#40 夜叉羅刹
「は!?」
首魁、三好七雲に会う……竹部からそんな提案がなされる。いや、そんな軽く言われても困る。とんだ爆弾発言だ。
「君がしようとしている事……七雲に会えば気が変わるかもね。話せばわかると思うよ」
「い、今から行くってのか?」
「うーん。そうしたいけど、あの武闘派達の前でその話をするのはね……僕じゃ君の命を保証出来ないよ。あ、でもほら。解散するみたいだよ」
竹部が指差す方を見ると、いつの間にか集会は終了しており、数人が残った状態だった。リーダーの三好と2人のメンバーが──
「さ、行くよ佐藤」
「うぉう!?」
突然竹部に背中を押され、グイグイと森の中心へと進んで行く。足を止めようと踏ん張るも束の間、奮闘虚しく俺はドクロ組の中心へと放り込まれた。
「あぁ?」
男達から鋭い視線が向けられる。刺すような眼差しとはこの事だ。こんな俺でも白制服の生徒会員だからな……当然の反応かもしれないが。
「……シロベー、誰だソイツ?」
ブワッと風が吹いた気がした。リーダーの三好が俺を睨む。一歩、また一歩と近付く度に鬼のような威圧感が俺を包み込む。目が……背けられない。三好は俺の前に立つと、すぐ後ろにいる竹部へ視線を向ける。
「いやー彼が実は、七雲に話があるっていうんでね」
「話だと? 生徒会のオマエが……俺に?」
「あ、いや、ちょ……」
三好が俺の顔を覗き込む。近くで見ると結構イケメンだな……って違う。ヤバいヤバい、すんげえ近い。校内一のヤンキーの顔が目の前に。俺は上を向いて目をギュッと閉じる。
「…………んん? オマエまさか佐藤佑樹か?」
「……へ?」
三好は目を丸くして俺のアゴを持ち上げる。俺はゆっくりと目を開ける……意味が分からない。何故、俺の名前を知っているんだ? 俺はおそるおそる頷いて見せる。
「そうか、オマエが佐藤佑樹か!」
すると、三好は打って変わって爽やかな笑顔を浮かべ、俺の肩をバシバシと叩く。
「まず馬を射らねば始まらねえって言うしな! シロベー、いいモンを連れて来たな!」
「あの七雲、彼は君に話が──」
「んな事ぁどうでもいい! オイ、佐藤──ウチに入れ!」
「は???」
俺の気のせいか? 今、ウチに入れって聞こえた気がした。
「オマエ、あの木柴猿弥と仲良いんだろう? あの柔らかそうに見える堅物が、何故オマエに気を許してるのかは知らんが……オマエがウチに入れば、アイツも考えを改めるだろう」
「話が見えないっすよ……」
「訳あって、俺達にはどうしても木柴が必要なんだよ。ソイツを誘うには、ダチからってな。って訳でウチに入れ!」
「は……?」
まさか、本当に俺をドクロ組に誘ってるのか? 三好は本気で、この俺を不良グループに入れる気か? 腐っても生徒会役員だぞ。決して相容れ無い存在だ。有無を言わさず少々強気に誘う感じ……なんだか上杉に通じるものがある。
しかもなんで木柴の名前が出てくるんだ……ああ、もう訳分からねえ。首を振る俺に、三好は持っていた棍棒を俺の眼前へ向ける。
「ああ、勘違いするな。これはお願いじゃねえ、命令だ。必ず所属してもらう。だが、用があるのはオマエのダチだ。テメーはただいるだけでいい。木柴を手に入れた後なら……好きにしろ」
三好はそう言って鼻で笑う。生徒会の俺が不良グループ、ドクロ組へ入る……ミイラ取りがミイラに、か。笑えねえな。
「……ざけんな」
「あ?」
俺は棍棒の先を握り締め、それを払いのける。生徒会の、そして上杉への裏切りになるだろう。そんな事は決してあってはならない。けど……俺にはそれ以上に許せない事がある。俺は三好を睨み付け声を張り上げる。
「ふざけんな!! 俺が木柴のエサだと!? 逆ならまだしも、木柴をおびき寄せる為に俺を利用するのは、絶対に許さないぞ!!」
俺は怒りを叫ぶ。何故コイツが木柴を欲してるのかは分からない。だが、あの野郎の踏み台になるのは絶対に嫌だ。
「何……?」
「えーっと……佐藤? 君、何かおかしくない?」
「アイツのエサになるくらいなら死んだ方がマシだ!!」
「いや、そんなキメ顔で言われても……」
ごちゃごちゃと何かを言う竹部を制し、三好はニヤリと笑みを浮かべる。棍棒を、音が鳴る勢いで振り回すと、それをピタリと俺の顔の目の前で止めて見せる。
「死んだ方がマシか……いいだろう佐藤。ならテメーの気概とやらが本当か試してやるよ」
そして、どこから取り出しのか木刀を俺に向かって投げる。俺はそれを片手で受け止める。
「テメーが一回でも俺に一撃与えられたら逃がしてやるよ。だが、俺が勝てばオマエはウチへ入ってもらう。制限時間は無え。試合終了のゴングは、オマエが地べたに這いつくばるまでだ……安心しろ。木柴のダチのテメーを殺しはしねえ。まあ……数ヶ月は杖を突いて生活してもらうがな」
額に青筋を浮かべながら、棍棒を肩に担ぐ。本気か……堂々とフルボッコ宣言しやがった。鼓動を早め、耳の奥がジンジンと熱くなる。啖呵切った以上、もう逃げられない。だったらもう──戦うだけだ。俺は木刀を構え、深呼吸をする。
「いくぞ……ゴルァ!!!」




