#19 ダンジョー祭り③
一方その頃……佐藤ペアは暗い暗い山道を、ランタンのみを頼りに進んでいた。存在しない肝試しとは知らずに。
「結構歩いたな……っていうか坂道ばっかで疲れてきたぞ。小田さん大丈夫?」
「ふぅ……ちょっと……疲れたかな私も……」
「ちょっと休憩しようか。ほらあそこ」
俺と小田さんは近くにあった東屋に腰を下ろす。丁度丘の上に設置されており、そこから祭りの様子が一望出来た。遠くに見える祭りの明かりがとても幻想的で、肝試しの最中なのを忘れてしまう。
「ねえ佐藤君、写真撮らない?」
「ん? 写真?」
「うん、思い出としてさ。写真撮るのって、どうしても私忘れがちでね。後々撮っとけば良かったってなるんだ。こまめに思い出を残しておきたいんだ……」
「そっか、そうだな。いいよ」
俺と小田さんは夜景をバックに二人で写真を撮る。彼女が近付くと、香り花のような良い匂いが、フワリと鼻をくすぐる。写真を確認した小田さんは、少し嬉しそうに笑う。個人チャットで送られた写真……小田さんの笑顔に少しドキッとする。ちょっと恥じらいのある笑顔とぎこちないピース。いいな……あどけない彼女の表情が心をくすぐる。
「よォ、何してんの君ら」
後方から声。振り返ると3人の男達──挑発的な改良がされた黒い制服を着た学生が近付いてきた。なんだコイツら……肝試しの参加者か? いや違うな、ランタンを持ってないし。逸脱した髪型と髪色。地元のヤンキー集団か……中心にいたリーダー格のガタイのいい男が話しかけてくる。
「おっと。んな女優は良いのに、男優が汚い声出すせいで全く集中できないビデオを見た時のような怪訝な顔すんなって兄ちゃん。別にちょっかい出しに来たんじゃねェよ。俺ら、パンピーに優しい終滅咾衆で通ってるんだぜェ?」
「流石だぜ戸田さん! よっ、通り名、歩く下ネタ!」
「ゲヒヒ……特技は胸の大きさと形で、女優が誰だか分かる事だぜェ」
オワリホロウ……? いかにも族っぽい名前だな……でもなんだろう。言動からして、特に怖いとも思わない。害は無いのかも。金髪の背が低い子分みたいな男と、長身の細い男は後ろでずっとヨーヨーを手のひらでグルグルと回してる。なんなんだよコイツら……。
「んで、さっきから尾藤さん、何やってんスか? それ屋台で買ってきたんスか?」
「螺旋丸の……修行……」
「おお。流石、小学生から思考が成長してないピュアハートな尾藤さんッス! かっけーッス!」
「お前ら、こんなとこで何やってんだァ? 景色楽しむにゃ、ちと遠出しすぎじゃあねェの?」
「何って……肝試しですよ。祭りの出し物の」
そう答えた瞬間、三人の顔が強張る。三人は顔を見合わせた後、子分属性の男がおそるおそる聞いてくる。
「肝試しって、もうやってねえはずッスよ……? 自分ら何に導かれて来たんスか……この山、一般人立ち入り禁止だし……」
一瞬で血の気が引く。ビビらせてるようにも聞こえないし、マジで言ってるのか? じゃあ、あの婆さん一体……。
「お前らもう帰った方がいいぜェ。最近の尾羽里の夜は物騒だからなァ」
「どういうことすか?」
「隣町のグループが最近侵略してきてなァ……俺ら地元の不良は一般人にゃ手を出さねェ暗黙の決まりがあるが、ヤツらはお構い無しだァ……最近しゃしゃり出てきやがった吐露非狩古鬱のヤツら! 3年前の終滅咾衆……全盛期程の力は無いってカチコミいれてきたんだァ! 確かに頭数は当日の半分以下になっちまったがァ……俺たちゃ地元民としてのプライドがあんだよォ!」
「へへっ、でも戸田さん、心配しなくてもウチにゃ神子田さんがいるッスから! 通り名稲妻の神子田のあの人なら、アイツらなんて相手じゃなぺぷら」
そうセリフを言い終わる前に、ッス男が突如として宙を舞う。
「宮田ァ!?」
「誰が相手にならないだって? クソガキが」
そこには10人程の男達が待ち構えていた。俺は咄嗟に小田さんを庇うように身を隠す。光の無い目付きに、鍛え上げられた筋肉。眉、鼻、口……顔面の至るところにあるピアス、首元の黒いタトゥー。マズイ。この雰囲気は間違いなく、半端に修羅の道を歩んでいない、本物の不良だ……釘バットなんて今時初めて見たぞ……!
「テメエら、吐露非狩古鬱のォ!」
「集会場所……確かにいい所だな。ここならケータイも繋がらねえし、サツも誰もこねえ。堂々とお前ら終滅咾衆をぶっコロせるなぁッ!」
「おっ! 見ろよ、カップルもいるぜ」
「え……」
「な、おう待てやァ! この人らはパンピーだ関係ねェぞォ!」
ギャハハハと笑い声が響く。クソ、最悪だ。巻き込まれた……肝試しの意味が違うっつーの! ヤバイんじゃないのかこの状況。相手は武器を持った10人……勝てる訳がない。警察呼べばいい話だが、ここは電波が繋がらないし、逃げるにも小田さんの体力と身体じゃすぐ追い付かれる……どうする?
