表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
移行中  作者: あ
小田 ひなた編
31/106

#31 地下で眠るもの

「ふがっ!!」

「……何やってんだよ」


 病院教室からの帰り道、歩きスマホをしていた木柴が、前方不注意により電柱にぶつかってしまう。赤くなった鼻を押さえる木柴は少し涙目になっていた。


「画面に熱中しすぎたな」

「つつつ……この状況なんていうんだっけ……えーっと、猿も歩けば電柱に当たる?」

「勝手に作るなよことわざを。ことわざでもなんでもないしそれ……何を熱心に見てたんだ?」

「ミク○ィをチェックしてるんだ。俺の今朝の投稿があと7イイネでキリ番なんだよ。あ、お前マイミク申請してなかったよな? 申請していいか?」

「もうやってねえよ……いつまでやってんだ。相変わらず平成に取り残されてるなお前……ん?」


 ふいにポケットから振動が伝わる。電話だ……相手は父さんだ。こんな時間に珍しいな……俺は通話ボタンを押下する。


「もしもし父さん? どうしたんだ?」

『……佑樹。急だが、今から病院に来てくれ。門の前で待ってるぞ』

「え? ちょ、ま──」


 父さんはそれだけ言うとプツリと通話を切る。よく分からないな……でも、なんだか胸騒ぎがする。俺は木柴に別れを告げ、病院の方へと踵を返して歩き始める。病院の入り口。病院の外壁に横たわるように父さんが立っていた。


「来たか佑樹。着いてこい」


 これから帰るという時に何を面倒な。と、小言の一つでも言ってやろうかと思っていたが、父さんの見たこともないような神妙な面持ちに、俺は言葉を飲み込んだ。そして、父さんの後をついて行く事に。妙だな、さっきまで歩いた道と全く同じだ。やがて父さんはひなたの病院の前で足を止める。


「へ? ここ、ひなたの病室だよな?」

「………」


 ガラガラと扉を開ける。ひなたはベッドに付いている机を広げて、ノートに何かを書き込んでいた。


「え、え? 理事長先生っ、それに佑樹君?」

「こんばんは小田さん。ゆっくり歓談したい所だけど、残念ながらそんな明るい要件ではないんだ。佑樹も落ち着いて聞いてくれ」

「………」


 父さんはベッド付近の椅子へ座り、姿勢を正してひなたと向き合う。ひなたは憂うでも強張るでもなく、父さんのその言葉に無の表情で頷く。


「真実を包み隠さず言おう……小田さん。検査の結果、君の身体を蝕む病は最早、医療行為の範疇を越えている。世界一のドクターチームが匙を投げた。申し訳ないが……君の病はもう、医療では治せない」

「え……? ひなたが……?」

「…………」

「手の施し様が無い……すまない」


 視界がグラッと歪んだ。俺は身体のバランスを崩し、反対側のベッドへ腰を下ろす。抗いようのない深い絶望が押し寄せてくる……ひなたが……ひなたが……いなくなってしまう。


「…そうですか。なんとなく……そんな気はしてました。入学式の時、同じように入院して、そう医者に言われていたので……」


 ひなたはそう言って無理やり笑みを作る。ああ、そうか……結局、俺が無駄に足掻いていただけだったのかもしれない。ひなたはもう……医療では治せない。前と全く同じ結果。俺では何も変えれないのか? ああ、この世界はなんて残酷なんだろうか。が……俺はふと冷静になって、かつて安美島で出会ったひなたのじいさんの言葉を思い出す。


『これは遺伝性の病気などという、些少な話ではない。古代より続く、非科学的な何かが深く根付いておる。曲がりなりにも考古学の博士だったワシが、半世紀の時を費やしても"呪い"の正体は終に分からなかった』


 非科学的な……何か……分からない。一体ひなたの身体には、何があるんだ? 俺の脳内を様々な思惑が駆け巡る。焦りか否定か。次に口から出たのは、揚げ足取りにも聞こえるような稚拙なものであった。


「なあ父さん……医療では治せないって言ったよな? その言い方、他の方法でもあるっていうのか?」

「………医療で治せない病。その病の治療方法が他にあると思うか? もし存在するとしても、それはお前や、他でもない小田さん本人が傷付く事になるだろう。ただの言葉の裏返しだ」

「……ッ」


 理事長の突き刺すような現実。佑樹は拳を固く握り、病室から逃げるように去っていった。

 窓から覗く夕日が2人の影を作る。病室は静寂に包まれていた。ひなたは佑樹が出ていったのを確認すると、理事長に向き合い頭を下げる。


「理事長先生……いえ、佑樹君のお父さん。ありがとうございます。あの事を佑樹君に話さないでくれて」

「……我が校の地下深くに存在する、光宙三大地下施設……時空間研究室。時空間における相対性理論を追及し、次元転移を可能にするシステム……タイムマシーン。それを用いて根元を探り、病気を治療する方法。君に以前それを話した時も、君は首を振っていたな」


 窓から風が吹き、ひなたの髪がふわりと舞う。


「初めて聞いたときは、冗談にしか聞こえませんでしたけど……施設を見て、研究員が働いているのを見て、理事長先生の真剣な顔を見て……なんだか本当のように思えてきて。でも……そんな夢のような話を前にしても不思議と、これで助かるんだ──って気持ちが浮かんでこなかったんです。

 決して助かりたくない訳じゃなかった……でも、そんな理に反してでも、私だけが助かっていいのかな? その先にあるのは本当の幸せなんだろうか? そう思えて仕方がなかったんです……今でも、その気持ちは変わりません」


 ひなたの言葉に、理事長はただ無言で頷く。


「優しい佑樹君は、マシンの存在を知ったら、きっと私の為に躊躇無く使う。病気の治し方を探そうと、生涯をそれに費やしてしまう。私のおじいちゃんのように。でも、私はそれを望んでいません。私は……佑樹君に側にいてほしい、それだけで幸せなんです。

 私のお母さんもおばあちゃんも……そのずっと先のご先祖様も、きっと同じ思いを持っていたと思います。おじいちゃんが言ってました。呪われていたのは自分の方だった。視野が狭くなり、ひだか……おばあちゃんが真に望むものを汲み取れなかった。もっと側にいてやればよかったって。おじいちゃんはすごく後悔してたんです。私は……佑樹君にそんな思いはさせたくないんです。理事長先生の好意を無下にするようで……ごめんなさい」

「いいんだ……君は本当に立派だよ。君ほど強く優しい女性は見た事がない。君に愛された佑樹は、本当に幸せ者だ。これからもあの愚息をよろしく頼むよ」


 理事長はイスから立ち上がると、ひなたに深くお辞儀をし、病室を去っていく。

 ひなたは一人になった静かな病室で、自分の携帯の壁紙、尾羽里町の祭りで撮った佑樹と自分だけが写った写真を眺める。


「……卑怯だな……私」


 ひなたは携帯を抱くようにして、ベッドの毛布へ潜り込み、身体を丸くして眠りにつく。


────

──


「フフ……そうだったな。何度も失敗していたというのに、私は何故今更…………ああ、佑樹。お前がああなってしまうのも分かる気がするよ。彼女は素晴らしい人だ。だからこそ……」


「フ、フハハハ……一瞬、最低な奸計が過ったしまった。全く……どれだけ贖おうとも私は結局、冷酷非道な咎人なんだな。そう鏡の前で刻印を見せ付ける事もないだろうに……」


「自身の首を締める事になろうとも、手を伸ばしてしまう……そういう所が似たんだろうよ──」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