#25 神産みの島
「うおー! すっげー海キレイじゃん!」
「エメラルドに透き通った水面……ビューティフル。なんて美しいんだ」
数時間後、俺達は無事に安美島の港に到着した。操縦士さんにお礼を言って、船を見送り、安美の地へ足を着ける。都会の喧騒を忘れさせる、海岸の静かなさざなみが、俺達を迎える。安美島の人口は2万人程。観光客で賑わいを見せる小さな島だ。
「丁度昼時だな……レンタカーを借りて早速昼食に行くとしようか。ホテルへのチェックインはその後でいいだろう」
町の中心街から外れた、海沿いの小さなレンタカー店。この島には電車が無く、移動にはレンタカーが必須だ。俺達……というか、先生はじっくりと車を吟味していた。暫くして選定が終わったのか、先生が戻ってくる。
「待たせたな。借りてきたぞ、ハーレー」
「「待て待て待て待て!!」」
先生は、さも当然といったような表情で、テレビで見るような赤と黒のカラーが厳つい、2台の大型バイクを指差す。木柴と俺は同時に首を横に振る。
「確かにカッケーけどさ! いくらなんでもレンタカー屋でこれ借りるのはおかしいだろ! 4人も乗れないしッ!」
「乗れるじゃないか。私とお前が運転して、ケツに佐藤クンとひなたサンを乗せればいい」
「は……?」
「む、なんだ? 元ヤンならバイクくらい乗れるだろう?」
木柴は口元をヒクつかせる。俺もひなたも、先生の暴挙に額に手を当てるしかなかった。
「た、確かに単車は乗ってましたけどぉ……明らかにむ、無免……だったのは分かりますよねぇ……?」
「なら問題ない。ほら、早く荷物積んで行くぞ」
そう言うと先生は、どこから取り出したのか西部の大門みたいなサングラスを装着し、ハーレーに跨がりエンジンを吹かす。この人本当に教師? 破天荒というか、行動がもはや暴力の域だ。つかサングラスにハーレーって、大門ってよりはタツだな……誰がわかんだよこのネタ!
もう借りてきたのはしょうがない……俺は木柴の後ろ、ひなたは先生の後ろにまたがる。
「ナナハンしか乗った事ねーのに……倍はあるぞこれ……」
「すごい大きいバイクだね、落とされないかな……」
木柴がハンドルを握ると、バォン! という聞いたこともない排気音が鳴り響く。そしてその大型マシンは走り出す。風を切る音が凄まじい。とんでもない馬力だ。
「うっひょー! 気持ちいいなこれ! 振り落とされるなよ佐藤ー!」
海岸沿いを2台のハーレーが駆けて行く。最初は戸惑っていた木柴だったか、昔の血が騒いだらしく、もうすっかりその気だ。本当に油断したら振り落とされそうだ……俺は木柴の腰をしっかりとホールドする。
海の見える道を10分ほど走った頃、前方を先導する先生が、木々に囲まれたログハウスのような建物の敷地へと入っていく。どうやらここが昼食の場所らしい。新鮮な海の幸が食べられる、漁師が切り盛りしている海鮮の店だ。古びた木のテーブル椅子と、畳のお座敷席がある配置。入り口には雑多に瓶ケースが置かれ、カウンタには珊瑚の額縁に入れられた漁師達の写真と、変わった置物。この家庭的な内装がたまらなく好きだ。
「いらっしゃいませ。四名様ですか?」
「はい。お願いします」
「タバコ消してグラサン取れよセンセー。カタギじゃねーみたいだぞ」
俺達は奥のお座敷席へ付く。畳が落ち着く良い席だ。窓から見える太陽に照らされた海も綺麗で、つい見とれてしまう。
「フフ、この年期の入ったメニュー表もオツじゃないか。あ、すみません。とりあえず生を大ジョッキで」
「昼から飲む気すか……」
「慣れろ佐藤。この人のアル中は治らねえ」
俺達はそれぞれ料理を頼む。暫くして料理が運ばれてきて、とてもいい磯の香りが鼻を突き抜ける。海鮮三色丼のマグロ、チヌ、太刀魚。都会じゃ中々見れない、このサービス精神旺盛な特大ボリューム。一口食べると、刺身のふわふわとした食感が口に広がる。おお、美味い! 太刀魚ってこんな味だったっけ……噛みごたえのある食感と程よい脂がいいアクセントだ。これは箸が止まらない。
「へえ……佐藤のも美味そうだなあ。なあ、俺のサーモン丼のサーモンとちょっと交換しねえ?」
「しゃあないな、ほらよ」
「サンキュー! んむ……お、うめえなこれ! マグロも全然臭くねえ!」
木柴から貰ったサーモンを一切れ食べる……おお、サーモンもやっぱ違うな。弾力あって美味いじゃないか。分厚いからしっかり味が口に残る。
「二人の刺身美味しそうだね」
「ん、ひなたのはなんだそれ? 天ぷら?」
「うん、魚天ぷら。ふわふわしてて美味しいよ。佑樹君食べる?」
「え、いいの? んじゃ……って、えっ……あ、あーん」
「あ……ごご、ごめん佑樹君! 私また……あぁっ……」
俺は自然と差し出された天ぷらを口で受け入れた。またやったぞこの子……しかも木柴と先生に前で。答えてしまった俺も悪いが、これは恥ずかしい……横では、木柴と先生が頬杖をついてニヤニヤしていた。
「なんだよ佐藤とひなた〜! 見せつけてくれるじゃねえかよ!」
「う〜ん、いい景色だ。肴が美味いと酒も美味いな〜」
ムカつくが、からかわれても仕方ない。んむう……。
「私、この島に来ると毎回食べるんだ。この天ぷら」
「ん、毎回? きたことあるのか?」
「……2人には言ってなかったけど、私この島で生まれたの」
木柴と先生は箸を止めて、驚いた表情を見せる。
「は!? マジかよ!?」
「な……そうだったのかっ?」
「えへへ、最初に安美島へ行こうって話がでた時はビックリしたよ。私の故郷って言うと、2人とも気を使っちゃうかなあって思って隠してたの。ごめんなさい。でも、皆には気を使わずにこの島を楽しんで欲しかったんだ……これは本当だよ」
「ひなたお前……」
「そういう事か。君がそう言うなら、私達が気を使うというのも無粋だな。お言葉に甘えて、多いに楽しむとしよう」
「そうしてくれると嬉しいです。島の案内なら任せて下さいね。たくさんいい所ありますからっ」
「うはは、そりゃいい。楽しみにしてるぜ」
俺達は昼飯を終え、ホテルへとバイクを走らせる。まだまだ、安美島の旅行取材は始まったばかりだ。




