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移行中  作者: あ
上杉 麻冬編
53/106

#53 尾羽里・夏の陣④

 俺が竹部を止めたせいで敵の侵入を許してしまい、崖上の籠城作戦は決壊してしまった。そんな絶体絶命の大ピンチに──それは現れた。鬼の形相で棍棒を振りかざす三好。何故コイツがここに……竹部も想定外だったようで、驚きの声を上げる。


「な……七雲……!? なんでここに……? 猿弥はどうしたの?」

「バカ野郎共が……無茶苦茶しやがる。オマエらだけでこの人数を止められる訳ねえだろうが。俺は木柴に頼まれ──いや、一方的に交代させられてな。アイツは俺にこの戦争の事を伝えてどっかいっちまったよ。ぶん殴ろうとしたが、アイツの顔を見たらそんな気も失せちまった──」

「猿弥が……」

「俺に隠れて、勝手に戦争をおっ始めたオマエらの処遇は後にするとして、だ──」


 七雲は棍棒を握りそれを天へと掲げる。その刹那だった──三好の身体が残像を残して視界から消えたかと思うと、激しい衝撃波と共に、棍棒でオカモトを殴り飛ばす。


「俺のダチに手ェ出してんじゃねえェーーッ!!!」

「ごぅふ!?」


 そこは武闘派の不良なだけあって、なんとか金属バットで顔面を守ろうと構えたが──怒りが込められた一撃はその防御を簡単に崩した。金属バットはへし曲がり、オカモトは吐血しながら数メートル飛び、坂の上から転がり落ちる。

 オカモトは気絶し、そのまま地面へ突っ伏した──水黒の進撃を止めた無頼漢は三好の一撃によって沈んだのだ。


「な……オカモトがワンパンかよ!?」

「なんだアイツ……! あれが本物の三好なのか!?」

「ば、化け物だ……」


 不良達は動揺の声を漏らす。やはりこの男は主戦力だったのだろう。戦意はかなり下がったとみた。三好は息を一つ整えると──真横に立っている上杉の方へと向き直る。


「七雲……」

「……久しぶりだな麻冬」

「その……私は……」

「相変わらずめちゃくちゃな奴だな……オマエは」


 かつての親友同士の邂逅。感動の再会とは言ってられない雰囲気なのは確かだ。それらを掻き消すような一つの銃声が鳴る。花火の類いではない。もっと恐ろしいもの──人を殺傷する為だけに存在する兵器。聞き馴染みの無い発砲音はうすら寒さを覚える。


「ンンン〜〜……フィ〜〜〜〜アッッ!!!」


 不良達を掻き分け、狂ったような奇声を上げながらその影は出てくる。顔面に白い化粧をし、その上に赤い口紅を指で塗りたくったような隈取りの男が、銃を片手に俺達の前に現れる。なんだあのイカれた野郎は……。


「出やがったな……今氏戦岳(いまうじせんがく)。アイツが終月を統べる総長だ」

「あの男が……」

「気を付けるんだな。どうせ、元終滅咾衆の奴らもオカモトも、何か"質"があるに違いない。強制的に従わせ、邪魔なモンは周りから消していく……虫酸が走るクズ野郎だ。アイツは不良じゃねえ──ただのイカれた犯罪者だ」


 今氏と呼ばれた男が、キリキリとこちらに首を向け、激しく顔を痙攣させたかと思うと、口を尖らせて恍惚とした表情を見せる。


「三好ィ〜〜ッ、酷い言い様じゃあないのよぉ〜ろろん……大事なモンはさ〜ゎ、持ってる方が悪くなぁひ? あるから壊したくなるんじゃないかぁ〜ぬ? こんな風にねぃ──」


 今氏は何の前触れも無く、その手に握られていた銀色の口をこちらに向ける。





 そして、パァン! と──上杉へ向けて躊躇無く銃のトリガーを引いた。





「え……?」

「か、は……」


 突然の発砲。その凶弾は──三好の身体を貫いた。火薬の臭いが鼻腔を抜ける。三好は上杉に覆い被さるように、血を吐きながら倒れてしまう。頭が追い付かなかった。銃は本物? 三好が撃たれた? 上杉を庇って? なんだこれ……一体何が起こってるんだ……?


