#46 かの町へ
明くる日の放課後。生徒会の仕事を終えた俺と上杉は、木柴を連れて人気の無い食堂の隅で会議を開いていた。ウッドスタイルの落ち着いた内装に、静かなピアノのBGMが鳴る空間。何かを考えるには最適の場所だ。
「結局、抗争は決定事項みたいだな……」
「すまん。説き伏せられなかった」
「まあ仕方ねーべ。決起集会を終えた不良の闘争心なんて誰にも止められねえよ」
「うーん、そうだねえ。止めようとしたら拳が飛んできそうだよ」
「…………」
「おや? どうしたんだい? そんなに見つめて」
3人の冷ややかな視線が1人の生徒に向けられる。白々しくキョロキョロと顔を見渡すソイツに、俺は深くため息を吐く。
「なんでお前がいんだよ……竹部」
「いやあ、猿弥が佐藤のとこ行くって耳にしてつい……僕も手伝おうかな〜ってさ」
竹部白乃……この性別詐欺女は、ごく自然に俺達のテーブルへと腰を下ろしていたのだ。木柴は眉をひそめながら、横に座っていた竹部に詰め寄る。
「シロベーお前、どっちかって言うとあっち側じゃねえのか? 今回だって、水黒と一緒になって俺を勧誘しようと必死だったじゃねえか。戦争したいんじゃなかったのか?」
木柴の問いに、竹部は呆れたように乾いた笑いを溢しながら、首を横に振って否定する。
「僕はね……別に戦争にもドクロ組にも興味は無いんだよ。僕はいつでも目の前にある"面白い事"を追いかけるのさ。今はただ……終滅咾衆を抜けて、まるで骸のように虚ろだった僕を、七雲という"代わり"に糸を操ってもらってるだけなんだよ。それはクロベーも同じさ」
「……意味わかんねーよ」
「ようは、君たちに味方した方が面白いって思っただけだよ。昔馴染みの誼みってのもあるけどね」
竹部は手を後ろに組んで椅子にもたれ掛かる。まあ……別にいいか。面倒くさい奴ではあるが、悪人ではない。協力してくれるなら……と、俺は上杉に目で合図をする。ギラついてもいないから接しやすいしな。
「インチキ野郎だけど、信頼は出来る奴だしな……まー変な事しないならいいか。裏切ったら、お前らが大好きな猿夜叉丸を思い出させてやるからな」
「おーこわ……で? どういう作戦なんだい? まさか無策って訳じゃないだろう?」
俺は竹部に軽く経緯を話す。父さん……理事長から頼まれ、上杉と2人でドクロ組の更生を計画していた事。それを不可能だと判断し、犯罪者や怪我人を出すその前に、根元を叩く……そういう作戦だ。
「ふーん……つまり、僕達だけで終月の300人を倒すって事? あはは、スパルタ兵も逃げ出す兵力差だね〜。無策よりヒドイやこりゃ……本気かい?」
「やるしかねえんだよ。この町に被害を出さずに始末つけんのには、こうするしか無い。理事長が作ったこの学校を荒らさせてたまるか!」
「勝算が無い訳では無いよ。先手を打って策を弄せば、我々はレオニダスになりうるさ。それを今から考える訳なんだが……」
「あ、そうだ。折角なら尾羽里行ってみるとかはどう?」
「へ?」
竹部から突撃そんな提案がなされる。俺達の注目は一斉に竹部へと集まる。尾羽里……乗り込んでくるという敵対グループの本拠地だ。
「敵情視察っていうやつだよ。戦に勝つにも、数多くの事前準備がいるっ……それの一つさ。それにほら……もうすぐダンジョー祭りだし」
「オメーそれ行きてーだけだろっ……けどま、シロベーの言う通り、一度町を知っておくのもいいかもな……俺も觔斗雲食いたいし……」
「いや、あの……私達は──」
「ね? 佐藤も行きたいよね? 一回敵地に行って土地勘を身に付けるのも大事だよ」
「確かに……一回は行った方がいいかもしれないな。どんな場所か興味があるし。それに、現地へ行けば何か浮かぶかもしれないしな」
木柴は頼んでいた光宙パフェを一気に平らげると、嬉々とした様子で拳をパシッと鳴らす。
「うっし、そういう事なら早速予定立ててみっか。ほんとは行くのは躊躇うんだけど……良くも悪くも、生まれ育った思い出の町だしよ。久しぶりに顔見せに行くとするかっ」
「待ってくれ……そんな旅行みたいな心持ちでは──」
勝手に話を進めて盛り上がる俺達に、上杉は困惑気味におどおどと首を振る。そんな上杉を、俺は肩に手を置いて制止させる。
「息抜きも大事だぜ上杉。肩肘張ってちゃ、やるもんもやれないさ。なにも完全に遊びに行くわけじゃない、俺達だって節度は守るよ」
「う、ん……そうか……」
上杉は遠慮がちに肩を竦める。生徒会や普段の学校生活で張り詰めていた上杉には、丁度いいガス抜きになるはずだ。それに、友人とこういう付き合いをした事もないだろうし……思い出になるはずだ。上杉にも少しだけその気があったのだろう。それ以上は否定をせず、了承してくれた。
結局、今回は尾羽里へ行こうという話だけで終わってしまった。肝心な作戦はまた後日だな……学校に用のない俺達は、それぞれ帰路に着く。
「はあ……話はまとまらなかったな……」
「そういうなって。楽しみが一つ増えたじゃないか」
「そう、だな……あれが……友人達の日常なんだろうか」
「そうだな。急に変な事を思い付いては、適当に計画立てて実行する……高校生なんてそんなもんだよ」
「友人、か……」
上杉はふいに立ち止まると、俺の方に向き直って姿勢を正す。暗がりでよく見えなかったが、その顔はどこか紅潮しているような気がした。
「佐藤……その……私達は……友人、てことで……いいのか……?」
「へ?」
「あ、う……な、なんでもないっ、忘れてくれ……」
「友人だよ」
「……え?」
「一緒に生徒会の仕事をこなして、遊び行く約束してさ……俺はもうとっくにそう思ってたぜ」
「佐藤……」
「友人ってそんなもんさ。自然となっていくもんだよ。なってくれ……って頼む関係は、恋人くらいさ。はは!」
「そうか……」
上杉は安心した表情で少し口角を上げると、何も言わずそのまま背中を見せ、再び歩み始める。
そんなもんなんだよ上杉……お前の優しさがあれば、友達なんていくらでも出来る。お前があと一歩踏み出す勇気さえあれば──
俺は上杉の元へ駆け足で追い付き、再び肩を並べて家に帰るのであった。




