#18 ダンジョー祭り②
俺と小田さんは、ランタンの僅かな明かりを頼りに、先の見えない暗闇を進んでいく。うぉ……予想通り、いやそれ以上に雰囲気出てるな……苔のついた石灯篭と、しめ縄の結ばれた朽ちた石柱が並ぶその通りは、まるで冥土への入り口。さしずめ日本神話に出てくる黄泉比良坂といった所か。マジで洒落になんねえ……ガチすぎるだろ!
「すごい暗いね……足元転びそう。ああ、でもなんかいいかも。こういうの」
小田さんは冷や汗をかきながらも、何故か少し嬉しそうだ。
「なんかさっきとは違うね小田さん。怖くないの?」
「うーん……怖くないって言ったら嘘になるけど、こういうの憧れてたんだ」
「心霊スポット巡りの肝試しが? そりゃまた酔狂な……」
「肝試しもそうだけど、こうやって同級生同士でお祭りを楽しんでるって感じ? それがすごく新鮮なの。友達とか大人数で来たこと無かったから……」
「そりゃあ意外だな。友達多そうなのに」
「ううん。私が病弱なのもあるけど、ここに来る前まで、短い期間で学校を転々としてきたから、友達は少なかったの。中学からの知り合いも猿弥くらいだしね……光宙にいないワケでもないけど……少し怖くって」
そうか、家の事情があったんだな。余計な詮索をしてしまった。しかし、怖いってどういう意味なんだろう?
「とりあえず行こうか。さっさと終わらせちゃおう。こんなトコいつまでもいたくねえし……」
「うん、そうだね」
────
──
佐藤小田ペアが出発して3分。木柴は奥へと続く入り口を、腕を組ながら見据えていた。
「ボーッとしてどうした木柴。行かないのか?」
「いや……吊り橋効果ってホントにあるのかなーって考えてた」
「ん。ああ、外的要因による緊張状態を、脳が恋愛感情だと錯覚して相手を意識してしまう……というアレか?」
「そうそうそれ! あれホントにあったら最強じゃないか?」
北条はため息を吐くと、木柴の頭を手のひらでぺちっと軽く小突く。
「全く何を考えてるんだが。10年早いわ小僧」
「いやセンセーもそんな離れてないだろ……ってチゲーよ。あいつらの事だよ」
「む、なんだ。お前はひなたサンと佐藤クンをくっ付けたいのか?」
「いやまあ……そうハッキリ言われると答えにくいんだけど」
「ふむ、小田サンと佐藤クンか。好奇心旺盛なか弱いお嬢様と、冷静に物事を対処するクールな騎士。フフ、なかなか合いそうではあるな」
「へへ、だろ? 佐藤ならさ、ひなたの全部を受け止めてくれるって俺思うんだよなあ」
「……そろそろ我々も行くとするか」
「んだな。って、あれ? アイツ……」
木柴は後方にいた一人の黒いジャケットを着た金髪の少年に気付き、駆けて行く。
「おーい、神子田! 俺だよ俺、久しぶりだな!」
デカイ声で名前を呼びながら近付く木柴に、少年は一瞬怪訝な表情を見せたが、木柴を顔を見るや直ぐに目を丸くした。
「き、木柴さん!? なんでここに!? ハルダン来てたんスか?」
「はっはっは。ちょっとだけな。お前こそなんでここにいるんだ? 珍しいなあ、喧騒嫌いのお前が祭り来るなんて」
「いや、俺はこれから……って、その人は? まさか彼女ですか?」
神子田の正直な疑問に、北条は笑って見せる。
「ハッハッハ、冗談はよせ少年。私は高校の教師だ。木柴が所属している部活の顧問さ」
「教師? 俺らとそんな変わんないように見えるッスけど……」
「うん、まあ、ぶっちゃけ10歳も変わらないしな。俺ら今部活の取材でここに来てたんだ。グルメスポットになったココにな。んで、今は屋台楽しんでたってワケ。初っぱな肝試しつれてかれたけど……」
「肝試し……?」
「ん、あるだろ? ほら伏贄山のだよ。そこでやってる」
「え、そこの伏贄山の? もうやってないはずッスよ。なんかガチの事件とかあったみたいで、立ち入り禁止になってるし」
「うん……?」
木柴の顔から血の気が引いていく。振り返ると、先ほどまで確かにいたはずの老婆が消えている。しかも看板も。
「うおおおぉぉ! なんでぇ!? なんで何も無くなってんの? どうなってんだよ……アイツらもう先行っちゃったんだぞ!」
「そうか、道理で周りに、人っ子一人いないワケだ」
「感心してる場合かよセンセー! どうすんだよっ、まさかあの婆さんガチの幽霊……」
「知り合いが入っちゃったんすか? あー……ちょっとマズイかも」
「ど、どういう事だよ神子田……」
「今回の"終滅咾衆"の集会、場所は伏贄山の麓なんですよ。あそこ電波繋がらないから連絡も出来ないし」
「なんだって!?」
「またすごいネーミングだな……知っているのか? 木柴」
木柴の頬を、冷や汗がつたる。
「俺が昔、所属してた不良グループだよ。あまり会わせたくねえな……センセー!」
「分かっている。すぐに向かうぞ!」
「よし、俺もそろそろ集会行くんで、ついていきますよ!」
「ああ、ありがとな神子田。よっしゃいくか!」
北条はタバコの火を消して、近くの灰皿スタンドに吸殻を捨てると、持ってたワインをラッパ飲みし、急ぎ足で佐藤が消えた道へと向かっていく。その姿を見た神子田は木柴にそっと耳打ちする。
「あの……木柴さん。教師って着物来てタバコと酒を片手に、生徒と一緒に祭り楽しんでいい立場なんスか?」
「あ、ああ、あの人は特別なんだ。そうだよなあ……今まで麻痺してただけでフツーに考えたらおかしいぜセンセー……とにかく、俺達も行くぞ!」
「はい、木柴さん!」




