#45 包帯の軍師
「何だって……?」
「今言った通りだよ。ドクロ組を更生させるのは無理だ」
翌日の放課後。生徒会の仕事を終え、上杉と2人になったタイミングで俺は昨日の顛末を伝える。
「待て佐藤っ……お前、またドクロ組の所に行ったのか? 無茶をする……」
「俺の心配かよ……俺はな、昨日帰った後にずっと考えてた。俺達に与えられた任務ってやつを」
「ドクロ組を更生させる……じゃないのか?」
俺は上杉の言葉に首を横に振る。父さんだって俺達2人の力だけであのドクロ組を更生させてほしい……なんて、無理難題を吹っ掛けていた訳じゃない。越えれぬ壁は置かない人だ、父さんは。
「一夜考えて分かったよ。父さんは……更生させろなんて一言も言ってない。ただ──なんとかしろ、と。そう言ったに過ぎなかった。更生させる必要なんか無いんだよ」
「……では、どうするんだ?」
「言われた仕事をこなすだけさ。犯罪者を生ませない為にも──"なんとか"するんだよ」
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──
「……は?」
「なんどでも言うさ。俺達だけでなんとかしたいんだ」
俺はその日の夜。学校裏に残っていた三好に声をかける。父さんはただ、コイツらに犯罪者になってほしくないだけなんだ。バイクに乗ろうが、喧嘩しようが、授業を受けないのも個人の自由だと。不良としての青春を……楽しんでもいいんだと。
「バカかオマエ。ただでさえ十倍以上の兵力差があるっつーのに、これ以上減らしてどうすんだ?」
「……大人数での乱闘で大騒ぎになって警察沙汰になれば、絶対誰かは捕まってしまう。俺達はそれを阻止しにきたんだよ」
「騒ぎを起こさず、数人で300人の不良を退けるってか? そりゃあ、なんともありがてえ話だな。重火器でも持って行くのか? あ?」
三好は青筋を浮かべて俺の顔を覗き込む。が、すぐに俺の言葉の影に感付く。
「あん……? 待てよ。俺達、だと?」
「そうだ。おい、出て来てくれ」
俺の合図で、後方の木陰から人影が現れる。マゼンタピンクの長髪を後ろで束ねた女子生徒。身体の至るところに包帯を巻いており、黒いマスクで顔を隠している。
「誰だソイツは」
「彼女は……長尾っていうんだ。俺と同じ生徒会の仲間でね。俺が密かにドクロ組と接触して、町の危機を解決しようとしてるって聞いて、自分も手伝うって言ってくれてな。頭数に加えてほしい。抗争が終わるまでの一時的なもんだけど」
「ざけんな。喧嘩もロクにできねえ優等生のおもりなんてしねえよ。戦力にならねえ奴はいらん」
「その心配ならないぜ……よっと」
後ろの茂みから木柴が飛び出してくる。俺の横に立つと、彼女の肩を軽く叩く。
「木柴……」
「へへ、コイツは頭がキレるし、こう見えても喧嘩も出来る。心配はいらねーよ」
「……チッ、オマエがそう言うなら仕方ねえ。けど言った通り、今回の戦争が終わるまでなら世話してやるよ。俺らは保護者じゃねえんだ」
三好は渋々俺の提案を受け入れる。こんなにもアッサリと条件を呑んでくれるとは……木柴の発言力がデカすぎるな。言葉を聞き入れてくれない場合は、こういう手もありかもなあ。だが……。
「けど、戦争はやめねえ。というより……最早俺にさえ止められねえよ。弱腰になってねーで、お前らも覚悟決めておけよ」
結局……抗争は止められそうにないな……けど、これはある程度予測通りだ。今日はもう夜遅いので、詳しい話は後日という事に。俺と木柴と長尾は同じ帰り道を歩む。
「く、くく……」
木柴は肩を震わせ、声を漏らす。そして大きな息を吐きながら、思いっきり叫び声を上げる。
「クッッッソ、ビビったぁ〜!! アブねえ、アブねえよ……バレたらどうするかと思ったぞ!」
それを聞いた彼女は──徐にマスクを取り、髪の毛を上へ引っ張り上げる。
「フゥ……流石に緊張したよ。声を出さないでよかったな」
「演劇部に借りた衣装のおかげで、どうみても他人だったぞ──上杉」
マゼンタピンクのカツラを取り、白藍の髪をなびかせる。長尾の正体は生徒会長の上杉なのだ。木柴に手伝ってもらい、上手く潜入させるのに成功した。
最初俺が聞いた時は反対だった……生徒会長が学校一の不良グループに加入するなんて未曾有の大事件だ。が、何度説き伏せても、上杉のその目に宿る決意は変わらなかった。氷のような冷静さを持っていると思えば、何も恐れない大胆さも持ち合わせている。とても叶わない……俺はとうとう根負けして、上杉をドクロ組に誘導させたのだ。
まあ……元は2人でやるって話だったのに、それを抜け駆けした俺がとやかく言う資格は無いんだけど。
「木柴君……だったか。私の為に苦労をかけたな。ありがとう」
「へ!? い、いやぁ……ど、どもっす。へへ……」
「明日、また集まるとしよう。七雲が私の献策を聞き入れてくればいいんだが」
心配しなくても俺達が全力でバックアップするつもりだ。ある意味、本当の戦いがこれから始まる……気を引き締めて行くとしよう。