「今の終滅咾衆にかつての力は無ぇ。世代交代だあな、大人しくシマ寄越せば、土下座と骨3本くらいで勘弁してやってもいいぜ?」
「終滅咾衆の幹部連中が来るまで時間ある。お前らノしときゃ、いい置き土産になるな」
「俺ぁそこの女の子がいいなァ……パパが悶絶するようなセクスィ〜なポーズで写真とりてー!」
「お、いいんじゃねえか? 別に人もこねえし、もっと悪いコトもできちゃうぜ♪」
その言葉を聞くや小田さんは、小さく悲鳴を上げ、怯えた表情で自分を抱く。俺には小田さんに被さるように守るくらいしか出来なかった。なんでこんな目に合うんだよ……!
「だからよォ、その人らはパンピーなんだよォ! 手を出すんじゃ……フガッ!?」
ガコン! と鈍い音と共に、戸田が腕を押さえながら膝から崩れ落ちる。不意打ちに、不良の一人が後ろから腕を思い切りバットで殴ったのだ。
「オラ、動くんじゃねえよ。綺麗に折れねえだろうが」
「ゴハァッ!」
「そっちの木偶もだゴラァ!」
「ウッ……!」
「もう終わりかよ。どんだけ腐ってんだよ終滅咾衆はよォ。もう殴る価値もねえゴミクズだ……ペッ!」
「うぅ……クソォ……」
「なんで倒れたままヨーヨー回してんだコイツ……」
あっという間に終滅咾衆の二人もやられてしまう。ポケットに手を入れながら、フラフラとした足取りで顔面ピアスの男が俺に近付く。背丈は俺より頭一つ分デカイ。屈んでいるせいか、より大きく見える。男は、俺に歪んだ笑顔を向ける。
「彼氏クーン。一般人みたいだけど、とりあえず君も寝とき……なァッ!!」
「グあッ!?」
「きゃあ! 佐藤君っ!」
溝尾に不良の蹴りが入る。痛い、苦しい、息がつまって呼吸が出来ない。初めて対峙する本物の不良。ぬくぬくと表の世界で育って来た俺とは全く違う人種。イバラのような恐怖が俺の心を支配する。木柴はこんな事が日常だったんだろうか……クソ……怖いと思っている自分が情けない。
「よーし、とりあえずちょっと君こっちきてよ」
「ひ……」
不良の手が小田さんを摘まもうと迫ってくる。そして俺はすぐに、痛みを忘れて立ち上がる。
「おらァッ!!!」
「ガハッ!?」
気が付くと俺は、そこにあった木の棒で男の顔面を叩いていた。自分でも一瞬何をしたのか分からなかった。頭より先に身体が動いていた。小田さんを守るために。
「剣道三段なめんなよ……」
「……ッてぇ〜な。頭クラっとしたぜ。ナメた事してくれんじゃん彼氏クン」
チッ、力一杯叩いたつもりだったが……木が柔らかかったか。そして、この一撃によって男達全員のギラついた目線が俺向けられる。耳の辺りがじんわりと熱くなっていく感覚、自分の鼓動が高鳴っていくのを感じる。
「クックック……枝を構えて、彼女を守るための騎士気取りか? カッコいいねェ?」
「オォイ……何やってんだお前ェ……パンピーが首突っ込むんじゃねェよォ……!」
「佐藤君……」
「小田さん、俺の後ろに」
クソ……流石にこんな棒切れじゃ、漫画みたいに気絶させるのは無理だ。せめて竹刀があればな……これじゃただヘイトを集めただけだ。俺はリンチされる覚悟で小田さんの前に出る。せめて彼女だけは俺が守ってやらなければ。恐怖に包まれながらも、その一心だけは変わらない。
「ハンッ……結局、いい格好しいのヒーロー気取りかい。イラつくんだよなぁ……今時そういう正義漢はよォ!」
「くそッ……!」
「佐藤君っ!!」
小田さんを庇い目を瞑ると同時に、パァンという乾いた音が鳴り響く。おそるおそる目を開けると、今殴りかかってきた男が地面に突っ伏していた。
右足を天に突き上げた金髪の男。地面に倒れていた戸田が、その姿を見て目を丸くする。
「あ、アンタはァ……神子田さん……!」
「よう戸田。道中変なのに絡まれてよ、吐露非狩古鬱のヤツらが喧嘩売りに来たって聞いたから、急いで来たぜ。が、少し遅れたみたいだな。アンタらも平気か?」
「うおぉ……相変わらず容赦ねー蹴りだな神子田……」
「佐藤クン、ひなたサン! 大丈夫か!」
後方から木柴と先生もやってくる。よかった……心配しに来てくれたみたいだ。
「誰だゴルルァ!!」
「んだテメェら! ぶっ殺すぞクソがァ!!!」
顔面モロにくらった男は起き上がらない。それを見た古鬱の男達が一斉に怒鳴る。これ……一瞬先生達が来てくれたのに安堵したけど、状況は何一つ良くなってないんじゃ……嫌な緊張感が辺りを漂う。どうしよう。




