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移行中  作者: あ
小田 ひなた編
30/106

#30 白い景色

 あくる日の早朝。ひなたの病室に北条がやってくる。軽く会釈する北条に、ひなたはベッドから身体を上体を起こしながら、ペコリとお辞儀をする。


「やあ、ひなたサンおはよう。体調の方はどうかな?」

「先生おはようございます。体調は問題ありませんよ、元気ですっ」

「そうか。それは良かった。早速だが、授業の時間だぞ。ククク……家庭教師にでもなった気分だ」


 北条はベッドの側の椅子に腰をかけると、一通りの教科書と文房具、ノートを取り出す。病室に設置されていたホワイトボードを近くに寄せ、座りながらホワイトボード文字を書いていく。


「ありがとうございます先生。私のために時間を作ってくれて……普通ならこの時間、学校で教えてなきゃないけないのに」

「いいんだ。君が気にする事じゃない。ホームルームは他の先生に任せてあるし、英語の時間も外部の先生を招いて授業しているそうだ。全て理事長が取り計らっておられる。何も心配はいらないさ。1人の可愛い教え子に個別授業ってのも、心躍る響きじゃないか。まあ……今回は少し個別指導という訳にはいかなかったがね」

「え?」


 ガラガラとひなたの病室の扉が開き、扉から制服姿の木柴と佑樹の両名が、ピョコッと首を出す。


「よーう、ひなた。来てやったぜ」

「おはようひなた。体調は……良さそうだな」

「え、え、猿弥に佑樹くん? どうしてここに? 今って午前の授業中じゃ……」


 2人は、椅子をホワイトボードの前に持ってくると、カバンから教科書とノートを取り出す。


「へっへっへ。理事長がさ、俺らもここで授業受けていいってさ。お前1人じゃ寂しいと思って、俺達もお前が退院するまで、ここで授業受ける事にしたぜ!」

「こういう便宜図ってくれる所には、父さんに感謝だな。ひなたがいないんじゃ……学校なんて行ったって仕方ないしよ」

「猿弥……佑樹君……」


 先生は鼻で笑いながら、ホワイトボードのペンを手で回す。


「ククク……また取材旅行組が集まってしまったな。では始めるか。まずは国語だ」

「思ったんだけどよ、センセーって他の教科出来るのか?」

「まあ、私立高程度の学科なら全教科いけるぞ。免許を全て取得している訳ではないが、問題は無い」

「うわー……出たよ完璧超人……」

「よし、では教科書を開け。教室組に遅れを取られぬよう、みっちり指導してやろう──」



────

──



 病室で4人だけの学校が開校している頃、光宙高校の地下深くの場所。青白い光が明滅する無機質な廊下で、2人の男がガラス窓から見える研究施設を眺めていた。


『すまないねドクター。手が離せない状態だったもので、この地下まで足労をかけた。それで……結果は?』


 黒いスーツを着た威厳ある風格の男……理事長の後ろに立つ、白衣を羽織った研究者らしき外国人の男は、理事長に書類が入った封筒を震える手で手渡す。


『ミスターサトウ。申し訳ないのですが、ご期待に沿える結果ではありませんでした……あの状態は……現代技術の範疇を越えています』

『……問題ない、元より玉砕覚悟のつもりだ。君は世界最高水準の医療技術を持つチームの代表として、最善を尽くしてくれた。君の成果に不満は無いさ。非科学的なモノが確かに存在する……一介の研究者としてあまり認めたくはないものだ』


 理事長は拳を固め、廊下のガラス窓に映る自らの顔を睨む。


「……我々の研究が行き着く先は、医療や常識では、到底計り得ないものだ。相対性理論の究明、果たしてみせるぞ……"彼女"の協力があれば、数十年は研究が進歩するんだが」

『あの……ミスターサトウ……?』

『ああ、すまない。気にしないでくれ。ドクター、遠路遥々ご苦労だったね。君達はアメリカへ帰国してもらって結構だ。協力感謝するよ』

『いえ……お役に立てず、申し訳ないばかりです』


 理事長と白衣の男は握手を交わす。握手を終えると、男はキョロキョロと辺りを見渡す。


『それにしても……ここはすごい施設ですね。我が国でも、この規模の研究施設は見たことがない……一体何を研究しているのですか?』


 ガラス窓から覗く巨大な研究施設。眼前に広がるそれを見下ろしながら男は息を飲む。施設中央に鎮座する、幾何学的に機械類が積み重なった、神々しささえ感じる巨大なマシン。そのマシンの頭上に存在する赤く光る眼のようなコアは、全てを見透し、まるでこちらを睨んでいるかのようだった。男は咄嗟に目を逸らす。


『……フフフ。それは知らない方が安全だろう』


 理事長はそう言うと、天井に向かってブツブツと言葉を発する。するとガラス窓だったものは、徐々に雪のように霞がかっていき、真っ白な壁へと変化する。これ以上、部外者に研究内容は見せられない。そう言うように視界を遮断したのだ。


『ハ、ハハ……極秘の研究といった所でしょうか。まるで夢でも見ているようだ……』

『ああ。夢だと思って構わない。ここで見た事は忘れておく事をオススメするよ』

『そうですね、そうします……では私はこれで失礼しますよ』

『ああ。ではな』


 理事長はもう一度男と握手を交わし、その姿が見えなくなるまで見送る。エレベーターが完全に上昇しきった所で、理事長は地下施設の奥深くへと歩き始める。


「ふぅ、英語はやはり疲れるな」


 理事長は携帯を取り出し、通話アプリを起動させ、連絡先の一番上にある、佑樹と表示されたボタンを押下する。



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