#50 尾羽里・夏の陣①
『おい猿弥っ、見ろよこれ! カッケーだろ!』
『……マサお前、中2でナナハン乗る気か? 身の丈に合う単車にしろよ。アタマだからってカッコつけたってお前はダセーままだよ。足浮いてんじゃねーか』
『うっせ、カッケーんだからいいんだよ……コイツは俺の半身だぜ〜』
『へいへい、そうですか』
『猿弥、もし俺に何かあったらコイツに乗ってくれよ。お前は俺のもう半身なんだからさ!』
『辛気臭ぇ事言うなバカ。てかオメー、それ半身ばっかで本体がいねーじゃねえか』
『あ、ホントだわ。俺自身が行方不明! だっはっはっは……ま、そんときは頼むぜ、相棒!』
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「オイ、行くぞテメーら」
霧が深く包み込み、視界の効かない早朝の伏贄山山頂。世の逸脱者、社会の反逆児──世間への怒りを体現したような風体をした数百の集団。一際巨体な男を先頭に何かを待ち構えていた。
「ホントにくるのかよ、ドクロの奴らはよ」
「さあな。けどあんだけ啖呵切った紙切れを置いてきやがったんだ。来なかったら歴史に乗るチキン野郎共だな」
「"伏贄山頂で待つ──ドクロ組総長 三好七雲"か……噂によれば、コイツ女らしいぜ」
「マジかよ、ヤル気出てきたぜ〜! 動けなくなるまでぶん殴ってよ〜、とっ捕まえてマワそうぜ!」
「やめとけや〜、どうせ筋肉モリモリのゴリラみてぇなブス女に決まってるだろ」
その時だった。とてつもない爆音と共に、辺りの霧が一斉に晴れる。キー……ンという耳鳴りが響く。男達は一斉に音のする方角、山の山頂の……そのさらに崖上を見上げる。
「アイツは……」
一際目立つピンクの髪色の、マスクをした制服姿の人影。左右には巨漢の男と白髪の少年らしき人物が、男達を見下ろしていた。
「へっ、大層なご登場だな……テメーが三好七雲かァッ!」
リーダー格の男が怒鳴り、崖上の人影に向かって金属バットを突き付ける。
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「そうだッ! 私が三好七雲だ! 我らが敷地を踏まんとし、剰え、民草の安寧を脅かそうと狼藉を振りかざす無法千万の簒奪者よ──この私が相手だ! 寄らば我が鉄槌を下そうぞ!!」
「な、なんだって……?」
「やべえ……意味一つもわかんねえ……」
「サンダッシャ……ってなんだあ?」
「さあ……サンタさんが乗ってる車の事じゃね?」
横にいた三好──否、変装した上杉が模造刀を天へと突き上げる。どう見てもやりすぎだ。口上がご立派すぎるぞオイ。不良達引いてんじゃねえか! 上杉の横に並んでいた竹部……そして、竹部が呼んだ水黒という男が同時に項垂れる。
「あはは……ノリノリだねえ会長さん。なんか緊張が一気に解けちゃったよ……」
「戦争するっつって聞いて駆け付ければ……大丈夫なのか? 七雲の野郎も、本隊もいねえんだぞ! 300人の不良全部を敵に回すってのか!?」
「クロベー、怖いの?」
「嬉しいんだよ……命じてくれシロベー……今すぐ!!」
「あ、クロベーはまだ後方待機ね」
「うおおおぉぉーーッ!!!」
水黒が雄叫びを上げ、崖上から終月の集団へ向かってダイブする。竹部の言葉は全く届いてなかった。
「ちょ、アイツ突撃して行ったぞ! 大丈夫なのかよ!?」
「問題無いよ。クロベーは絶対に命令に従わないからね、想定通りさ。よし、作戦を進めよう。久しぶりの大戦だ……気合い入れるよ」
竹部は立ち上がり、ニヤリと笑みを浮かべる。俺も頷き、手筈通りに動き始める。まずは……これだったな。俺は近くに置いておいた酒ビン入りのビールケースを持ち上げる。
「オォォー! 大将狙えぇー!」
「覚悟しろや三好ィーー!!!」
男達の殺気がこもった声が近付いてくる。俺は竹部にアイコンタクトを送ると、ビールケースを──坂道へとぶん投げる。
「うお!? なんだこれ……くせえ、酒か!?」
一方通行の坂道を駆け登ってくる不良達は足を止める。大量の漏れた酒が、まるで水流のように流れ込んでいく。
「この坂はここからしか上れない……そして、この酒、不色のアルコール度数は非常に高く……火を付ければ……」
竹部は凶悪な顔で、足が濡れた不良達に向けてライターを見せ付ける。色々と男達察したのか、逃げるのもやめて泣きそうな顔を浮かべる。
「う、嘘だろ……?」
「ほい」
「うおおおぉわああああぁぁーー!?」
「燃えた、燃えた! ちょ、ま、あっづ!!!」
「ぐおおお!! 俺の靴があああぁ!!!」
川のように流れる酒に、竹部が投げたライターに投じられ、一瞬にして火の海になった。男達はその場で地団駄を踏んで火を鎮火しようと必死になる。が、その行為によってアルコールで足を滑らせ、先頭の男1人が転げ落ちたのを契機に、ドミノ倒しのように転がり落ちてしまう。
ええぇ!? 俺は足止めの為に流すってだけだったんだけど!? 何フツーに着火してやがんの!?
「あーっはっは! すごいよ、すごい! 炎のタップダンスだ、情熱的だね!」
竹部は腹を抱えて笑っていた。悪魔かコイツ……そういえば、コイツも歯止めの効かねえクソヤバなヤンキーだったのを忘れていた。ああ……上杉からもらった酒が……こんな事に……これじゃどっちが悪者か分かったもんじゃない。俺はおそるおそる上杉の方を見る。
「……う、うん……正当防衛……」
「許容範囲!?」
「まだまだだよ。ほら、崖下を見てごらん」
「うお!?」
竹部の指の先、下の森では壮絶な光景が広がっていた。




