#38 骸共の組曲
「では、今週の生徒会会議は以上だ。皆、お疲れ様」
「「お疲れ様でした」」
会議室の上座に座る上杉の合図で、役員達はそれぞれ解散した。皆に続いて、俺も軽く頭を下げる。会議の内容はよく覚えてない。今期の広報活動の予算縮小が何だか、校内設備の見直しがうんたらかんたら……俺にはさっぱりだっだ。
「佐藤、少しいいか?」
皆が会議室を去った後を見計らったタイミングで、上杉が俺に声をかける。部屋には2人だけだ。
「ドクロ組の事、理事長にはああ言ったが……この件は2人だけで内密に行いたいんだ。頼めるか?」
「また急な話だな……俺は別に構わないが」
「すまない……これは 個人的な其事にもなるからな……あまり大勢で執り行うのは、些か気が引けるんだ」
「個人的な……?」
上杉は立ち上がり、机から剣型のカギを取り出すと、俺に手渡し一言告げる。
「佐藤、付き合ってくれ」
「へ!?」
「今からドクロ組の集会所を偵察しようと思う。私は準備をしてくるから、鍵、閉めてくれるか?」
「え……? あ、ああ……なるほど。了解……って偵察!?」
「監視目的もあるが、佐藤。彼らを一度見た方がいい。行くぞ」
俺は上杉に促され、施錠し荷物を整えてから出発する。やってきたのは学校のすぐ裏の雑木林。
が、不自然なくらいに地形が平らだ。木々を伐採すれば、マンションや病院くらいならすぐに建てられそうな場所だ。かなり広く、坂の上に位置する学校に隣接しており、周りに建物は無く、人の気配がしない。上から見ても森の中は見えない。なるほど……確かに、アジトにするなら好都合な立地だな。
2人で森を進んで行くと、やがて開けた場所が見えてくる。上杉は姿勢を低くする様、俺に合図を送る。どうやらこの先がアジトらしい。俺は木陰に身を隠す。
「いたぞ佐藤。奴らが暴走族、ホロウナイトスイート……通称ドクロ組だ」
「名前なげっ、正式名称そんな族っぽい名前だったのか。いや、実際に族なのか……」
まるで念能力のような長い凝った名前……ドクロ組のメンバーが遠くに見える。挑発的な髪色をしたツッパリ者達、十数人程の生徒達が集まっていた。空手の組み手をする者、バイクを触っている者、スマホを弄っている者、コンビニ弁当を頬張る者……様々であった。
中央には、海賊のような黒い髑髏が施された旗が無作為に立てられている。
「あ、アイツ……」
俺は見た、スマホを弄っている男の口元を──タバコだ。非行の代名詞。校則どころか、法まで破っている。前科者が出るかも……どころではない。警察に見つかれば、間違いなく一瞬でお縄につく。横を見ると上杉は眉根を寄せ、苦渋の表情を浮かべる。
「ここで写真の一枚でも撮って上長に報告すれば、全て終わるのだけどね。理事長はそれを望んでいない。非行を是正しなければならないとは……骨が折れそうだ」
「ドクロ組だけに?」
「え?」
暫く変な空気が流れる。が、上杉がすぐに吹き出すように笑みを溢す。よかった。やっぱり上杉は、怒った顔より笑った顔の方が好きだ……って、何言ってんだ俺は。
「佐藤、来たぞ……」
「え?」
「ドクロ組の総長、三好七雲だ」
上杉が旗の奥からやってくる人影に向けて指を指す。空気が変わった。それまで各々が自由にしていたのをピタリと止める。まるで訓練された犬のように、全員が立ち上がってリーダーの方へと向かって行く。
影から現れたのは──ライオンの鬣のように尖った黄金色の髪を、荒縄で後ろに縛って垂らしている。まるでサムライのような雰囲気の人物であった。服装は前をピッチリと閉じた長ランを着ており、右手には無数のトゲが付いた、淡い白銀色の長柄な武器を握りしめていた。
「──ッ! ──ッッ!!」
三好が地面へ座り込み、メンバーに向けて甲高い声で何か発しているが、遠すぎて何を言っているかは聞き取れなかった。
メンバーは全員が腕を後ろに、直立の姿勢でそれに聞き入っている。まるで軍隊のように。そんな事あるか? 不良だぞ? 一人くらいブレてる奴がいてもおかしくない。その軍人のような整列は想像していた不良グループとは違った。統率するリーダーのカリスマ性が窺えるというもの。
よく見るとメンバー全員がかなりのガタイだ。歴戦の証なんだろう……曇り無き忠勇に燃え、修羅の道を歩む生徒達。本当に同じ学生なのか疑わしい。
「上杉……俺達あれを……更生させるのか……?」
「そう……するしかないんだ。お前には一度これを見せたかった。そろそろ行こう。奴らの警戒察知能力は武人並だ。これ以上は気付かれる」
「……いや、俺はもう少しここにいる。様子を見たい」
「何を言ってるんだ──」
「安心しろって、俺も元武人だぜ? 少し見ていくだけさ。心配すんな」
「はぁ……分かった、すぐに戻ってくるんだぞ」
引かない俺に、上杉は嘆声を漏らしつつも去っていった。何故か、ここで帰ってしまうのは勿体ない気がした。俺はもう暫くドクロ組の様子を観察する事にした。
「何してるんだい?」
「ッ!?」
真後ろから声がする。そう脳が危険信号を察知し、身体に振り返れと命令を下す寸前。俺は口を塞がれ、上半身を何者かに拘束される。姿勢が姿勢だった為に、俺は何も動けなかった。鼻にガーゼのような薬品の匂いが広がる。病院帰りの老人みたいな香りがするぞコイツの手。
「わお、凄い反射神経だなー。ごめんごめん、君の動きが少し危なそうだったから思わず拘束しちゃったよ」
誰だコイツ……クソ、上杉にあんな事を言っといてこのザマとは情けない。コイツどんな忍び寄り方をしたんだ? 言い訳をするつもりでは無いが、足音も気配も無く、コイツは一瞬でそこに現れたかのように俺の背後を取ったんだ。一応警戒はしていたはずだし、耳も澄ませていたはずだ。草木や枯れ葉を踏む音も無くやってくるとは……忍者かテメーは! と、俺は心の中で長いツッコミをするのだった。




