近付いてくる。その瞳の光はどこか、本能の奥底に眠る妖艶さを孕んでいた。お前が欲しい──誰かと同じセリフを言われたが、今度のは場面が全く違う。突然の告白に、俺は言葉を詰まらせる。


「ああ、別に即断即決する必要は無いぜ。ここで迫ったらただの脅迫になっちまう……オマエにも選択肢はある。それに、勝負は正々堂々とするもんだ。ま、猶予はそんな設けるつもりはないがよ」

「な、なんで今そんな事を──ん、勝負……だと……?」

「やっぱ知らなかったか。麻冬もな……オマエの事が好きなんだよ。いつからかは知らん。俺と出会う前かもしれねえ……急に明かされたんだ。アイツから俺にな」


 上杉も……俺の事を……? この幻想的な銀世界の中、俺は夢でも見ているのか? あまりの急展開に頭が真っ白になる。雪だけに。うわ、オモロ。


「けどよ……俺は明かされた時、何も言わずそのまま帰っちまった。俺と麻冬は、もう何人も裂けねえマブダチだ。それは確かな事だ。けど……お互い譲れないっつーもんはどうしても出てくるんだな。麻冬が欲しいモンは何でも差し出すつもりだったけどよ。オマエを渡してしまうのは……ちと惜しくなっちまった」

「三好……」

「証明ってワケじゃねーがよ……その……好きだぜ、佐藤──」

「あ──っ」


 ──三好は俺の顔に迫ると、唇を俺の頬へ近付け──そっと口づけをする。番傘の中、人々の視線が遮断された2人だけの空間。一瞬、時が止まったかのように思えた。キスを……されてしまった……俺はその事実に、みるみる内に心臓の鼓動を早め、顔を熱くしてしまう。

 三好は頬をポリポリと掻くと、恥ずかしそうに苦笑いを浮かべる。気温が低いせいか、三好の紅潮した頬がより目立つ。


「前に言ったろ? 欲しいモンは逃がしたくないんだよ、俺は」

「三好……」


 正直……俺は三好をそんな風に意識した事は、今まで一度もなかった。頼れる兄貴分みたいな立ち位置だった……けど、好きと言われ、頬に口づけされ……俺の中の三好という人間が、一瞬で"異性"という関係に形を変えた。


「けど、俺だって悪魔じゃねえさ。こういうのは、その……ちゃあんと暗黙のルールがあるんだよな……卑怯な手は使わん。正々堂々、この旅で俺はオマエを振り向かせる。それでも、オマエが俺じゃなく麻冬を選んだとしても何も言わねえよ。麻冬もそのつもりでこの旅に来ただろうし、アプローチはしてくるはずだ。ま、適度な覚悟をしといてくれよ」


 三好はそれだけを背中で告げると、宿へ向けて馬を走らせる。俺は揺られながら、耐え難い葛藤に悩まされていた……うおぉぉ……どうすればいいんだああぁ〜……!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