#49 終月
木柴が先導して暗い、暗い、山の入り口に入っていく。
雰囲気があるな……山道に点在する苔の生えた石柱には、古ぼけたしめ縄が巻かれており、辺りは寒気がするような異様な気配に包まれている。霊的なものが極端に苦手という訳ではないのだが、この山の雰囲気は別格だ。本能的に避けたくなる……今は複数人だから平気だけど、1人で行くのは絶対に無理だろう。
恐怖心を紛らわす為に色々と考え事をしていた時に、ふと思い出す。そういえば父さんは……結婚相手を探せって言ってたよな。すっかり忘れていた。恋人、か……作れと言われても難しいもんだよな。俺ってば受け身なタイプだし……。
「ん、どうしたの佐藤。段々歩みが遅くなってるけど……もしかして怖いの〜?」
いつの間にか竹部が並行して歩いていた。竹部は指先を顎に当てて、生ぬるい目線で俺の顔を覗き込む。
「……お前だけは無いな」
「へ? なんの話?」
「なんでもねっす」
そもそも、俺は何故生徒会に入ったんだろうか。自然と成り行きで入ったから考えたこともないが……何かに惹かれたとでも言うのか──
「オイ、着いたぜ」
木柴が小声で俺達に合図を送る。俺は姿勢を下げて隠密の体勢へ入る。そうだな……今はそんな事考えてる場合じゃない。色事は我が校の危機を回避した後でじっくり考えるとしよう。
「──ッ!」
僅かなスマホの明かりを頼りに、俺達は木陰から集団を覗く。黒い装束を身に纏ったおびただしい数の無法者共。目をギラつかせ、大降りなしぐさで他者を威圧する。ドクロ組とは全く異なる不良だ。これが本来の姿なのかもしれないが……こんな奴らが光宙に雪崩れ込んでくるのか。想像しただけで身震いする……恐ろしい。
「猿弥……あれ……」
「ああ……見えてるよ──終滅咾衆の奴らだ」
木柴が唇を噛み締める。その視線の先には雰囲気の違う数人の男達が固まっていた。終滅咾衆……木柴達のかつての仲間達だろうか。
「改めて見るとすんごい数だね〜」
「アイツらを全員倒すのか……」
「いや〜全滅は無理じゃないかなあ。全員倒さなくても、半数──いや、それ以上の数を倒せば普通は逃げると思うよ。ま……それが出来れば、の話なんだけどね。あーあ、猿弥が金髪に変身して全員エネルギー砲で吹っ飛ばせば全て片付くのにな〜」
「それちげー猿だろっ、今突撃したら流石に死ぬわ……やれて50人だっつーの。ていうか、今回は穏便に済ましたいんだよ」
「いやいやいや……」
こんな奴らを……追い返すのか……見てるだけで震えるような野蛮な男達。だが、なんとしてでも止めないと学校が危ない。引くわけにはいかないのだ。
「あの集団をどうすべきか。考える必要があるね……」
俺達は首を傾げてうーんと唸る。とにかく策を考えなければならない。4人寄ればなんとかの知恵って言うしな……あれ? なんか違う気がする。とにかく、俺は頭で思い付いたものをすらすらと述べていく。
「頭……総長を倒すってのは?」
「……まあ、それがベストなんだろうが近付けないと思うぞ。これだけの人数を統率する総長を倒せば、混乱して乱れるのは確かだろうが……相手もそれを分かっているはずだ。精鋭に囲まれたアタマを一点狙いするのは無謀だな」
木柴が顎に手を当てて冷静に分析する。こういう時の木柴はボケ無しで賢い。ぽっと出の浅略だから仕方ないが、なんか木柴に論破されると酷く落ち込む。続いて上杉が、一つ息を吐いて首を降りながらポツリと漏らす。
「やはり……警察に任せた方がいいと思うんだがな。暴力的な真似は極力避けたい。法で裁いてもらうのが一番だろう」
上杉の言う事が最もだろう。通報して検挙してもらうのが一番確実な方法だろう。だが、果たしてそれで全てが解決するのか……が、2人の反応は微妙なものであった。竹部はひきつった笑顔で口角を上げる。
「いや〜……やめた方がいいねそれは」
「ん、何故だ? 警察組織に頼るのが普通──」
「サツ全部が正義だと思わないこった。ここらのサツは特にな……簡単に汚職を働く汚ねえ組織さ、黒い関わりもあるって噂だ。信用しちゃならん。俺達だけで解決するんだ」
木柴はキッパリとそう言い切る。それは想像してなかったな……警察を頼れないとは。木柴の強い口調は、過去に因縁があったのが感じ取れる。町と関わり深い2人が言うなら確かなんだろう。上杉もそれを感じたのか、「なんてことだ……」と肩を落とす。
「腹括るしかねーか……」
「そうだな……私とて生徒会長としての矜持がある。無為無策のまま蹂躙される気は私も無い。ここは少し奇手でいくか──」
「おお……それで──?」
「なるほど──」
「これは──」
上杉の口からスラスラと奸計──策が溢れ出す。俺達はただただ感嘆の声を漏らすだけであった。そして木柴と竹部の策が追加され、作戦は徐々に仕上がっていく。その見事な展開に不謹慎だが……俺はゾクゾクする程心の中で歓喜していた。上杉は三好の側にいたからかな、不良の素質あるんじゃないか……?
「──こう、まとめると……随分荒削りで稚拙な物になってしまったな……混沌としている」
「いーや、完璧だよ。うーん久しぶりに血湧き肉躍る感じだよ。なんだか勝てそうな気がしてきたっ」
「ああ。コイツならもしかすると……もしかするかもな」
「ん、どうしたの猿弥?」
木柴の表情が突然険しいものになった。視線の先──終月の方を見ると、元終滅咾衆の男達が終月の男数人に胸ぐらを捕まれ、地面になぎ倒されていた。そして……地に倒れた男達を集団で暴行し始める。蹴られている男達は抵抗せずに必死で耐えていた。
やがて収まると、終月のリーダー格の男が男達の髪を引っ張り上げ、何か強い口調で言葉を発すると、そのままの体勢で再び地べたへと身体を投げる。男達の嘲笑がこちらまで響いてきていた。
「神子田……!」
「酷い事を……」
「お、オイ木柴? どこいくんだっ、作戦は!?」
木柴は俺達に背を向けるとそのまま去ってしまった。その後ろ姿──肩を深く落とし、背中を震わせていた。アイツまさか……! 後を追おうとする俺の肩を竹部が掴む。
「大丈夫だよ佐藤。猿弥はアホだけど能無しじゃない。1人で突っ込んでも勝てないのは分かっているはずさ」
「じゃあアイツどこへ……」
「さあね……でも大丈夫、責務は果たす男だよ。後は猿弥に任せよう。しかしこれで、猿弥の脳内から"容赦"という2文字は消えたようだね。猿夜叉丸が……目覚めてしまったかな──」
竹部はフフンと鼻で笑う。木柴……大丈夫だろうか。
作戦の決行は終月が動く明日の早朝──俺達は終月に見つからない内に、静かに下山した。




