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移行中  作者: あ
上杉 麻冬編
47/106

#47 あの時のまま

 数週間後──梅雨明け。未だ空に朝露の匂い残る7月の上旬。俺は祝日の連休の予定を明け、光高前の駅のホームで人を待っていた。目的地は尾羽里町。待ち合わせの時間まで10分……少し早く来すぎたかな。

 と、スマホを弄って時間を潰していた数分後、上杉がやって来た。


「すまない。遅れたか?」


 俺の元に早歩きで近付いてくる上杉……袖口に余裕がある白いブラウスに、黒いクロップドパンツ履いていた。ブラウスから透けるタンクトップと、珍しく髪をまとめたサイドポニーテール……普段見ない私服姿に、何かこう込み上げるものがある。暫し時を忘れて見惚れてしまった。


「佐藤? もしかして何か変か? 私の格好……」

「へ……い、いや、んな事ないって! 似合ってる……ぞ!?」

「そうか。ならいいんだが……何故そんな狼狽してるんだ?」

「い、いやぁ……」


 赤く染まってゆく顔を誤魔化す為に向いた方向、木柴と竹部がこちらに向かって来ていたのが見えた。何か木柴が竹部に一方的に訴えかけていた。


「あ、おはよう〜。早いね2人とも〜」

「──だから、なんでお前はそう薄情なんだよっ、別に呼んでもよかっただろ!」

「え〜、クロベーなんているだけで邪魔だよ〜。無愛想だし付き合い悪いし。作戦はまた後日知らせるから大丈夫だって」

「おはよう……なんかあったのか?」

「大丈夫だよ。なーんにも問題なしっ」


 手で大きくバッテンを作る竹部と、頭を抱えてため息をつく木柴。まあいいか……4人が揃った所で、俺達は尾羽里へ向かう為に電車へと乗車する。

 そして2、3駅を通り過ぎると、やがて尾羽里町の駅へと辿り着く。俺は思わず息を飲んだ。


「うはは。相変わらず汚ねえ空気だな。ここは」

「うーん空気がマズイ。あはは、変わらないねえ」

「これはまた……すごい町並みだな……」


 町並みがなんというかこう……世紀末だ。辺り一面荒野だという訳ではなく、むしろそれなりに賑わっている方だと言えよう。が……曇天の空も相成って、町を包み込む不穏な空気はどうしても消えない。

 一泊だけする予定なのだが宿は取っていない。竹部の提案で、宿泊可能な温泉複合施設で一夜を過ごす事に。箱入りのお嬢にそれは酷だと、一度断ろうとしたが、上杉自らが興味があると言い出し、結局その施設で一泊する事が決定した。

 駅を降りたベンチで、女子組がお花摘みへ行っている最中、俺は木柴に気になっていた事を聞く。


「なあ、お前らがいた終滅咾衆って……どんなグループだったんだ?」

「終滅咾衆はな……俺とシロベーと水黒、そして──リーダーの蜂加賀(はちかが)。幼なじみの俺達4人が集まって出来た場所なんだ。何をするにも無茶苦茶で粗暴で……全部が危なっかしくて、毎日生傷を作ってた。色々あったけど、今思い返すと楽しかったな……」

「ふーん……その蜂加賀って人とは、今でも連絡とったりすつのか?」

「……いんや。こっちに来てからは会ってない。そろそろ顔出さないと怒られそうだな……よし、久々に会いに行くか」

「ん……まあいいけど」


 2人が帰って来ると、木柴は先導して町とは反対側の山へと進む。こんな山奥に家があるのだろうか……随分な場所に家があるんだな。低い山の斜面を数分歩いた所で、木柴が「着いたぜ」と立ち止まる。前方に見えたものに俺は言葉を失う。


「よう、久しぶりだな」


 木柴の目の前には──萎れた花が供えられた、小さな墓石があった。

 木柴と竹部の幼なじみ、蜂加賀はこの世を去っていた。かつてのリーダー……幼なじみ。どんな過去があったのかは知らない。だが、他人が安易に踏み込んでいい領域ではないのは確かだ。俺はすぐに頭を下げる。


「ごめん……俺、知らずに……」

「やめろって。しんみりしたのはアイツにも合わねえよ。幸せな最期だったしな……寂しくもない」

「久しぶりだねえハチ。あ、この呼び方怒るんだった。犬じゃねーよってさ」

「うはは。そうだったそうだった。あ、そうだマサ。コイツ今スカートとか履いててよ──」


 木柴と竹部は、墓石の前で談笑する。まるでそこにもう一人いるように……今まで溜まっていた事を報告していた。俺と上杉は、黙ってそれを見届ける。

 傍観していた俺に気付いた木柴は、少し恥ずかしそうに笑うと、墓石をポンポンと叩きながら頬を掻く。


「わりぃ。つい喋りすぎちまった……墓の前でこうやって、よく食べた菓子やジュースなんか置いてよ。当時の事とか現状とか喋れば、その場に蜂加賀がいるような気がしてな。本当はこんな所で眠ってねーし、コイツはぐーすか眠ってるけど……またこうして集まれば、あの時のまんまだよな」

「そうだね〜、ハチは老けないからね。いつまでも中学生の子供で羨ましいったら──いてっ!」


 竹部の頭上から、突然木の枝が降ってくる。竹部は頭をさすりながら頭上を見上げて顔をしかめる。そんな様子に、木柴は吹き出すように手を叩いて大笑いする。


「うははは! シロベーおめー、マサに怒られたんじゃね? 地獄からツッコミが来たぜ!」

「あははは、ひっどいなあ。冗談だよハチ〜」


 2人は声を上げて笑い合う。そんな2人を見て、上杉は思わずポツリと漏らすように呟く。


「美しいな……友情は。こんな関係、憧れるよ」

「ああ、そうだな……」


 凄いな、コイツらは。なんて強かなんだろうか。心からそう思う。大切な人──一番身近にいた人物と死しても尚、こうして語り合える。

 俺には多分……無理だ。痛みが消える事は無く、生涯、亡くした痛みに捕らわれ続けるだろう……なんでだろうな。そんな友や恋人なんていないのに、何故こう確信出来るのだろうか──俺も上杉もその墓石へ手を合わせ、その場を後にする。


「さーてと……そういえば俺達って、何しに来たんだっけ?」

「え……?」

「ん〜、遊びに来たんじゃないの? 夏ダン今日からの一週間だよね。折角ならやっぱ行かないとっ」

「あの、作戦……」

「そうだったな! 夏ダンと言ったらこう……ワクワクしてきたぜ!」

「そうこなくっちゃ。さ、会長さんも折角なら……ね? あれに着替えに行くよ〜」

「あ、ちょ……押さないでくれっ」


 竹部は上杉の背中をグイグイと押しながら、町中へと消えていった。上杉は困った様子で、悲痛の叫び声を上げる。


「さ、作戦はどうするんだぁ〜……!」

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