「な……七雲ォ!!」


 上杉の悲痛な叫びで我に返る。三好が銃に撃たれた……! クソ、なんだよこれ! なんで急に撃ってきやがった、何のためらいも無く! 三好が上杉を庇って弾を受けた……弾は三好の腹を貫通していった……三好が……三好が死んでしまう。

 三好の黒い服から血が滲む。俺は身体の痛みを必死に堪え、三好へと駆け寄る。三好は上杉の腕でぐったりと横たわっていた。


「七雲……しっかりしてくれ……七雲……!」


 上杉の涙が頬を濡らし、三好の頬へと滴が零れる。


「泣くんじゃ……ねえよ……相変わらず、泣き虫な……奴だ、な……」

「七雲……! 何で、私を庇った……! 私は……またお前に守られてしまった……ごめん……ごめんなさい……うっ、うぅ……」

「分からない……身体が勝手に動いてたんだ……オマエの言葉を聞いたら……自然と、な……」


 三好は辛そうに呼吸しながら、震える手で上杉の顔へ手を伸ばす。上杉はそれを、もう片方の手で優しく受けとると、自分の頬へとあてがう。


「嬉しかったんだ……俺の事を……まだ"親友"って言ってくれたのが……さ…………俺は……まだ、オマエの中にいたってのが知れて……良かった…………ごめんな……前から……こうして、話せば良かったのによ……」

「何を言ってるんだ……っ! それは私の台詞だ……恩を返せず、生徒会を口実にお前と向き合わず、お前を距離を置いてしまった……私は最低だ……七雲……すまない……」

「へっ……オマエは昔から、気ィ遣いすぎだ……んな事、気にしてんなよ…………けど、ゴメンな……オマエがそんな事を思ってるとは知らずに…………俺も関わらないようにしてた……不良と生徒会が一緒にいちゃいけねえってさ……でも……本当は……もっと遊びたかったのかもな……」

「七雲……なっちゃん…………頼む……頼むから……いかないでくれ……」



「ハハ……時間なんてもんは……関係無かったんだ……なんて事はねえ……俺達は──今も"ダチ"だったんだな……」




「ありがとな……」




「ふゆッチ………………」




 三好の腕がスルリと上杉の手から滑り落ちる。頭の中が一瞬で真っ白になった。

 なんで……なんでこんな……ようやく……ようやく分かり合えた親友同士だったのに……なんで……ッ!


「七……雲……?」


 俺は上杉の方を向けなかった。俯き、地面の土を鷲掴みにする。己の無力さを悟る。俺は何も出来なかった。そう項垂れていた俺だったが、俺は上杉の一言でハッと目を醒ます事に──






「……? 七雲──まだ息がある……!!」






「何……!?」

「……! 会長さん、直ぐにこの山を下って! 僕らの後ろをずっと真っ直ぐ行けば大きな病院がある! 早くッ!!」


 竹部が倒れながらも必死に訴える。上杉は力強く頷くと、三好を抱えて全速力で後ろの奥へと走って行く。三好……! よかった……まだ死んでない。けど、上杉1人で平気だろうか。不安そうな表情を浮かべる俺に、竹部は首を横に振る。


「大丈夫だよ。今の会長さんは……きっと世界一強い」

「……ああ、そうだな」



「おろろぉ〜ぅ? 三好死んでねえぢゃん……おかひいの〜ぉ?」



 崖下から今氏の声が聞こえてくる。竹部と俺は震える足を腕で押さえながら、ゆっくりと立ち上がり崖の縁へと立つ。


「……ヤンキーじゃねえけどよ……これが燃えてくるってやつだよな……今なら誰にも負ける気がしねえ……死んでも倒れねえぞ俺は……」

「フフ……奇遇だね。僕もさ……こんなにも魂が震える戦争は久しぶりだよ……さて……喧嘩素人の2人でどこまで行けるか──」


 その時だった──ブヴォン! という、激しいバイクの駆動音が山中に響き渡る。下からだ……不良達は一斉に背後の麓へと振り返る。遠くの木陰から、一筋の赤い光がバイクの音と共にこちらへ向かってくる。


「あれは──ッ!」

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