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移行中  作者: あ
上杉 麻冬編
44/106

#44 花の長

 翌日の放課後。俺と木柴は竹部に連れられ、教室棟裏の雑木林へと通された。集会と聞いていたんだが、周りを見るに人の気配は無い……中央には、土埃がついたビールケースに座る三好の姿があった。すぐ横には見慣れない巨漢が立っている。男は重々しい口調で木柴へ話しかける。


「ようやく来たな……木柴」

「水黒……いつ見てもゴリラみてーな顔だな」

「フッ……お前こそ、軽口は昔から変わらんな」

「よく来たなお前ら。そこに座れ」


 三好に促され、俺達は地面に腰を下ろす。三好は俺達の顔を見渡すと吹き出すように笑う。


「クックック……あの終滅咾衆(オワリホロウ)の三柱全員が俺の下についちまうとはな。笑いが止まらねえよ」

「オワリホロウ……?」


 首をかしげる俺に、竹部がそっと耳打ちをする。


「僕達3人が中学の頃に所属してたグループだよ。全てにおいて無敵だった……あの頃は楽しかったなあ」

「3人って事は……木柴……そうか。やっぱお前、元ヤンだったのか」

「うはは……とうとうバレちまったか」


 木柴は首を押さえながら苦笑いを浮かべる。何故三好が木柴を欲しがるのか……何故不良の竹部と懇意の間柄だったのか……色々照らし合わせれば、己で答えに辿り着くのは容易だった。木柴は──昔は不良だったんだ、と。


「背中の孫悟空でも見せてあげれば? 佐藤ビックリするんじゃない?」

「孫悟空……?」

「バカ、おま……いや、なんでもねえよ!?」

「そういえば七雲、今日はなんで他のメンバーいないの?」


 竹部の疑問に、三好は無言で立ち上がると懐からボロボロの黒い布を取り出し、それを俺達の前へ投げる。木柴はそれを広げると、目を丸くして声をあげる。


「コイツは……ッ!」


 広げるとそれは旗になっていた。黒いしわくちゃになったそこに書かれていたのは──終滅咾衆という文字であった。


「ついこの間だった。隣町、尾羽里町ん所の終滅咾衆が"倒れた"……全滅だとよ」


 俺以外の3人は言葉を失う。全滅……隊が無くなったという事なんだろう。コイツらがいた前の不良グループが……木柴は茫然自失といった様子で、旗を無言で見つめていた。


「やったのは吐露非狩古鬱(トロピカルフルーツ)っていう奴らだ。今は合併して終月(オワリノーツ)と名乗ってるらしい。全盛期ではないとはいえ、あの終滅咾衆が一瞬で潰されちまった訳だ……盛者必衰とはよく言ったものだな」

「終滅咾衆が……終わった……」

「古鬱共は、この地方の全てのグループを飲み込んで巨大な愚連隊組織を立ち上げ、全国に乗り出すつもりらしい。ソイツらが──今度は俺達に狙いをつけたって訳だ」


 狙いをつけた……? まさかこの町に侵略してくるって事か?


「……なるほど。だから水黒もお前も俺を誘っていたのか」

「奴らは頭数300人揃えてカチコミしに来る。降伏はさせねえらしい。奴らは俺達を力で捩じ伏せて絶対服従させる気だ。そして好き放題に使役するんだ……捨て駒としてな。ま、ハナから降伏なんてしねえがよ」


 目眩がしそうだ……300人の不良が……ここへなだれ込んで来るというのか? 冷や汗垂らす俺とは違い、3人は顔色一つ変えずに三好の話を聞いている。


「暴力で服従させ、全てを合併させるねえ……天下人気取りなのかな〜。気に入らないね」

「叩き潰すのみ……」

「……俺は一度引いた身だ。アイツがいない終滅咾衆の弔い合戦してもな……けど、学校が危険に晒されるのは許せねえ。その為だけ……今だけっていうならお前に従うぜ、三好」


 木柴は立ち上がり、三好へお辞儀をする。木柴の決意は固い……それに応える様に、三好は深く頷き棍棒を天に掲げる。


「300人といえど……あっちはどうせ頭数だけのチーマーも交じってる。今時トップクなんて着てるような……前世紀の死臭がする菌カビみてえな野郎共だ。ドクロ組は、俺が全員を直々に鍛えた武闘派集団だ。上手く運べば逆に返り討ちに出来るぜ。頼りにしてるぞ」


