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移行中  作者: あ
小田 ひなた編
21/106

#21 蓋をしたもの

 生まれたのが過ちだった。


『ねえあなた……あの子を引き取って本当によかったの? 私気味が悪いわ。変なものが感染しないか心配よ』

『仕方ないだろう。親等が近いから俺達に押し付けやがったんだ。ただまあ……俺達も何か適当な理由つけて、機会を見て親族にさっさと渡してしまおう』


 幼少期は、そう何度も嘆いた。親から受けた恐ろしい呪いが、この世界に降りた時から枷となって付いてきた。

 昔から血の繋がりというのが嫌いだった。子に代々呪いを受け継がせる血。私も見捨て、遠くへと逃げる外からやってきた血。呪いを恐れ、私を腫れ物のように扱い避ける、血。全部嫌いだった。

 何故、私だけがこんな目に遇わなければいけないのだろう。もう……そうして考えを巡らせるのも飽いた。その後は虚無でしかなかった。


『ねえ、おばさん』

『ひっ……な、何?』

『明日の運動会の──』

『こ、この絵本あげるから……ね? お願いだからこれ以上近寄らないで頂戴……!』


 呪いの独房の中で見つけた、小さな絵本。私に与えられた唯一の物。その絵本を読んでいる時は全てを忘れ、自分も物語のお姫様になれた気がした。その世界には愛と自由が溢れていた。物語の中にあるお姫様は、どれも輝いて見えた。

 シンデレラ──不幸なお姫様の元に舞い降りる突然の幸運。だが、幸せのきっかけを逃してしまい、後悔し泣くお姫様。けれど、自分が落とした小さなきっかけを頼りに、探し迎えにきてれる王子様。とても心踊るものだった。


『おじさん、おばさん。わたし絵本描いてみたの。お姫さまの絵本なんだよ。それでね、わたし──』

『部屋から出るなと言っただろう! 頼むから私達の生活に踏み入るな!』


 私のところにも王子様が迎えにこないかな。そんな幻想を何度も抱いた。けど現実の私は……呪われたお姫様。永遠に眠る茨姫。迎えの来ないラプンツェル。王子様に手を伸ばすほど、その王子様も傷つけてしまう。ああ、神様はなんて残酷な事をするんだろう。とても悔しく、悲しかった。私は灰被りの呪い姫。私はとっくにもう……全てを諦めた。


『わたしね……今日……おたんじょう日なんだ……』


 ────

 ──


「だーもう! 酔っぱらいすぎだっつーのセンセー!」

「はあぁいぃ……? 私が酔っぱらう訳にゃいだろおぉ? 早く次持ってこないとだなぁ〜……カスピ海に沈めるぞぉ? 北千住のチーママめえぇ〜……」

「何言ってるかサッパリわかんねえよ……センセー酒よえークセに飲み過ぎなんだよっ、もうちょっと自分の肝臓の心配してくれっていうかさあ」

「そりゃ、あんだけ飲めばそうなるわ……先生下戸なんだな。意外だ」


 本来の目的である現地取材。俺達はそれを忘れずにやった。町内会の人に話を聞いたものを、後で内容をまとめる事になってる。が……町内会の人達と盛り上がりすぎたのか、先生が酔いつぶれてしまった。顔を茹でダコみたいに真っ赤にしながら、木柴に全体重を預けている。いやあの……これ一応部活動の最中だよな……なんだよ、部活中に酩酊した教師を介抱する生徒って!


「って、あぁっ! 忘れてた筋斗雲〜!!」


 木柴が突然叫ぶ。なんだアイツ、ついに自分が孫悟空だって思い込み始めたのか? そんな事をしても、乗れる黄色の雲はやってこないぞ。相当重症だな……って、ああ思い出した。筋斗雲っていう黄金色のわたあめがあったんだっけ。


「ワリぃ佐藤! 俺センセー連れて先ホテル戻ってるから、筋斗雲わたあめだけ買っといてくれ! あれ食わねーで終わったら俺死ぬから!!」

「はいはい、分かった分かった」


 木柴は「マジで頼むぞ!」と言って先生に肩をかしながらホテルの方へと帰っていった。泥酔した女性をホテル(元ラブホ)に運ぶ男子高校生。うん、アイツそろそろ通報されるな。


「しゃあないな。わたあめ買って、俺らも早く戻ろうか」

「う、うん……」


 人が減り屋台も続々と閉まっていく大通りを、小田さんと一緒に歩く。カランコロンと小田さんの下駄の涼しげな音が響く。髪を撫でる仕草が艶やかで、いつまでも見ていられる気がした……そんな時ふと思う。これ……端から見ればカップルだよなあ。なんか妙に意識してしまう。隣を歩く小田さんの方をじーっと見ていたら、気付かれたのか目があってしまった。ちょっと恥ずかしい。さりげなく屋台の方へ目を背ける。

