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移行中  作者: あ
上杉 麻冬編
48/106

#48 夏のダンジョー祭り

「やっほ〜、お待たせ2人とも。じゃじゃーん! 浴衣に着替えて来ました〜! どお、どお?」

「あ、歩きにくいな……」


 カラン、コロンと、涼しげな下駄の音と共に竹部と上杉が戻って来た。浴衣だ──竹部は、蝶々が施された水色の浴衣で、上杉は色鮮やかな花をあしらった、上品な赤紫色の浴衣を着ていた。


「おぉ〜、いいんじゃねーのかっ? 会長さんの浴衣いいな……そそるというか、なんかこう心踊るもんがあるな!」

「あ、ああ……似合ってるな」

「か、からかわないでくれっ」

「む〜……2人とも会長に釘付けになって……さ、夏ダン行くよ皆。楽しい祭りが僕達を待ってるよ〜っ」


 竹部は木柴の手を引っ張って、遠景に屋台が見える山の方角へと歩いていく。縁日か……こんな形で楽しむ事になるとは予想だにしなかったが。

 隣を見ると、上杉が数多に垂れ下がる提灯を見上げながら、不安そうな顔を浮かべていた。


「どうした、まだ不安か? 少しくらい楽しんだってバチは当たらないって」

「しかし、作戦の考案を疎かにしては尾羽里に来た意味がだな……」

「なあ上杉。重圧から解放されるいい方法を伝授してやろう。仕事とかそういう面倒な重荷を全部放り投げて、逃げちまうんだよ。全てを投げ出して己を解放する、その瞬間の快感ってすげー気持ちいいんだぜ。や、後から何倍にもなって返ってくるんだけどさ……でも、そういうの大事だと思うぞ。何もかもずっと背負ってちゃ、精神と身体に毒だ」

「う、ん……」

「今は俺達、形式上は学校一の不良だぜ? こうなったらとことんサボっちまおう。一回くらい仕事を忘れようぜ。ほれ、行くぞ」

「あっ……」


 俺は上杉の背中を軽く叩き、後ろ手で「行こう」と合図をする。まだ少し遠慮があるようだったが、その表情はほんの少しだけ……綻んで見えた。



 ────

 ──



「おっ、会長がまた仕留めたぜ!」

「おぉ〜、射的の腕も一流なんだ。すんごいの落としたね」


 祭り囃子が鳴り、夏衣装を纏った人々が集う縁日。俺達は上杉の希望で射的の屋台へと足を運んでいた。上杉の腕は初めてとは思えない程凄まじく、次々と獲物を台から落下させていった。上杉は最後の弾を撃ち終えると、額の汗を拭う。百発百中──上杉は景品を見事に獲得した。店主の男は苦笑いながらも上杉の腕を称え、素直に拍手を送っていた。


「いや〜、参ったよお嬢ちゃん。商売上がったりだぜ。ほれ、これ持ってきな」


 店主は上杉が撃ち落とした景品──二升瓶の日本酒を手渡す。うむ、デカイ。


「ありがとう」

「いや〜すげえなあ! こんな重くてデカイのをよくコルクの弾でよ……すげえぜ会長」

「てか、なんで射的の景品に日本酒があんだよ……世紀末すぎねえ?」

「ていうかフツーに犯罪だよね〜これ。あはは、流石尾羽里のダンジョー祭りだよ。やることが全部めちゃくちゃだ」

「っていうか上杉、なんでそれを狙ったんだ?」

「これか? 実はこれ──ウチのお酒なんだ」


 ウチの、酒……? 首を傾げる俺達に、上杉は瓶を抱えながら薄く微笑む。


「ああ。聞いた事ないか? BISYAMON(ビシャモン)っていうんだが」

「え……それって、もしかしてビシャモンビールの……?」

「ビシャモンビールは傘下の子会社だよ。BISYAMONグループのね」

「…………」


 一同は絶句する。BISYAMONって……日本大手のビールメーカーじゃねえか! 多くの子会社を従え、日本各地に大きな工場を持ち、CMや広告などで目にしない日は無い程の大企業。俺が普段飲んでる炭酸飲料のいくつかだってBISYAMONのロゴが入っている。そこのご令嬢なのか……トップの名前なんて気にした事もなかったが、確か上杉だったような気がする。改めて考えると、上杉ってマジもんのお嬢なんだな……。


「このお酒は『不色(ふしき)』と言ってな……小さな酒屋だった頃、私の先祖が最初に醸造した日本酒なんだ」

「おー知ってるぜ。純米酒らしい香りと甘味があって、飯に良く合うんだよな。俺もわりと好──」

「猿弥っ、お口チャックっ」

「へえ、BISYAMONの最初の酒……思い出の一品ってワケか」

「まあな」


 バン、バン──と破裂音が辺りに響く。上を見上げると、極彩色の花火が頭上を彩っていた。祭りの締めくくりに夏の風物詩が星空に花開く。


「おぉ〜、これを見るのも久しぶりだなあ。た〜まや〜っ」

「キレイ……」


 上杉は目に花火の輝きを写し、ポツリと呟く。花火の光に照らされ、天を仰ぐ上杉はとても神秘的に見えた。なんだかドキッとする程に──美しく。

 俺は綺麗に咲き誇る花に見惚れ、祭りのフィナーレを楽しんだ。


「よし、そろそろ……行くか」


 木柴が拳をパシッと叩く。


「そうだな、帰るか」

「いんや、ちげーよ。俺達が行くのは──あそこだ」


 木柴は遠く指差す。その先には明かりの無い真っ暗な道。


「伏贄山だ。古代から戦いの舞台になってる曰く付きの聖山だよ。俺達はそこで行われるとある集会の情報を入手したんだ」

「お前それってまさか……」


 木柴はコクリと頷き、遠く山の頂上を見据える。


「ああ。今日の深夜──終月の集会がある。そこに潜入するぞ」



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