 妙な気持ちだ……不良といえば悪逆無道の暴徒。俺はそんなイメージを作っていた。が……三好には曲がりなりにも、この町を守るという確かな意志があった。非行少年には違いないのだが、話の通じる1人の人間だという事を俺は改めて認識する。


「今日はそれだけだ。奴らは夏に仕掛けてくる……今の内に気を引き締めておけ。解散だ」


 三好の号令で皆それぞれ去っていった。何かとんでもない事に巻き込まれてしまった気がする……あれ? 本来の目的って、コイツらを更生させる事だったよな? なんで俺はそれに加わってるんだ……俺は自らの使命を思い出す。


「どうした佐藤、俺に何か言いたそうだな。そういえば……元々俺に話があるんだったっけか?」


 この場に三好と2人きり。俺は思い切って告げる。理事長に頼まれた事、そして上杉の事……話してみてどうにかなるとは到底思えない。言葉を交わしただけで非行を止められるのならば、この世界に不良という文化は存在しない。だが、三好は俺の話ずっと黙って聞いてくれていた。


「理事長と生徒会の……お前の……恋人だった上杉の頼みだ。頼む……俺の話を──」

「恋人、だと……?」


 その瞬間だった。三好が吹き出して、腹を抱えて笑い転げた。


「ぶっ……はーっはっはっはっは! 恋人!? 俺とアイツが!? く、くく……コイツは傑作だ……だーっはっはっは!」

「な、違うのか!?」

「フッ……確かにアイツとは昔馴染みだが……くく……上杉が俺の事を大切な人とでも説明したのか? フフ……そうか──」


 ふいに三好が俺に顔を近付け、口を俺の耳元に持ってくる。そして俺のアゴを持ち上げ、三好からは想像もしなかった妖艶な声音でそっと囁く。





「オマエは……俺が男だと思っていたのか」





 ドクン……と、俺の心臓が鳴った気がした。男だと思っていた……? じゃあ、まさか──


「アンタ……女だったのか!?」

「フン……確かに言わねば分からんだろうよ。言う必要が無いからな。ま、別に隠してもいないが……」


 心底どうでもいいといった口調で軽く告白するこの男──否、女。竹部といい、ドクロ組は性別詐欺が集まってるのか!?

 確かに顔をよく見れば、イケメン……と言うには少し艶があるし……声音も高い声というより女のような声で……ああ、もうワケわからん! 俺は目を泳がせて呼吸を荒くさせる。


「確かにアイツとは親友と言える程の間柄だった。が、それはもう昔の話だ……それにオマエはもう一つ誤解してるみたいだぞ」

「……へ?」

「オマエ達に……いや、他人に俺達を更生させる事は絶対出来ない」

「なんだって……?」

「いいか……俺達は"これ"が日常なんだ。オマエらが行儀よく授業を受けるのと同じなんだよ。これが正しい事、これがやりたい事だ。この道を悪とは言わせねえ……だから、更生もクソもねえんだよ。品行方正な人間が極悪な犯罪者になるのと一緒だ──あり得ねえんだよ」


 俺は唖然とする。竹部が言っていたのはこの事だったのか……話せば分かってくれるという訳じゃない……話せば三好という人間が解る。そういう事だったのだ。

 更生とは悪に正しい行いをさせる事だ。が、三好の中には悪などない。ただ不良の道を歩むという"正"があるだけなんだ。己が決めた事を守っていただけなんだ……そこには本人の正義がある。これは確かに……更生なんて絶対に無理だ。


「上杉と理事長に伝えるんだな。ドクロ組の更生は骨折り損だったってよ……とっとと帰れ。何時までも生徒会も人間がこんな所にいたら怪しまれるだろうが。それとも……一本取りに来てみるか?」


 三好は立てておいた棍棒の柄を軽く叩く。流石に2度も卒倒するのは御免蒙る。それに、今はとてもそんな気分じゃない……俺は重い足取りでその場を去る。


「……」


「親友、か……」


「麻冬……アイツはもう、俺の事を親友と思っちゃいないだろう。今回だって俺を潰そうと必死じゃないか……本人は動かず、尖兵を使って内部を探るとはな……フン、相変わらず回りくどい奴だ」


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