 屋台などの露店はまだまだ多く営業している。そういえば腹が減った。さっきの取材で、町内会の人達からもらった店のものを少しつまんだが、それでは胃にエンジンをかけただけにすぎない。露店から漂う匂いで余計に空腹を刺激される。


「ちょっとさ……わたあめ買ってすぐ戻るって言ったけど、あれナシにしねえ?」

「え?」

「店見てたら腹減ってきた」


 クスクスと小田さんは笑うと、すぐに嬉しそうに頷く。腹減ってたってのもそうだが、もう1つ理由がある。小田さんが──ちょっと寂しそうだったからだ。さっき戻ろうと言った時、明らかにテンション下がってたしな……歩いている時も、店をキョロキョロと見ていたのが、小田さんの方を向かなくても伝わってきていた。本人は隠しているつもりなのかもしれないが、表情やしぐさが分かりやすい。うん、なんか無垢な少女を見てるようで愛おしいな。ぐ……やべえ、ますます意識してしまう。

 俺はたこ焼きと焼きそば、小田さんは名物の牛串を購入し、俺達二人は空いていたベンチに座る。焼きそばとたこ焼きを、特に噛まずに飲み込み頬張る。ソースの香りがガツンと鼻に突き通る。この雑に振りかけられた調味料がまた無骨で旨い。新鮮だなあ、こういう屋台メシ。やっぱり外で食べる飯は格段に美味しく感じる。


「なんかさ……家の皿と家の箸で食べる焼きそばより、こうやってプラ容器と割り箸で食べる焼きそばって、なんか旨いんだよな」

「あっ、分かるかもそれ。ちょっと特別な感じして、美味しいよね」

「おっ、その牛串アタリじゃん、デカイし。あー俺も牛串買えばよかったな……」

「えへへ、オマケしてもらっちゃった。あ、佐藤君も食べる? 私一人じゃ大きいしこれ。はい、あーん」

「へ!? あ、あーん……」


 小田さんは自然に串を俺に向けて差し出す。確かに串状の食べ物はこうやって渡すしかないが……普通こういうの躊躇すると思うんだけど。多分自覚無いんだよなあ……無垢な少女こえぇ。


「ご、ごめん……冗談のつもりだったんだけど……」

「ぐふっ!?」


 まさかの急カーブに、咀嚼していたものを喉につまらせそうになる。小田さんは顔を真っ赤にして、牛串を持っていた手をプルプルと震わせている。全然自覚あったみたいだ。そんな反応をされたら、こっちまで恥ずかしくなってしまう。でもなんだか……そんな反応を見ていると可笑しくって、つい笑いが吹きこぼれてしまう。そんな俺を、小田さんは驚いていた様子だったが、すぐに可笑しくなったのか彼女も笑い出す。

 何故、こんな何気ない会話が可笑しく楽しいんだろう……もしかして、全国のカップルってこんな気持ちなのかな。む、なんだこの感情。俺まさか……小田さんの事……。


「ねえ佐藤くん。あれ、そうじゃない?」

「へ?」


 小田さんと屋台が並ぶ通りを歩いていると、とある屋台に目が行く。あれ? 屋台ののれんに『黄金のわたあめ筋斗雲』って……木柴が言ってたヤツこれかよ! 俺は早速屋台の方へと駆けていった。


「すんませーん。その、わたあめまだ買えますか?」

「おおっ、あんちゃんいいタイミングだな。ラストの分がいま出来たとこだよ。運がいいねえ」

「ラッキー。へえ、ホントに黄金だ……すんません、それ1つ下さい。友達に頼まれたやつなんで、袋入りので」

「む、あんちゃんは食べないのかい? この黄金わたあめはな、恋人同士で食べると、その愛が永久不滅になるって伝説があってよ。実際結婚までいったカップルもいたし、信憑性あるって評判なんだぜ」


 へえ……カップルが結婚か。地元のそういう伝説みたいなものか。っと、素直に思っていたが、直ぐ様おじさんに言われた意味を理解し、慌てて首を振る。


「えっ!? いやいやいや! 俺達そんなんじゃないっすから! その……友達だし!」

「そ、そうですよっ、佐藤君にはもっと素敵な人が……」


 顔を赤くしながら、顔と首を振る2人。その光景に、おじさんは腕を組んで豪快に笑う。


「わはは! 若いねえ、まあこれはオマケだ。もう1つ持ってきな!」

「え、いや悪いですよ!」


 何度も断ったが、無理やり押し付けられてしまった。カップル……カップルか……やっぱそう見えるんだよなあ。隣にいるはずの小田さんの顔が見れない。っていうか、急にすごい人ごみになったな。お囃子の音色と、お神輿を担いだ男たちが近付いてくる。メインの行事か? 集団が目の前を通り、熱気が直に伝わってくる。うお……ちょっとすごい……ふんどしの食い込み……うわ! おっさんのケツが腕に当たった!

 ようやく集団が過ぎ去り、辺りは先ほどの静けさを取り戻す。あれ、まって。小田さんはどこだ!? さっきまでいたはずの小田さんが隣にいなかった。さっきの集団とのすれ違いでか? 何分の間いなかった? ヤバい……すぐ探さないと! そうして辺りを見渡していた時、俺の端末に通知音が。小田さんからの個別メッセージだ。


『佐藤君 ごめんはぐれちゃったみたい

 私は自分一人で帰るから

 佐藤君も先に帰ってて大丈夫だよ ( ・∇・)』


 ────

 ──


「大丈夫だよ……っと。これで大丈夫かな」


 私はメッセージアプリの送信ボタンを押す。人混みにもまれてたどり着いた、祭りの様子を一望できる高台。顔を撫でる夜風が、火照った顔を冷やしていく。

 ああ、さっきはすごく恥ずかしかった。カップルに見えてたのかな……生まれてから今まで、恋心なんてものは生まれなかったのに。

 そもそも、何に対しても興味がわかなかった。呪いがあるから。でもこの学校に来て新聞部に入ってからは、少しだけ物事を楽しめるようになった。けどここ数日、楽しいとは別の感情がユラユラと揺れている。胸がチクチクと痛み、心臓が高鳴って体温が熱くなる。


「私、これ……佐藤君に恋してるのかな」


 今は少し顔を合わせたくない。ますます意識しちゃうもん。うう、どうしよう……私、生まれて初めて恋をしちゃった。ダメないのに。生まれちゃダメな感情なのに……何度それを振り払おうとしても、その手が動く事はなかった。


「あ、いたいた。小田さーん!」


 え? その声で私の身体はキツく硬直する。声の方を振り向けない。帰ってていいよと送ったのに。そんなどうして……どうして貴方は手を差し伸べてくれるの。下の階段から駆け上がる靴音、彼の吐息。その全てが大きく脳に響く。


「ふぅ……見つかってよかった。チャット見たけど……やっぱ、あんな物騒な事あって、女子1人で帰らせるワケにゃいかんと思ってさ。迎えに来たよ」


 私は見上げて待っているつもりだった。けど……その声は上にいる私へと自ら向かってきた。思えば……初めて会った時もそうだった。学校()を見上げる()を佐藤君は、私と同じく下から見上げて、一緒に上ってくれた。今何か、私の中でストンっと落ちる音がした。そっか……そうなんだ。ああ、佐藤君。貴方は私の──


「なんだか騎士みたいだね」

「え……?」

「私を守ってくれたり、こうして迎えに来てくれたり……やっぱりカッコいいね、佐藤君」

「え、ええ? いや、確かに先生に騎士みたく守ってやれって言われたけど、んなズバッと当てられて、面と向かって言われるとハズいな……は、はは!」

「佐藤君」

「な、なに?」







「私、あなたが好きです」







「ッ…………」


 彼の顔が、驚きから神妙なものに変わっていく。ああ、言えた。言っちゃった。顔から火が出るほど、とても恥ずかしいけど、ちょっと気分が晴れた気がする。でもやっぱり──


「小田さん……」

「あっ……ごめん佐藤君、付き合ってほしいワケじゃないの。ただこの気持ちを伝えたかっただけ。私多分、誰ともそういう関係になれないと思う……」


 嘘。本当は佐藤君と一緒に過ごしたい。恋人になって、いっぱい色んな場所に行って、いっぱい遊びたい。でも……どんなに楽しくても、私には不幸にする呪いがある。そのせいで、好きになればなるほど、悲しくなってしまう。返事を聞く前に、私は逃げるように嘘の笑顔を向ける。彼は呆れたように薄く笑う。


「はは……告白された側なのに、なんかフラれた気分だな」

「ごめんね……佐藤君……」


 たまらず視界がぼやける。久しぶりに、蓋したはずの嫌な感情を思い出す。何故……私はこうも不幸の元に生まれてきてしまったのだろう──







「私さ……遺伝の病気(呪い)であと3年も生きれないんだ……」


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